女王との謁見(2)
「これが、この世界の昔話だ」
「………」
この世界、メルフェリーネに語り継がれる物語。
本当にあったという…過去の出来事。
神様が創り出した世界と動物達、そして徐々に起きてしまった争い。
そこに現れたアリスという少女。
そうか、
「……救世主ってそのアリスのことだったんだ」
アリスの名を聞いて思い浮かんだのはあの童話の主人公。
不思議な世界を不思議な体験をしながら冒険するあのお話。
けれど、この世界の昔話はその話とは少し違っていて。
童話と同じように好奇心旺盛な女の子。
でも童話とは違って、世界を回って色んな場所へ冒険をしたり、困っている人や争いを解決したりしていった優しくて勇敢な人。
ここではない世界…つまり、アレクと同じように別の所からこの世界に来た存在で、争いが絶えない世界を身一つで救った童話と同じ名を持つ女の子。
それがこの世界に語り継がれる救世主『アリス』。
世界を救ったというアリスとは違うけれど、彼もまた別の所からこちらへ来た存在だ。
じゃあ、つまり…?
「ルーアが救世主って言ったのは…オレがここじゃない世界から来た人って言う意味で?」
「…………えっと、それも…ありますが……」
歯切れ悪く返答するルーア。
…どうしたのだろう。
その様子に、女王はふぅ…と息を吐く。
そしてゆっくりとアレクへ視線を向けると口を開いた。
「…救世主は確かに昔話に出てきた少女のことであり、別世界から来た存在を意味している。
だが、実際は少々違う。
………先程、お前が言っていただろう」
じっとこちらを見つめ問う女王の言葉に、彼は少しの間で考える。
「………この世界に異変が起きた時に現れる」
「そうだ。
救世主とはこの世界に異変が起きると現れる、異世界からこの世界自身に喚ばれた、世界を救える存在の事だ」
この世界が………喚んだ?
「お前の持つ鍵、それが救世主の証でもある」
「この鍵が」
そういえばルーアも言っていた。
鍵を持つって。
アレクは首にかけていた鍵を出し手に取ると、そしてそれを見つめた。
この鍵は元々今は亡き父からもらったものであり、そして形見なのだが。
こうして女王を、そしてルーア、リオーレの表情を見れば嘘をついているなどとも思わない。
「今では語られてるだけの話しか事実も何も分からんが、その鍵は世界を救う為の重要な役割があるのだと思う。
実際何をどうするかは知らんがな」
そういえば………昔話の中で、「不思議な扉」を鍵で閉めたとあったな。
じゃあこの鍵でその扉を閉める為にオレは呼ばれたのかな…?
それに、
(…………父さんはこの鍵のことを知っててオレに渡したってこと…?)
そう疑問を持った所でもう答えなど、
仮にそうだとしてもまだまだ疑問は残る。
「この国には…いや、正確にはこの国の王となる者には代々受け継がれる言葉がある。
『世界が再び異変に見舞われ、鍵を持ちし救世主が現れた時。
其の者に力を貸し、そして守護せよ』と」
「………」
「アレク、………正直に言おう。
私は、この言葉も、本当にあったという昔話でさえ信じてはいなかった。
私が女王として即位してから今現在、目に見える異変など起きてはいない。
ルーアから突然救世主が来ると言われ、実際にお前を見ても………すまんが本当に救世主だとしても信じ難い」
申し訳無さそうにして、けれど女王ははっきり嘘偽りなく彼へ言う。
いや、もし女王じゃなくてもアレク自身が女王だとしたら同じように思うことだろう。
だって、
「………救世主は、この世界に何度か現れてたんですか?」
「いや…。
特にそのような話は聞かんな。
数百年前に何処かの未来予知の魔法持ちが、救世主がいつか現れるなどと騒いでいたが…。
実際に現れたのはアレクが初めてだと認識してる」
だって、今まで現れたことがないんだとしたら…人づて、昔話で語られてるだけの救世主が現れた所で、誰が信じられるというのだろうか。
それに、鍵を持っていれば誰だって救世主と名乗れるじゃないか。
確かにこの鍵が光って、それからこの世界に来た。
だけどそれ以降、この鍵が光り輝いた事はあっただろうか?
