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第9話 救いは空より来たる、救けは森に至る

 鬱蒼と生い茂る木々はあらゆるものの侵入を拒むように枝葉を伸ばして天を閉ざす。

 日光を奪い合いながら成長した木々が乱立する、人の手が入らない森の中は常に薄暗かった。


 重なり合う葉と葉の隙間から、かろうじて見えた空の色を確認し、ミュゼはほぞを噛む。


 日が沈んでしまう。早く見つけないと。


 森に入ってからかなり時間が経ったのに未だ、投げ捨てられた魔石を見つけ出せないでいる。

 方角はあっている。場所もこの辺りのはずだ。

 ライウスに弾き飛ばされた魔石が消えた方角は常に確認しながら進んできた。落ちたであろう場所も町から視認できる距離で、何キロメートルも離れているわけではない。


 それでも森を進むのに時間がかかりすぎた。

 森を歩くのに慣れていないせいもある。危険な森に対する恐れもある。

 しかし、1番の理由は慎重さ故だ。

 引き留めるような振る舞いを見せたテンテンを払いのけ、誰にも告げぬまま危険な森に1人で立ち入りながら。ギリギリのところでミュゼは慎重だった。

 道に迷わないよう目印を立て、木々の枝のつき方や苔の生え方を注視して方角を確認しながら進んできた。

 慎重に進んだ理由は迷わないためだけではない。


 森には魔物が住む。

 多くの危険が存在する森において、その最たるもの。人類の敵性存在。

 魔物の存在を警戒し、見つからないようになるべく気配を消して移動していたからこそ、これほど時間がかかってしまったのだ。


 魔物。それは《原生魔力(げんせいまりょく)》に侵された生き物の末路。


 神話の時代に死した六罪竜の亡骸は、神の手により大陸となってから今の世に至るまで絶えず魔力を生み出し続けている。


 自分たちを滅ぼした人類への呪詛と共に。


 この六罪竜が生み出す呪詛混じりの魔力を《原生魔力(げんせいまりょく)》という。

 《原生魔力》自体は魔力溜まりと呼ばれる高濃度の魔力が滞留するエリアに足を踏み入れない限り、即刻命に関わることはない。

 しかし、長期間原生魔力に晒され続けることで動物に対して不可逆の状態変化を齎す。


 それ即ち、魔物化。


 生物の体内に蓄積した《原生魔力》が結晶化し、見た目や生態が完全に変化してしまう。

 魔物化自体は飛竜の棲息しない地域の野生動物に多く見られるが、ごくたまに人間も魔物化してしまった例があると聞く。


 白の盟主が人類に与えたもうた飛竜達による魔力浄化の加護がなければ人類はとっくに滅んでいただろう。

 最早生存する人類はいないとされる魔大陸、黒の大陸。そこにかつて存在した亡国ユヴェン・キシリーのように。



 遠い昔、飛竜との絆を手放した結果破滅したという国のあらましを思い浮かべながら周囲を見渡していたミュゼの目に、探し続けたものが飛び込んでくる。

