女王との謁見(1)
ーーー『たぶん後で理由はわかるとは思います。
だからゆっくり行ってください』
クラースがそう言った事を思い出した。
夕刻に謁見となる予定がズレた事もそう。
彼は知っていたのだ。
「おいおい、そこまで驚くことはねぇだろぉよ」
「………」
開いた口が塞がらない。
目の前のこの人、塔で出会った先程まで一緒だった男性。
その男性がまさか、…………女王の弟だなんて。
驚くアレクをよそにあの時の男性、否。
女王の弟であるリオーレという男は大丈夫かぁおーい?聞こえてるかぁ?、とアレクの目の前まで行き、そして手をブンブンと振りながら喋る。
それでもアレクはまだしばらく固まっていたのを見て、これは驚かせすぎたか?と彼が少しばかり焦り始めた。
その様子を見ていた女王はため息一つ。
「………リオーレ」
「…!」
名を呼ばれ、彼はビクリと肩を揺らす。
女王の方へ身体ごと振り向けばその目は、
(あ、これ怒ってるわ)
女王からのそれに気づきリオーレは冷汗をかいた。
「お前が城内にいないのは分かっていたが……これはどういう事だ?
何故この者を知っている?
ここまで驚くということは何かしでかしたのか?」
「え、えーっと………ね、姉さ」
「今は女王陛下と呼べ」
「……………はい、…女王陛下」
女王からの言葉にリオーレがショボンとして返事をしていると、アレクがやっとフリーズしていた状態から戻ってきた。
………ん?あれ??
何この状況。
リオーレは何だかショボンとしてるし、女王は怒ってるように見えるし…。
自分がフリーズしてる間に何が…??
いまいち状況が分からずにいると、
「アレク、と言ったか」
「…………へっ、あ、は、はい!!?」
いきなり名を呼ばれ声がひっくり返る。
それに女王がふっと小さな笑った…………声が一瞬した気がしたのだが、表情を見ても変わりない彼女の顔にアレクは少しばかり首を傾げる。
「ルーアから簡単に話は聞いている。
まずは謁見がこの時間まで遅れた事を詫びよう」
「えっ!い、いや………!
き、気にしてないです…!むしろ大丈夫です!!」
元々緊張していた上に女王から謝罪まで………?!
思わずテンパってしまい言葉がうまく言えてないことにも気づかず、何かよくわからない言い方になってしまった。
彼の様子を見れば緊張はしているのだろうと察した女王は、それに特に気にしない。
「遅れた理由は…………まぁ、ルーアにも聞いただろう。
急な先客が来てしまったのと、……………この愚弟がまた城外に出てしまっていてな。
こいつは何度注意しても外に出る事を繰り返すものでな」
「あ、はははは………」
リオーレの乾いた笑い。
たぶん何も言い返せないのだろうな。
詳しいことは分からないが、何度も外に出ては怒られてきたのだろうと、そう察せるくらいにはしてそうだと思った。
「全く困った奴よ。
……ただ遊び呆けてる訳ではないからこれ以上強くも言えんのだかな。
………してアレクよ、この愚弟に何かされなかったか?」
「えっと……何かっていうのは」
「先程の様子、口をあんぐり開ける程には奴を見て驚いていただろう。
そこまで異様な事はせんと思うが、それでも何かしらはされたのではないかと思ってな」
表情があまり変わらない女王、でも彼女から少しだけ雰囲気が申し訳ないというような心配そうにする雰囲気を感じた。
アレクはまだ緊張はあるものの、言葉を考え選びつつ、
「いえ、女王様。
何もされてないというか…………むしろオレ、助けてもらったんです!」
「む……?助けてもらった?」
首を傾げて彼女はそう返す。
「はい!
オレ、ルーアと噴水広場で待ち合わせする事を門番の人に伝言を伝えてもらっていたのに、塔へ行ってたらすっかり時間が経ってしまって。
ルーアが待ってるのにオレ、そこまでの道も分からなくて困って…。
でもこの人、じゃなくて…リオーレ、様が噴水広場までの道を案内してくれたんです!」
「!
ということは…あの時に言っていた男性というのはリオーレ様だったのですか?!」
「う、うん……あの時は名前教えてもらうの忘れててリオーレ様だとは思わなかったんだけど…」
いや、確かにこの国の女王の弟だとは思わなかったけど、塔までに出会ったこの国の人々の服装とはちょっと違ってた気はしていた。
なんというか…服の布がちょっと良い感じの物に見えたというか………。
……で、でもやっぱまさか王族とか普通思わないでしょ!?
国の偉い人がそんな簡単に城から出て城下町回ることってあるの!?
