城下の出会い(1)
ーーーーートランプの国『シュピカルーレ』。
森の中に突然と現れる円状の城壁で囲まれたこの世界の、大国の一つである。
森の中にあるとはいえそこは大国。
まるで共に共存しているかのように建物の壁にも、その間にも草花や木々が生えており、緑と建物の屋根の色や風景とのコントラストは、いつか見た彼の住む世界の街の写真集で見た景色にも似ている。
…唯一そんな中で異様と言えば。
* * * * *
「でっ…かぁ……!」
「ふふ、女王様が住んでいる城ですから」
とても素敵ですよね!とのルーアの言葉に、アレクはただ呆然と立ちすくむだけだった。
彼らは今、大国の一つ・シュピカルーレへ到着した。
建物と木々達との共存しているかのようなこの国の中へ入ると、アレクは目を輝かせながらキョロキョロと周囲を見回す。
写真では似たような風景は見たことがあるけど、実際に見るとこんなに素敵なんだなあと彼は思った。
そんな風景にドンと構えてるかのようにそびえ立つ赤と黒、そして白の色を使った、ハートの門が特徴的なお城。
周囲の建物と明らかに違っているせいか、本当に異様な光景というか…それなのにこれがしっくりとくると感じる。
と、
「あれ?」
何度もキョロキョロと周囲を見回していた時だった。
建物を見ていて一つ気になるものがそこにはあった。
「いかがなさいました?」
「いや、よく見ると…建物一つ一つは違うのに、屋根にある"あの装飾"は同じなんだなぁって」
「…装飾?」
ルーアが不思議そうに彼の指差す方へ視線を向ける。
そこにあったのは『トランプ』の装飾品。
建物の屋根に取り付けられたその装飾品は、よく見れば数字が違ったり模様がハートだったりスペードだったりと違うようだが、形は皆同じであった。
何か意味があるのだろうか?
彼女の返答を待っていると、あぁ!あの『印』ですね!と嬉しそうに言う彼女。
「あれはシュピカルーレという国特有の『トランプの印』です」
「印?」
「はい!」
印ということは何か意味があると思うけれど…でもどういう意味であるかは分からない。
アレクは彼女の話に耳を傾けた。
彼女がいう『トランプの印』とは、この国の役割を意味する印のことなのだそうだ。
数字は特に関係はないが、模様にはそれぞれ意味が存在する。
ハートは、怪我や病気の治療を行う救護班。
スペードは、国の外からの攻撃があった際の応戦を行う戦闘班。
ダイヤは、国内で盗難や犯罪などがあった際に捜査や逮捕を行う捕縛班。
クローバーは、国が危機に陥った際に国を守る為に動く防衛班。
この国にはアレクが住んでいた場所のような警察といった存在も、医者という存在もいないようで。
その為、何か緊急事態が起こった場合に王も国民もそれぞれが動く必要があるそうだ。
その為にそれぞれが班というものに所属しており、それぞれの班ごとに国を支えているのだとか。
「ちなみに、お城の上部の印にはハートとQueenの模様がありまして。
この国の女王のみの印なんですよ」
「あ、もしかしてあの天辺の?」
はい、とルーアもアレクも視線も城の中でも一番高い場所を見上げた。
ここからでははっきりとは見えないが、確かに他とは違い、その場所のトランプの装飾にはハートにQueenの模様だった。
「あの模様の意味は『王』です」
「えっと、この国の王が女王様…?だから??」
「それもあるんですが…。
あの印の意味としては、全ての印の司令官としての意味合いもあります」
彼女が言うには、それぞれ4つの印、それぞれの役割は確かに個人で動いているのだが…本当の緊急事態があった場合に、個々での判断が難しくなってくる。
「ここ最近は"魔獣"達は現れていなくて平和なので、そこまで緊急になるものはないんですけどね」
「え、ま、"魔獣"…?!」
また聞き慣れない言葉が出てきた。
「あ、説明していませんでしたね!
