城下の出会い(3)
「はぁ、…はぁ、はぁ……」
「アレク…平気?」
「い、いや………ちょっと…………息が……」
息切れ気味なアレクにクラースは心配そうにして様子をうかがう。
「おーい、こっちだこっち!」
さぁさぁ、やっとのことで塔から降りれば、男性が離れた所から声を上げて手招きしている。
は、早い…いつの間にあんな所まで。
こちらの世界の人は皆体力がすごいあるのだろうか…?
ちらっとクラースを見ても彼は息切れすらしていないし、かのいう男性もあれだけのスピードで走っていたにも関わらず、遠目から見ても疲れた様子は全くといってない。
はぁ、はぁ、とまだ息が整ってないし既にクタクタなアレクはジト目で男性を見てそう思いつつ、とにかく今はルーアが待っているんだからと自分の体にムチを入れた。
それから彼らの知り得る近道を通り、なんとか噴水広場まで到着することができた。
細すぎる道を体をうまく動かし進み、壁に差し掛かれば何故か近くにあった梯子を使ってよじ登り、その壁沿いに走れば今度は人んちの中にお邪魔して景気に「お邪魔するぜ!」などと言って進み…。
いやぁ…なんというか、近道というよりこれは不法侵入だったような…?
………ともかく色々とありましたが何とか到着できたから良しとしよう、うん。
アレクは何処か考えるのをやめたような顔で思う。
「…!アレク様…!!」
「!」
聞き覚えのある声と遠目からでも分かるあの白い耳。
あぁやっぱり彼女だったか。
「ルーア!ごめん…!
いつの間にか時間経ってて遅くなっちゃって…!」
「いえ、…いえ!気にしないでください!
とにかく、ご無事で何よりです…!」
少しだけ目を潤ませて言うルーアの姿に、流石に心配させてしまったことを反省した。
時計とかあれば良かったけど今持ってないし、時間には今後本当に気をつけよう。
「ところで……」
「うん…?
あぁ!彼はクラース!
塔に行こうとして迷ってたら会って、そのまま案内してもらったんだ」
「そうだったんですね…!
…という事はここまでアレク様を連れてきてくださったのもあなたなのですね!
クラース様、この度はありがとうございます!」
「え、いや…うん。
どういたしまして」
お礼を言われ少しだけ驚きつつそう言う彼は、どうも気まずそう。
……。
……………。
………………ってあれ?
「あの男の人は??」
「男の人?」
キョトンとするルーアを他所に彼は答える。
「あ、彼ならもう大丈夫だな!って言って早々に…」
………って何も言わずに帰ったんかい!?
心の中でツッコミ思わず。
ちゃんとお礼を言いたかったのに。
それに、
(名前…聞いてないな)
結局男性の名前は知らぬまま。
まぁクラースの知り合いのようだし、また機会があった時にでも聞いてみるか。
「あ、それでですねアレク様。
女王様にアレク様の謁見の許可をいただけたんです!」
「えっ」
謁見…許可もらえたんだ…。
本当の所、別の世界から来た余所者である自分は許可をもらえないのでは?などとも考えていたけれど。
こんなにあっさりともらえるものなのだろうか。
いや、ルーアは女王の側近であると門番から話してたし、だからこその謁見の許可なのかもしれない。
「女王様って………え、アレクってもしかして偉い人??」
「え?い、いやいやいや!!!
ち、違うよ?!俺一般人だからね?!」
そんな彼らの話を近くで聞いていたクラースは驚いた顔でそう言う。
それに速攻否定しておく。
「えっと………話すと長くなるというか、説明するの難しいというか……。
ルーアが言うには女王様に話があるとかなんとかで…」
「話?」
どう説明すべきか。
元々自分の話も曖昧にしていた時点できちんと話すにもどう話せばいいのか分からず、アレクは口どもる。
その様子にルーアが気づき、
「クラース様、実はアレク様は女王様のお友達なんですよ〜」
誤魔化すようにそういったのだか………、
「「えっ!?お友達!?/は、はいっ…!?」」
ほぼ同時に驚き、そして互いの顔を見合わせる。
いやいやいや!ルーアさん??嘘はダメですって!!