アレクの内心は混乱して慌ただしかった。
「………ふむ」
彼の話を聞き、女王は王座の肘掛けに肘をつき手に頬を乗せながら何かを考え込む。
それから、
「そうか、人助けをしていたとはな。
リオーレが何かしらしたのならちょっとした罰でも与えてやろうと思っていたが」
「え、姉さん!?」
「…………女王陛下、だ」
「…………はい」
あれ??さっきの顔。
女王からまた同じ指摘をされ、ショボンとまたちょっぴり悲しそうな反省顔をして。
その顔を横目で見ながら女王はふっと笑うとまた表情を戻し、またアレクへと視線を向けた。
「さて…、アレクよ」
「!」
先程の話をしていた時の様子と打って変わって…………この声でこの場の雰囲気が一瞬で変わった。
ピリッとした、まるでこちらを見定めているかのような視線。
その視線の奥で疑心を何か抱かれているような、そんな何かを感じる。
アレクは先程以上に緊張しゴクリと唾を飲み込んだ。
「単刀直入に聞く。
…………お前は救世主なのか?」
「え?」
…………また、………『救世主』。
ルーアと出会った際にもそう言われた、救世主という呼び方。
「オレは…………ただのアレクです。
ルーアにも言われました……"鍵"を持つ救世主アリスって」
救世主って一体何なのだろう。
何故自分をそう呼ぶのだろう。
…………それに、この"鍵"が何だというのだろう。
………これは、これはただの形見だというのに。
アレクは素直に答えた。
そう呼ばれはしたけれど、自分はただのアレクだと。
何故そう呼ぶのか話の途中だったから理由は分からない事を。
鍵はただの父の形見だということを。
「…ルーアが言ってました。
この世界に昔話があるって、
その話にはこの世界に異変が起きた時に現れる……異世界からこの世界によって…。
それ以上はまだ聞けてないから、何が何だかオレ、分からないんです」
あぁ、そっか。
オレは聞きたかったんだ。
シュピカルーレに来てから新しく新鮮な事が多く起こりすぎてすっかり抜けてはいたけれど。
本当はちゃんと聞きたかった。
自分がこの世界に来た理由を、ちゃんと誰かに。
だって。
(この鍵の事……それに…、メイに似た"あの子"の事も聞けるかもしれない)
元々この世界に来たのは、不思議な白うさぎとこの鍵が理由だから。
もちろんまだ疑問に思うことだってある。
でもまずは、この世界に来た理由がわかるのならばそれを知りたい。
それが今アレクが一番思うことだった。
「女王様、教えてください。
救世主って何なんですか?」
「……、………ルーア」
「はい、女王様」
女王が静かに彼女を呼ぶ。
それに彼女は同じく静かに答えた。
「アレクを連れてくる際に説明は」
「申し訳ありません。
この国に到着し、直ぐ様女王様へ謁見しようと考えていた為、アレク様への説明を中途半端に終わらせてしまいました」
「………分かった。
お前への罰は後程与える」
「……かしこまりました」
「えっ……!?」
罰ってそんな……!
そりゃ話ちゃんと聞けなかったけど…でも彼女は彼女なりに考えてくれていたはずだ。
あの時の彼女は少し戸惑っていた。
話すべきか否かと思って、でも途中とはいえ話してくれた。
きっと理由がある、そう思うから。
女王へアレクが罰について言おうとするが、ルーアは大丈夫ですと笑ってそれを止めた。
なんで……、彼はそう思うが、何故かルーアは穏やかな顔をしていた。
「きちんとした説明ができてなかったようですまない。
………だが、救世主であろうとなかろうと、お前には知る権利がある。
こちらが知り得ている事は全て話そう」
女王はそう口にすると、隣りにいたリオーレに声をかけ、それを聞き彼はアレク達の元から一旦離れ、それからまた戻ってくる。
ほら、と彼が手渡してきたのは一つの本。
表紙は不思議な絵のような文字と小さな少女の姿絵。
少女の周りには数匹の生き物の達。
その中に小さなうさぎもいた。
見た目から恐らく子供用の絵本………といった所か。
「あの、………これは?」
「話をする前にまずお前にこの世界の昔話を教えようと思ってな」
この本は話をしても分かりやすいように用意しておいた、彼女はそういった。
アレクがそれを聞くと、表紙を一枚めくってみる。
どうやら絵本は絵本でも、そこにアレクの知るような文字が書かれている絵本とは違い、ただイラストだけが描かれていた。
「これから話すのはこの世界では誰もが子供の頃から知り得るただの昔話。
けれど、本当にあったという話だ」
そして女王は語り始める。
この世界の昔話を。
こんばんは、ほしよるです。
地道に書いてるとはいえ毎度遅くて申し訳ありませんm(_ _;)m(雑な小説なので待ってる方いないかもですが………)
今回は女王様との謁見の話でした〜(*´ω`*)
まだまだ謁見続きます←エ"ッ
次回は今月中に出せたら良いなとは思ってますが………また遅くなったらすみません…!!