申し訳ありません!」
ルーアは直ぐ様謝ると説明してくれた。
この国、というより…この世界には『魔獣』と呼ばれる生き物がいるそうだ。
通常の動物達が突然変異し、凶暴化したり暴れたりするらしい。
今まで動物としての意識はなくなり、人への攻撃を行うなどするが、その原因は分かってはいない。
「数年前に一度、魔獣の群れが国を襲った時は、女王様が自らそれぞれの班へ冷静でかつ的確な司令を出して動いてくれて、そのおかげで大きな被害もなかったんですよ」
「へぇー…」
対応可能な事ならまだしも、突然襲われたりしたら人は確かに冷静ではいられないだろう。
だからこそ冷静に判断をすることのできる、そんな人がいるのはとても大切で。
正直色々と違うので本当に何もかも違うんだなぁと、話を聞いていたアレク自身思ったけれど。
(でも、それぞれの役割をきちんと行っているからこその国なんだなぁ)
国を守る為に個々が動くというこの国を改めて素敵な国だと思った。
…と、
「あれ、ルーアさん??」
「あ、門番さん!こんにちは!」
城の前でしばらく話し込んでいたからか、門の前で警護をしているのだろう。
鎧を纏い、長い槍を持った門番がこちらに気づいて近づいてきた。
「門番さん、女王様に謁見をしたいのですが…」
「謁見?…あ、もしかしてこの坊主か?」
チラッと後ろにいたアラクに視線を向け、門番はそう聞いてきた。
……………ん?……謁見って?
彼は突然の話にキョトンと首を傾げる。
「はい!
女王様にもぜひアレク様に会っていただきたくて!
それにお話したいことがありまして!」
ぇ…、…………えっ!?
まっ待って!そんな話聞いてないよ!?
いきなりの話に理解をして心の中で叫ぶ。
この国の女王と謁見って…つまり直接会うという事で。
「うーん、そうなのか」
けれど門番はうーん…、と考え込む。
何かあったのだろうか?
「実はな、さっきルーアさんが来る前に一人謁見に来てて。
その人がまだ話をしているんだ」
どうやら先客がいたようだ。
ルーアはそうだったんですね、と彼女は彼女で考え込んだ。
独り言のようにうーん、でも確か…と口ずさむ。
「……あの、アレク様」
「ん?」
「少しだけ気になる事がありまして…。
少しの間だけ離れて大丈夫でしょうか…?」
それから彼女が申し訳無さそうに声をかけた。
気になる事…というのは何だろう。
彼は逆にそれが気になったものの、自分が分かることではないとも分かっていたので、大丈夫とそう伝える。
それに対して更に申し訳無さそうに耳を垂れて謝るルーア。
本当に申し訳無さそうにするから、アレクは思わず大丈夫だよ!?とあわあわとしてしまう。
「アレク様、よろしければこの国の城下街を散策するのはいかがですか?」
「城下街?」
「はい。
私も早めに戻るつもりですが…もしかしたら少々お時間がかかるかもしれません…。
その間ここで待っていただくよりも、この国の事を見て回っていただく方がアレク様も楽しいのではと思いまして」
お散歩気分でどうですか?、そうニコッと笑う彼女に彼は少し考える。
確かに…彼女の気になる事というものが何なのか分からない。
そして時間もかかるかもしれない。
それなら…、
「分かった。
じゃあルーアの言うように城下街を見に行ってみるよ」
その言葉に彼女ははい!と嬉しそうに笑い、城下街の行き方やどういったものがあるかなどを簡単に教えてくれた。
あと、おいしい食べ物とかも。
簡単と言っても彼女が気を使ってかそうでないか分からないけど、彼自身が興味を持ちそうな事を教えてくれたので、段々とアレクの瞳は輝き出す。
「では、用が済み次第直ぐお迎えに上がります!」
一通りの話が終わると、彼女はまた申し訳無さそうな顔をして、けれど早々に城の中へと走っていってしまった。
「坊主すまんな。
ルーアさんもあれでも女王様の側近だからさ」
「あ、いえ!大丈夫です!」
先程の彼女の様子から、どうしても今じゃないといけないのだろうと思うし。
だから特に気にしてないと、そう門番には伝えた。
あ…………でも、そういえば。
「……迎えに来るとは言ってたけど、ちゃんと待ち合わせする場所决めた方が良かったんじゃ…」
「………あー」
結局の所、彼自身が歩き回っていたら彼女も探すのが大変だろうと思ったのもあり、門番に聞いて待ち合わせに適した街の中心にある噴水広場で一、二時間程散策した後にそこで待つ事した。
ルーアへはその旨を門番から伝えてもらう事になったので、恐らくは大丈夫………のはず。
アレクは少々心配にはなったものの、今はとにかく城下街を見て回る。
さぁ散策するぞー!
あ、れ?
「こ、………ここ、
……………………………何処???」
* * * * *
意気込んで城下街を歩いていると様々な種族がいた。
ルーアから聞かされていた種族、獣族にエルフ族、…あっちは彼と同じ人族か。
「あ、そこのあんちゃん」
「???」
キョロキョロしていたからなのか、アレクを呼ぶ声。
声の方へ向けば、歩く人々の合間から見え隠れするお店が一つ。
店前に見えるのは…、これは串焼きかな?