流石にお友達はないだろう。
アレクが苦笑いして、ルーアはそれにだ、だめでしたか?!とあわわと慌てる。
そんな姿をクラースは見て、聞いた瞬間は驚いて戸惑ったものの次第に落ち着きを取り戻して、何か理由があるんだなと判断したのだろう。
「そ、そっかそっか…お友達だったんだね」
「え、クラース…?!」
あははと苦笑いしつつ、話を合わせてくれた。
その様子にルーアもそ、そうなんですよ〜と同じように苦笑い。
…………いや、二人がそう話を合わせてくれるならいいんだけど。
アレクはこれで良かったのか?と思いつつ、二人の会話を聞いていた。
「えっと…それでですね。
謁見の時間が夕刻にとのことで、今からすぐ向かわないとなんです」
「い、今すぐ?」
それからルーアが彼の方へ向き合うと、謁見の時間について話した。
どうもあの後ルーアが女王に会った際すぐにでもアレクに会わせたいと伝えたそうだが、
「女王様の弟君であるリオーレ様が外出していたみたいで、夕刻までにはいつも戻るからその時間にしようと言われて」
え、弟君??
ということは女王と同じく偉い人なのでは…?
…ってことはこのあと、お偉い人二人に会うことになるの?俺…。
などと彼は急に緊張し出していた。
………のだが。
「…………あー、それで………あの人」
「…?クラース?」
なんだろう?
クラースが何かに気づき納得したような顔をしている。
ルーアも彼の表情に首を傾げた。
「えっと、ルーアさん…だっけ…?
リオーレ様の事だけど…たぶんもう少しゆっくり城に向かっても大丈夫だと思いますよ」
「え?どういうことでしょう?」
「謁見の時間は恐らくもう少し遅くなるだろうと思います」
…???
彼が気まずそうに言ったのは、謁見の時間だけど急がなくてもいいという話で。
何故そう言えるのか分からないけれど、クラースは確信があるようだった。
アレクとルーアの不思議そうな表情を見て、やっぱり話した方が…いや、きっとあの人………と一人何やら考える。
それから、
「たぶん後で理由はわかるとは思います。
だからゆっくり行ってください」
「「???」」
どういう理由だろう?
なんだか腑に落ちないけれど、それでもクラースが理由を言わずこう言ったのはそれまた別の理由があるのだろう。
女王の謁見について深くは聞かないでくれた彼を信じ、アレクはこれ以上は何も聞かず、ルーアにゆっくり行こうと促した。
彼女は彼女で多少疑問に思いつつも、アレクと同じく、彼が何も聞かないでくれた事とあり、何も聞かずそのまま城へ向かう事にした。
「アレク」
「うん?」
別れる間際、クラースが声を掛けてきた。
彼はまだこの国にはいるの?と聞く。
また会えないかということだろうか?
アレクはそう解釈し、しばらくはまだこの国にいるつもりだよと伝えると、
「そっか。
じゃあまた会おうね!」
嬉しそうに笑って返した。
アレクもまた会える事に嬉しく思い、あぁ!と同じく嬉しそうに笑った。
こうしてアレクは、女王の待つ城へと向かうのだった。
ーーーーー数刻過ぎて。
あれから時間は経ち、すっかり夜になった頃。
リオーレと呼ばれる女王の弟の準備が整い次第と時間の変更を伝えたれ、先に夕食を済ますこととなった。
見た事のあるような魚料理もあれば、見たことのない巨大なお肉やたくさんの色とりどりの野菜が乗ったサラダ。
そして…………何故か巨大なケーキやクッキー、それに紅茶の入ったカップがたくさん。
そのカップにはトランプの模様が入ってる。
見た目やその量にはアレクは驚いたけど、
「…!すっげー美味しい!!」
思わず声が出てしまうほど美味しかった。
ルーアから近くでその様子を見守っていたシェフが作ったんだと教えてくれて、アレクはそんな料理人に改めて美味しかったと伝えれば、料理人は嬉しそうに何よりですと笑ってくれた。
夕食の時間はそんな和やかな雰囲気で終わった。
…………………のだが、
「ル、ルーア…?」
「はい?」
「何この雰囲気」
「?あぁ!これはいつも通りですよ~」
女王に会う時間となり謁見の間まで来た二人。
ルーアは城に仕えているからだろう、慣れているのだと思う。
だか、アレクにはどうしても…。
(トランプの模様の入った服の…兵?みたいな人達がたくさんいるんですけど…!)