 一本の大樹の根元。ライウスにより森に投げ捨てられた皮袋が転がっていた。


「……ッ!」


 走り出したい衝動を抑えて、なるべく音を立てないよう早足で近づく。

 屈み込んで、おそるおそる袋を拾い上げると、音を立てないよう注意しながら皮袋の中身を確認する。

 しっかり口を縛っていたおかげか、魔石の数は減っていなかった。


 立ち上がって天を仰ぐ。

 大樹が成長途中で他の木々を駆逐したのか、他の場所に比べて木の枝の密集具合が薄い。

 奇跡的と言ってもいいだろう。

 これが背の高い木々の枝に引っかかっていたら取れなかっただろうし、そもそも見つけられたかどうかすら怪しい。


 よかった、幸運だった。


——そう安堵したのも束の間。


 ぱきり。


 枝を踏む小さな音が静かな森に、大きく響いた。


 ミュゼではない。音はミュゼの前方、木々の根元を覆う草むらからした。


 ぱき、ぱき。


 ぱきん。ぴし。


 一つの音に気付くと、あちらこちらで同じように枝や小石を踏む音が聞こえる。

 この場に聴覚の優れた冒険者、レンジャーがいれば気付いただろう。音の主達が既にミュゼを取り囲んでいることに。


 しかもミュゼのように気配を隠すつもりがない。


 ———つまり。隠す必要が、ない。


「…………ッ!」


 むしろ今まで接近を気付かせないでいたのにわざと足音を立てている様は悪辣さすら感じさせる。

 最悪の可能性に思い当たったミュゼは、それでも死角を減らそうとすぐさま大樹に背中を預けた。


 呼吸が浅く早くなり、冷たい脂汗がこめかみを伝う。恐怖で湧き上がる涙を拭う余裕もなく、ただ手中の皮袋を握りしめる。


 震えるミュゼの反応を愉しむように、草むらを揺らし、『それ』はぬるりと姿を現した。

 


 魔狼。

 森に棲息する狼種が《原生魔力》の影響で魔物化した姿。

 立ち上がればミュゼを頭二つ分はゆうに超える程の黒い体躯。燃えたぎった石炭のような赤い目をギラつかせ、鋭い歯がずらりと並ぶ大顎からぼだぼたと粘度のある涎を滴らせている。

 1匹が姿を現したことで他の個体も木立の影や草むらから顔をのぞかせる。


 その数、5。

 絶望的な数だった。

 1匹であれば手足の一つ二つ捨てる覚悟で助かる可能性がなくもない。

 しかし5匹では。

 跡形もないだろう。


 涙すら流せなくなったミュゼの絶望を見てとったのか。最初に現れた魔狼の雰囲気が変わる。


 にたり。


 魔物の表情などわかりようもない。そもそも人間と違い野生の生き物に笑うという表情は存在しない。

 しかしミュゼの正面に立ち塞がる魔狼は確かに、赤く燃え盛る瞳を撓ませて、邪悪に嗤った。


 鋭い牙を見せつけるかのように歪んだ笑みを浮かべた魔狼の脚が地を蹴り、獲物(ミュゼ)との距離を詰める———


 バキバキバキバキッ!