香り漂うその香りは、彼のよく知る醤油に似た匂いで。
思わず視線はそちらにいってしまう。
「あんちゃん、周りキョロキョロしてたけど何かお困りなのかい?」
店の人であろう、串焼きを焼きつつも彼を気にかけてるようにしてそう聞いてきた熊の耳をした獣族の男性。
アレクがこの国に来たばかりだから散策をしていた事を隠すことなく話せば、男性はそうかそうかと笑った。
それから、初めてならこの串焼き食べてかないかいと尋ねる。
食べてみたい!…と彼は思ったが、考えてみたら…。
「オレ、今お金持ってなかった」
「ん?そうなのかい?」
「あ、はい…」
考えたらここの世界のお金ってどんなのなんだろ。………今持ってるお金は使えないよな。
心の中でそう考えていたからか、彼の表情がうーん…と困り顔になっていく。
その様子に男性は、なるほど、とそれだけいうと、
「はいよ」
「え?…お金、オレないですよ?」
「いいんだいいんだ!
これは俺からの歓迎の印だから!」
ニカッと笑う男性はいいから持てとアレクに串焼きを一本渡してきた。
おどおどと良いのかなぁと思いつつそれを持つ。
こうしてみるとよくある焼鳥みたいに見えるが、知っている焼鳥の倍以上に肉は一つ一つでかい。
「本当にいいんですか?」
「構わないさ!
まぁ歓迎って言ってもあんちゃんみたいにおチビだったり、良いやつじゃなきゃ渡さんけどな!」
俺の目にはそれがわかるのさ!とガッハッハーと自慢げに今度は笑う。
というか…………お、おチビ…。
まだまだ成長期なんだけども…。
むむむっとアレクの表情には気にすることなく、男性は暑いうちに食べなと促した。
確かに…この香ばしい香り…温かいうちに食べたい。
ジュルリとよだれが出そう…。
ニコニコしてじっと見てくる男性に恥ずかしくなりつつ、アレクは一口それを頬張った。
「…!!」
う…、
「うまぁっ…!!」
「だろだろ〜?
ここいらじゃぁそれなりに、うちの串焼きは有名だからな!」
またガッハッハー!と笑いながら、その言葉に更に嬉しそうに顔を緩ませた。
その場で食べ終わるまで男性は待った後、他にもうまいものがあるからお金に余裕が持てたら寄ってみな!と色々と教えてくれた。
ついでだと、もう一つ。
「あそこにある建物見えるかい?」
「あそこ?」
指さされた先に見えたのは、一つの鐘がある他よりも高い塔。
「あの場所は誰でも入れる塔でな、景色がよく見えていい場所なんだよ。
あそこからはこの城下街も、この国の外も見えてな」
あそこで飲む酒は旨くてなぁ!と一言。
なるほど、ならこのあとあそこに行ってみようかな。
アレクはそれを聞いて行ってみたくなった。
ルーアはまだ来そうにもないし、時間を潰すにもいいかもしれない。
教えてくれた男性へ深くお礼をしてから、足早に塔へと向かう。
向かった………はずだったが。
「うぅ、まさか迷子になるなんて…」
教えてもらったはずの道を進んでいたつもりが、いつの間にかに別の道に来てしまっていたらしく…。
アレクは只今絶賛迷子中である。
何処で間違えたのだろうか。
あ、そういえば。
『途中噴水広場とは別の小さい噴水があってな。
そこに円状で何本かに分かれた道があるんだが、そこを必ず"薔薇のある道の隣の道"を行くんだぞ』
熊の獣族の男性が言っていた道は確かにあった。
小さな噴水広場を中心に7本の道があり、その一つが薔薇のある道。
彼は隣の道と聞いて、その道の"右隣"の道を進んできた。
それ以降は男性の言っていた順に進んできたわけだが…もしかしたらそこの道は"左隣"の道だったのかもしれない。
ちゃんと聞いておけばよかったと今更後悔する。
(戻るにも…ここ何処かもわからないや…)
来たばかりで国内の道を知っている訳ではないアレクにとって、戻ることもかなり大変である。
こうなれば周囲の人にでも聞くしかない。
「ねぇ、君…大丈夫?」
そう思っていた時だった。
彼へ誰かが声をかけてきたのは。
ちょうど誰かに声をかけるつもりだったアレクは、その声に振り向く。
そこにいたのは一人の少年。
「困ってるなら話を聞くよ?」
彼と同じくらいの年だろうか。
白い…いや、光に当たると淡く輝く不思議な、髪の短い少年が立っていた。
何だかんだで書けれたので出しちゃいました、ほしよるです。
時折誤字もあったりすると思うので、その時修正していこうと思います…。
とりあえず、楽しめればいいなと…!




