1ボコ目
この世は拳の嵐で赤く染まる戦乱の時代、喧嘩を生業として活動する「フルーツパンチ族」略してフルパンという一族が存在していた。
彼らは半年に一度、猛獣が跋扈する砂漠の中心部で開催されるハムシコロシアムという大会で闘いを繰り広げている。そんな中一人切実な思いを馳せて参加した者がいた。
「今月分の乾パンと水がなくなりそう、なんとしてでも勝ち上がらなきゃ」
この少年の名はイキ・ノコリ。彼の両親は彼が生まれた直後に亡くなった。死因は食料のサボテン収穫をしている時、突然地中から現れた巨大ワーム達の襲撃だった。
普段は大人しいデカブツと聞くが、貴重な食料源を取られたことから怒りを買ってしまったらしい。
過ごした時間は短かったけれどこの世に産んでくれたことに感謝し、両親の分まで寿命を全うすると心に誓っている。
「賞金は100トッンだから一生分の食料どころか家だって買える、頑張るぞー!」
優勝を目標に意気込んでいると肩に軽く手が置かれた。
「おいおい冗談はよせよ、あんよ覚えたての甘ガキがよ。お漏らししてもママは助けてくれまちぇんよ?」
「じゃあ見られるの恥ずかしいんでコロシアム辞退してくれませんか? そしたら生きる確率上がるので」
「いーーよ、兄ちゃんは優しいからな、100トッンくれたらいーーぜ」
イキはやれやれと燃えるゴミを見る時と同等の眼差しで背後に立つ男を見た。コイツの名は……って言おうとしたが初対面だから何にもわかんない。とりあえず見た目の特徴から言うならとさかみたいな髪型、三日月みたいな鋭いツリ目、出しっぱなしの舌、これらを総じて頭の悪そうな奴と第一印象を定めることができた。
「おい坊主を虐めんなよ」
子供と大人?(頭の悪そうな奴)の中で起こる空気感に耐えかねてもう一人男が駆け寄ってきた。思わず二人の雰囲気を比べてみる。
なんということでしょう……背後のとさかわる頭とは対照的に雲も嫉妬しそうなゆるふわ金髪パーマ、リスが手を滑らしたお陰でハマったクルミみたいなまんまる瞳、全体的に小動物っぽい可愛さがある。が、そこに左右端にかけてシャープな眉毛もあり知的な要素も兼ね備えていた。この足し算ちょい色っぽいな。
「あんだテメェ〜? 優男みたいな顔しやがってこのガキの親かなんかかあ〜?」
「いや違う、ただ坊主に興味があってな」
「う、おぇ〜おっさんそういう趣味持ってんのかよ〜まあでもわかるぜ、ガキはすぐに泣くからやめらんねえよなぁ〜」
とさか頭わるアタマは同志を見つけたと言わんばかりに糸目で歯茎を出しながら優男に肩を組んだ。
「遠目で見た時から下品なヤツだとは思っていたがここまでとはな……救いがない」
「は?」
組まれた腕を勢いよく振り払い、冷たい半目でとさか下品アタマ男を見つめる。
「何してんだテメェ〜やんのか今ここで?」
「ああ、俺は別にそれで構わないけどな、今からお前を戦闘不能しておけば坊主との闘いに集中できるしな」
「ガキと闘うだあ〜? ごっこ遊びすんならよそでやれや」
「心配するな、お前とやるごっこには敵わないから」
「んだとっ!!!」
投球フォームさながらに顔面めがけて拳を振り上げた。
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