 ———涎を撒き散らす大顎がミュゼを捕えるより早く、天蓋のごとく空を閉ざしていた枝葉をへし折って、空から重量のある何かが落ちてきた。


 それは狙い定めたかのように、ミュゼの眼前へと迫っていた魔狼に悲鳴を上げる隙すら与えず、勢いよく押し潰す。


 肉が裂け、骨が砕ける生々しい音に、魔狼の潰れた肺から押し出された空気がぷぎゅっと間抜けな音を重ねる。


 圧殺された魔狼に続けとばかりにミュゼに襲い掛かろうとしていた他の魔狼が、慌てて蹈鞴を踏む。

 文字通り降って沸いた頭上からの乱入者に、魔狼達は殺戮の愉悦に染まっていた顔を困惑と警戒に変えて距離をとった。


 ミュゼもまた驚愕に目を見開く。

 そこには二重、三重の意味で、ありえない光景が広がっていた。


涙に滲んだ視界いっぱいに広がる美しい青。


ぶるりと身震いして身体にまとわりついた木末を振り落とす、飛翼の生えた背中。


 大人の飛竜に及ばない未成熟な体躯と色斑のない青い鱗。

 自らが踏み潰した魔狼を汚物でも見るように睥睨した飛竜は、その死骸をなるべく触りたくないとでも言いたげな仕草で蹴り飛ばした。

 賢しらで、どこか人間くさい仕草。

 ここに居るはずがないのに。


「……テンテン」


 掠れたミュゼの声に反応して、飛竜が顔だけは魔狼に向けたまま、ちらりと金色の目を向けた。


 何故とか。どうしてとか。どうやってとか。ミュゼの頭を埋め尽くす疑問全てに。満月のように明るい金色の瞳が雄弁に答える。


 助けに来たのだ。ミュゼを追って。


 止まったはずの涙が溢れ、滂沱のごとく頬を伝う。

 涙の理由が自らの不甲斐なさからくるのか。大切な仔竜を危ない目に合わせてしまった罪悪感からなのか。あるいは安堵からくるものか。ミュゼ自身にもわからなかった。


 あらゆる感情が小さな身体の内側で嵐の様に吹き(すさ)び、目の前に迫っていた死に今更ながら手足が震え出す。

 本当は今すぐ駆け寄って怪我がないか確認したいのに。声をかけてあげたいのに。


 ガタガタと震えるミュゼの背中を鱗の並ぶ器用な尾の先が、いたわるようにひとつ撫で、ゆっくり離れた。


 魔狼の群れからミュゼを守るように、子どもの飛竜は小さな体躯を少しでも大きく見せようと後ろ脚で立ち上がり仁王立ちになる。

 長い尾を大きく横にくねらせ、威嚇の姿勢で取り囲む4匹の魔狼を順繰りに睨む。

 テンテンが畳んでいた翼を大きく広げると、翼から放出された《純正魔力(じゅんせいまりょく)》が魔狼たちに叩きつけられた。


 《原生魔力》を飛竜が体内で浄化することで生まれる《純正魔力(じゅんせいまりょく)》。

 魔物にとって忌避すべきそれに煽られ、怯んだ魔狼の群れはジリジリと後退る。


 魔物は本能的に飛竜を避ける。《原生魔力》によって存在する魔物からしてみれば《原生魔力》を浄化する飛竜も、彼等が生み出す《純正魔力》も天敵ゆえに。


 しかし魔狼達は後退りしながら、なおも悔しげにテンテンを、否。背後に匿われたミュゼを睨め付けている。


 六罪竜の呪詛が影響しているのだろう、人間を積極的に襲う本能も持ち合わせた魔物である彼らは、天敵からの逃亡を取るか、獲物への執着を取るかで逡巡しているようだった。


 逃走か、強襲か。

 迷いから生まれた僅かな隙。それが魔狼の命運を分けた。


「ギャウッッ‼︎」

「ギャボッ‼︎‼︎」


 ミュゼとテンテンに完全に意識が向いていた魔狼たちを狙い、木々の間隙を縫うように2本の矢が飛来した。

 矢は過たず、4匹のうち2匹の頭と首を貫き、あろうことか大人の拳ほどの大穴を開けた。ただの弓矢の威力ではない。

 残った2匹が身構えるより早く、木立の影から剣を構えた人影が飛び出す。

 鎧に身を包んだ剣士。よく見ればその格好は町の治安を守る衛兵に支給されるもの。

 衛兵は飛び出した勢いに任せ、1匹の横っ腹を蹴り飛ばす。そのまま手にした剣を水平に払い、もう1匹の頭部を横薙ぎに切り飛ばす。

 斬撃を受けた魔狼は後頭部の皮一枚が辛うじて繋がったまま、血肉を飛び散らせ大口を更に大きく裂いて絶命した。

 蹴り飛ばされた方も生きてはいるが金属プレートで作られた脛当の一撃で骨を砕かれたのだろう、苦しげにもがいている。


「いたぞ、こっちだ!」