先程の夕食時の雰囲気とは打って変わり、謁見の間までの数メートルに何人ものこの城の兵だろう人達がこちらを見ながら立っていて、大きな針のような槍を持ってこちらを監視してるようなピリッとした視線と雰囲気をその人達から感じた。
アレクの体は緊張に包まれる。
けれどルーアはこれがいつも通りというのだから、謁見しに来た者には皆同じ視線を向けているのだろうな。
「お待ちしておりました」
「女王様とリオーレ様は」
「はい、謁見の準備は整っておいでです」
ルーアと謁見の間の扉前にいた兵達とも違う服装の男性が話をしていた。
それからしばらく何かを話して、
「貴方がアレク様ですね」
「え、は、はい!」
様付けで呼ばれるのはルーアだけでいいのに…など見当違いな事も考えつつ、男性へ返答した。
男性は扉の番をしているケビンと名乗った。
なるほど、とアレクをじっと見て、それから一言。
「中々みすぼらしい格好の方のようですが…くれぐれも我々の女王陛下に失礼のないようお願い致しますよ」
少し厳しめのお言葉。
けれど雰囲気は兵達とは違い何処か優しげに感じた。
「もう、ケビンさん。
女王様がそんなことで失礼だなんて思うはずないじゃないですか」
「…全く、ルーア様はお優しいことで」
ふっと彼はからかうように笑う。
ルーアは若干頬を膨らませてるが、それを気にすることなくケビンは扉前まで歩いていき、そして扉の向こうにいる女王へ向けて言い放つ。
「謁見の申し出のあったルーア様、及びアレク様が参りました。
扉を開ける許可を願います」
「………許可する。
扉を開けよ!」
ーーーキギギィ……
ケビンの言葉に応じ許可を与えた女王の声がした。
その声と共に扉は開かれる。
「…っ」
扉の開く大きな音と扉の隙間から段々と広がる中からの光。
その明るさが目にかかり、思わず目を細める。
扉が完全に開ききるとルーアは行きましょう!と彼に声をかけると早々に中へ入っていく。
アレクはいいのかなと不安になるものの、ケビンから中へ入るように促され、ゆっくりと中へ入った。
(……………………うわぁ……!)
心の内で驚いた。
中は金やキラキラした虹色の石で彩られたシャンデリアで明るく、ハートがメインのトランプがあしらった飾りに、長くて金の刺繍がされた赤い絨毯。
広々としたその空間はまさに王の間。
その広々な空間の先、赤い椅子に座っている女性と、そしてその横に佇む男性。
近づけば近づく程女王からのオーラというものか、そんなものを感じ取る。
やっぱり俺、こんな所にいるの場違い…。
下を向き、そう考えてる時だった。
「なんだぁ?いっちょ前に緊張でもしてるのか?」
「え」
この声…。
下に向けていた視線を女王の隣りにいた男性を思わず向ける。
あれ、この人…。
黒髪を赤いリボンで後ろに縛っている男性。
まさに王族的な服装なんだが………その顔は。
「よぉっアレク!さっきぶり!」
ビシッと手を上げニッと笑うその顔は。
「さ、さっきの人ぉぉおっっっ?!?!」
思わず大きな声を上げたのも無理はない。
何故ならこの人は、塔で出会い、アレクを噴水広場まで案内してくれ、そしていつの間にかいなくなっていた………あの男性だったのだから。
お久しぶりです、ほしよるです。
………あっという間に半年経ってしまいました…待ってはないだろうけど全然続き出せてなくてすみません…m(_ _;)m
地道に書いてはいたのですが中々進まず…。
恐らく同じ事またあるとは思いますが、お話を進められるよう地道に頑張ってまいりますのでよろしくお願いいたします…!٩(๑òωó๑)۶ファイトー