否、この世界に来た後も、この国に来た後も、この鍵に変化はなかった。
…………いつものように、ただの見た目がファンシーな鍵なままだ。
……………ん?……あれ?
じっとアレクは鍵を凝視した。
何だか違和感が……。
何だろ…?最後に見た時と何かが……。
近くにいたリオーレがアレクの様子に気がつく。
「どうした?」
「あ、………その、…なんか前に見た時の鍵と何か違う気がして…」
「違う??」
何処がだ?、と彼はアレクの傍まで寄れば彼と同じように鍵を凝視する。
正直な所何が違うか問われても分からないのが実際なのだが。
ルーアも二人の話を聞き傍まで寄って同じく見てみるも、彼女も彼も鍵をこうして見るのは初めてで分かるはずもなく。
「………………」
女王は変わらずこちらをじっと見て、それから何かを考えている様子だった。
それにいち早く気づいたのはリオーレ。
彼はちらっと視線を女王へ向けると、何やら深く考え込む様子の彼女が見えたのだ。
「女王陛下?」
声をかけても大丈夫だというかのように微笑み、そしてまたもとの表情へ戻る。
彼女の様子にリオーレの声に気づいたアレクとルーアも心配になりつつそっと見ていた。
それから、
「アレクよ」
「は…はい!」
名前を呼ばれ、彼は反射的に返事をした。
女王の表情は先程よりも真剣で、アレクは内心何を言われるのかと不安になっていた。
「私は先程言ったようにお前が救世主だと言われても信じられない。
だから今一度ルーアの国にいるロッタという眠り鼠に会ってみよ」
「………眠り鼠?
……ルーアの、…国??」
待って、眠り鼠…っていうのはなんとなくでもイメージで分かるけど……………。
ルーアの「国」って…??
え、じゃあルーアって。
「ルーアは我が国の北東にあるうさぎの国「ラビニス」の国王の一人娘だ」
お、お姫様だったんですかぁぁあああ!?!?
あ、開いたお口が塞がらない…………。
驚きのあまり彼はルーアを凝視してしまったが、ルーアはルーアで苦笑い。
「ラビニスは確かに昔は一つの国として成り立ってた小さな国ではありますが、今はこの国の配下になりまして…。
だから国と言っても名ばかりですよ」
「とはいえ国は国だろう?
お前はそこの王族なのは変わらんだろう」
「いいえ!
元は一つの国だったとしても、今はこのシュピカルーレで女王様に仕えるだけの一般人です!」
「ふっ、一般人にしては有能すぎるがな」
えっと、つまり………。
元々小さな国ではあるものの、昔は一つの国であったというルーアの国「ラビニス」。
それが今はトランプの国「シュピカルーレ」の配下に加わったから今はラビニスだけどシュピカルーレで…。
………………。
「ル、ルーア様って呼んだ方がいい、……ですか?」
「!?!?
わあぁぁア、アレク様お願いです!今まで通りにっ!
今まで通りにお話くださいぃいいっっ!!」
何故かしばらく、この謁見の間の中で笑いがやまなかった。
待ってないと思うけどですお待たせしました…!(><;)
実のところ書き終わってはいたんですが………自分なにぶん文章苦手なのもあって最終確認する度に日本語おかしいってなり修正、を繰り返してました…(泣)
とりあえずここまで来ました〜遅くてすみませんm(_ _)m
今回の話と次の話で謁見のお話が終わる予定です。
また修正し終わったら今月中に出しますっ!( ー`дー´)キリッ
のんびりになりますがよろしくお願いいたします〜!