 剣を構えたまま衛兵が声を張り上げると、応えるように段々と大きくなる無数の足音。


「あっちだ!灯りを先行させろっ」

「周囲の警戒、怠るな!」


 数の不利を悟ったか。あるいは仲間の全滅に戦意を失ったか。魔狼の最後の1匹は蹌踉めきながら逃げをうつ。


 その頭部が柘榴のように弾け飛んだ。


 首から上を無くした身体は糸が切れたようにふらりと傾いで地面に崩れ落ちる。


 矢の放たれた先には軽鎧に身を包み、普段の穏やかな様子からは想像もできない厳しい表情で弓を構えたヤフィスがいた。

 最後の魔狼が地に付したのを確認すると、弓を手に転がる死骸を飛び越え1人と1頭の元に駆けつける。


「ミュゼ!……テンテンも!無事か?!」

「お、お父さん!」

「ミュゼどうしてこんなッ……!——いや、無事で良かった。本当に心配したよ……」

「ご、ごめんなざ……おど、ざん」


 駆け寄ったヤフィスは彼にしては珍しく強い口調で詰め寄ろうとして————結局、激情を飲み込んで、ただミュゼを強く抱き締める。

 ミュゼもまた泣きじゃくりながら父にしがみつく。

 親子の無事の再会を小さな飛竜は大人しく見守っていた。


「子どもは無事発見した!放竜した飛竜も発見!」


 衛兵の1人が仲間に状況を知らせるため声を上げる。辺りからめいめいに安堵の声が返った。

 先行していた剣使いの衛兵とヤフィス以外の捜索隊員達が集まりだす。


 その集団には深緑の鱗を持つ飛竜の姿もあった。頭に無口頭絡と呼ばれる制御具が取り付けられており、先に続く手綱を握る男に大人しく従っている。


「ヤフィスさん、娘さんは大丈夫ですか」

「はい。エルナスさんもありがとうございます」


 飛竜を連れた男が近寄ってヤフィスに問いかける。

 連れられた緑の鱗を持つ飛竜は慣れない場所に怯える様子もなく、見慣れない仔飛竜であるテンテンを興味深げにスンスンと匂いを嗅いでいる。

 かと思うとすぐに興味を失って、近くの梢を啄みだす。


 なんだこのマイペースな飛竜……。とでもいいたげなテンテンと構わず枝葉を咀嚼する飛竜のやりとりを他所に、ヤフィスはエルナスと呼んだ男に頭を下げた。


「すみません。本来なら私のところから飛竜を連れてくるべきだったのに——」


 我が子が初空から戻らず行方不明になったマリカミストの狂乱ぷりとそれに触発され落ち着きを失っていた牧場の飛竜たちを思い出し、ヤフィスは肩を落とす。


「彼らは群れで暮らす生き物ですからね、仔竜が行方不明ともなれば殺気立っても仕方ないですよ。困った時はお互い様です」


 緑の飛竜に道草を止めるよう手綱を軽く引いて、ガヴィラン竜牧場の跡継ぎであるエルナス・ガヴィランは鷹揚に笑う。


 彼は森に捜索が入ると聞いて魔物避けにと自らの牧場で飼育している飛竜を連れて参加してくれたのだ。

 竜牧場において飛竜は最も貴重な財産。本来であれば軽々しく連れ出すことはしない。

 それでも飛竜の貸し出しを請け負ったのは行方不明になったのが子どもで、しかも竜牧場の跡取り娘だからだ。


「よし。全員揃っているな。飛竜二頭がいれば安全だとは思うが、夜になる前に戻るぞ」


 捜索隊を率いる衛兵が隊員の人数確認を終えて号令を出す。炎ではなく魔法の光が灯るカンテラを手にした隊員を先頭に、一行は周囲を警戒しながら森の出口を目指して歩き出す。

 テンテンも大人しく引き綱をつけられ、ヤフィスに引かれてそれに続く。


「——ところで、この仔は今年産まれた飛竜ですか?初空が早いですね」


 道すがら投げかけられたエルナスの疑問に、ヤフィスは腕にミュゼを抱えたまま苦笑する。


「ああ……いや。今朝まで初空はまだだったんです。それこそ今日娘に魔石を買いに行かせたところだったので」

「えっ?!——ということは、自然初空ですか!初めて見ましたよ」


 驚きに目を見開いたエルナスがまじまじとテンテンを眺める。


 多くの竜牧場が魔石を用いて初空を促す人工初空に対し、飛竜達による自発的な魔力譲渡からの初空を自然初空という。

 竜牧場での飛竜管理が厳格化された昨今では自然初空は野生の飛竜でしか見られない。その野生の飛竜自体も人里離れた場所に生息していることが多く、自然初空を見ることができるのは大変稀である。


「なんとも貴重な……。白の盟主様の思し召しですね」

「ええ、本当に」


 エルナスの月白教信者らしい敬虔な言葉に頷く。

 ミュゼの行方不明に重なるように自然初空によって放竜してしまったテンテン。

 弟夫婦から話を聞いた時はこの世に神はいないのかと頭を抱えたくなったが今なら神の、あるいは白の盟主の導きだったのだと確信できる。

 この奇跡がなければ大切な我が子は魔狼に八つ裂きにされていただろう。

 テンテンに庇われていた我が子の姿を思い出す。

 親として悔しい限りだが自分達だけでは間に合わなかった。

 テンテンを遣わしたもうた神の御心に感謝しつつ、腕の中のミュゼを抱き締める手に力が籠る。


 久しぶりに抱き上げた我が子は、随分と大きく重くなった。ヤフィスにとって何にも代え難い命の重み。この愛しい重みを永遠に喪ったかもしれない想像に血の気が引く。

 同時にどうしても確かめなければいけないことがある。


「……ミュゼ、どうしてこんな無茶をしたんだい?」

「……」


 ヤフィスの問いかけに腕の中ミュゼは黙りこくったまま、肩口に頭を埋めている。

 言うべきかどうか迷っているのだな、とヤフィスには解った。


「言いたくないことなんだね?……でも僕は君にもうこんな危険な目にあってほしくない。君が辛い時、悲しい時、いつだって君の力になりたいんだ。頼って欲しいんだよミュゼ」


 頭の横で鼻を啜る音がする。首に回された手が背中の革鎧をぎゅっと掴む感覚。


「いじわる、されたの……学校の子に」


 囁くような声。


「魔石の入った袋、取られて……ッ。森に、投げ捨てられ、て」

「——そうか。それで自分でなんとかしようとしたんだね。」


 ほんのわずか、頷く気配にヤフィスは湧き上がる憤りを押し殺すため溜め息を吐こうとし。

 思いとどまり、鼻で大きく息を吸って吐いた。

 自分が怒りを表に出す。そんな些細な挙動で傷ついた我が子を不用意に追い詰めるかもしれないと考えて。

 細心の注意を払い、言葉を選ぶ。


「ミュゼ、君が頑張っていることは知ってるよ。きっと一人で頑張って耐えていたんだろう?だけど世の中には一人ではどうしようもないことが多いんだ。そして子どものキミがどうしようもなくなった時に、君のために頑張るのが(ボク)の役目だ。ここからは僕に頑張らせてほしい」


 しばらくの間を置いて、押し殺した嗚咽が森を歩く無数の雑踏に混じる。

 親子のやり取りが聞こえているであろう周囲も気を遣ってか、誰も何も言わなかった。


「…………ヤフィスさん」


 捜索隊一行が立てる森の影を踏む音しかしない中、隣から気まずげにエルナスが何かを言いかける。

 それをヤフィスは静かに首を振って押し留めた。


 町中でミュゼを探した時に集まった幾つかの目撃証言。

 そしてミュゼの言葉。

 ヤフィスもエルナスも察するものがあった。


「まだ、確証がありませんから」

「……確認を、取ります。必ず」


 硬い声で、しかしきっぱりと宣言したエルナスに小さく頭を下げたヤフィスが、ふと視線をテンテンに向ける。

 もうすぐ森の出口。切り開かれた木々の切れ目からは灯された明かりが見えた。


「さて、おチビさん。少し遅くなったがありがとう。キミが居なければミュゼは本当に危ないところだった」


 ヤフィスの言葉を理解しているかのように、小さな飛竜がスイと首を反らせ胸を張る。晒された首筋を手綱を持った手でヤフィスは優しく撫でた。


「初空おめでとう。これでキミも大人の仲間入りだ」


 がちゃん。

 祝福の言葉と共に首の付け根に何か冷たいものが取り付けられる。





 えっ。がちゃん?

 さよなら自由な生活、ようこそ競竜生活。


距離の単位は創作しようと思ったのですが読み進めやすさと理解しやすさからKmを採用しました。

 今後重さや大きさを表す単位を使う場合も同じように現実準拠にしたいと思っています。

 実際にはこの世界独特の距離の単位があって、それを翻訳している。というように解釈していただければ幸いです。



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― 新着の感想 ―
えがった〜(泣 からの拘束具で草w そっかー、うんまぁそうなんだなw 切ないね!
このエピソードはミュゼが大ピンチなのですがとても大好きなお話なのです 流石にこの初空の由来はファンにも知られていないのでしょうか この地方の一部住民の間だけで知られているのかな? 何かの拍子で広まった…
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