ようこそ!不思議の国へ!(2)
あれから彼女の名前がルーアであると分かり、この場所の事などを聞く為敬語で話す。
だって明らかに年上だと思うし…呼び捨てもちゃん付けもできないよね、うん。
内心そう思ってたのでそう話してたのだが、
「アレク様!
私にさんを付けたり敬語で話さなくて構いません!
どうぞ呼び捨てにして、話し方も気軽な話し方でいいんですよ!」
「ええー……?」
呼び捨てでいいと言われてしまった。
ならばと、アレクも敬語も様も付けないでと言ってみたものの、彼女から断固として拒否された。
流石にと思ったけれど、断固として動かない彼女に結局アレクが折れたのだった。
「さて、この世界の事ですよね。
場所が場所ですので…アレク様、まずはここから移動しましょう。
歩きながらですが、この世界の事を簡単にお教えいたします」
「分かった…お願いします」
その言葉にルーアははい!とまた嬉しそうに笑った。
「"メルフェリーネ"、緑と海に囲まれた世界。
この世界はそう呼ばれています」
森の草木をかき分けて進みながら、彼女はそう話を切り出した。
ここは"メルフェリーネ"という名前の世界らしい。
大昔に神と魔神が互いの力で世界を創り出し、そして創り出した世界にルーアのような生き物を生み出したという。
種族としては…、
アレクと同じ『人族』、
ルーアのような耳や尻尾を持つ『獣族』、
森と共に生きる『エルフ族』に『妖精族』、
様々な種族がこの世界各地で生活しているそうだ。
(獣族にエルフ族…って、なんかファンタジーっぽい…)
最初から違う場所である事は分かっていたものの、この時点で更に自分がいた場所とは違うのだと思い知らされる。
それから彼女は今度は国について話し出した。
様々な種族達の殆どはどうやらその国々に住んでいるらしい。
「大国は、全部で6カ国。
今から私達が向かう
トランプの国『シュピカルーレ』、
妖精の国『ファルータ』、
海底の国『シールゥーヤ』、
薔薇の国『レースローゼン』、
砂漠の国『プトゥイゼハ』、
そして…。
魔王の国『サルテン』です」
(え"っ…魔王って存在するの!?)
魔王と聞いて再びファンタジーだ…!と彼は驚く。
いやだって、魔王ってよく物語とかファンタジーっぽいゲームとかで出てくるものだし。
内心驚きが連発で話についていけなくなりそうである。
…と、ルーアが前方を見て「あっ」と声を出した。
どうしたのだろうと様子を見ていると、
「アレク様!どうぞこちらへ!」
「…?」
こちらに来てくださいと明るい声でルーアが誘う。
何だろうと思い、彼女がかき分けた木々の先を見ようと前に出る。
「!」
ぶわっと風が吹き、そして目の前に差す光に一瞬目を細めた。
けれど目が慣れて見えたその景色。
自分達が進んでいる森の一部であろう木々達と、そしてキラキラと輝く海、その先に見える島…?なのだろうか。
「わぁ…!」
正直彼は、知らない場所にいてこれは夢ではないかとも考えてもいた。
何故ならばこんな非現実的な事なんて起こる訳がないと思っていたから。
けれどこの景色を見て、改めてここは自分の知らない違う世界なのだと…改めて実感したのだった。
……………
「本当ならもっと景色を堪能していただきたいのですが…。
早めの移動と、"こちら"の説明もしたいのでまた歩きますよ」
ルーアはそう言って手をアレクとは別の方へとそっと手のひらを差し出す。
それを疑問に思っていると、突然彼女の手のひらから風が現れた。
「えっい、今の何…!?」
その突然の事にアレクは聞けば、
「これは"魔法"という力です」
ルーアがそう答えながら、視線をまた手のひらへ。
まだ風は彼女の手のひらに留まっていたが、しばらくして静かに消えた。
その様子に驚きと好奇心が疼く。
キラキラと目を輝かせ、魔法って何!?と聞くと、ルーアは何処か楽しそうに説明しますねと笑う。
『魔法』。
この世界の人々それぞれ持っている、けれどその人個人にしか持たない能力の事。
その能力は様々で、火を操る者もいれば雨を降らす者、無機物を操る者、人や物に何かの付与を与える者などいるそうだ。
そういった力を持った者は『魔法持ち』と呼ばれているらしい。
ただこの能力は覚醒というものをしなければ使えない。
しかも覚醒条件さえも様々で、実は魔法を持つ者は世界でも少数なのだという。
また、その力も個人差があり、力の強い順に上級、中級、下級に分けられており、殆どの魔法持ちは中級か下級なんだそうだ。
「ちなみに私も下級の魔法しか使えません…」
「えっ!あ、あれで下級なの…?」
手のひらだったとはいえ、それなりに強い風だった気がするんだけど。
けれど本当にルーアの力は下級だと本人はいう。
「中級となると私が操った風よりも強く、竜巻のような威力があるとか」
どうも中級や下級といった力の差が出る理由も未だに解明されてないのだという。
覚醒条件のせいなのか、それとも別の理由で力の差が出るのか、それさえも分からないまま。
「ちなみに…、魔法持ちの中でも上級の力の持ち主は、先ほどお話した国々を納めている王の方々がお持ちです。
その能力は親族やごく一部の者しか知りませんが、
初代王がその強力な魔法を使いそれぞれの国をまとめ、そして今代まで国を発展させてきたと言われています」
「国を…」
「はい。
とは言え、強過ぎる力は時に人を破滅させる、そういう例もあって…200年前に滅びた国もあるそうです。
その為数十年前から上級の方々は力を抑える道具を持つよう義務付けられているとか」
強過ぎる力は身を滅ぼす。
確かにそれは分かるかもしれない。
…よくゲームとかであるし。
強くなってもそれを正しく使えなければ危険なんだろうなとアレクは彼女の話でそう感じ取る。
「魔法については以上になります。
何か分からない事はありますか?」
うーん、と彼は考えた。
先程の話でもちろん魔法というものをこの目で見て、自分も使えるのかなとかそうは思ったけれど。
でも、もし使えたとしても……それより、そもそも。
「そもそもオレ、どうしてここにいるのかなって」
そう、それなのだ。
そもそも自分は何故この世界にいるのだろうか。
原因という原因は今も首にかけているこの鍵なのだろうけれど。
けれど彼女の最初の反応と言葉。
『ようこそ!我が国へ!』
何故か気になる。
ルーアは、彼の言葉に少し戸惑ったように見えた。
それでも何かを伝えようと口を開く。
「……この世界には昔話があります」
「昔話?」
「はい。
子供の頃から語り継がれる大昔の話。
この世界に異変が起きた時現れる…。
いえ…、異世界からこの世界によって……」
………『この世界によって』?
そこまで言って、ルーアは突然続きは後でと話を切って走り出してしまった。
…え、待って。そこで話止めちゃうの…!?
気になる所で切られて心の中で叫びつつ、彼女が走っていった方へ自分も走る。
そして、
「アレク様!
あそこに見えるのが私達が向かっている国。
私がお使えする女王様がいらっしゃる、
トランプの国『シュピカルーレ』です!」
森の先に見える、森の中にあるにしては異様な城壁に囲まれた、
シュピカルーレという国がそこにはあった。
* * * * *
こんにちは、ほしよるです。
とりあえずと思って、漫画で書いてた部分でのお話を一度修正したものを出させていただきました。
説明回ではあるので意味の分かりづらい所とかあるかもしれないですが、その辺りはまた追々でまとめを出せたらなと思ってます。
次回は恐らく来月となりますが、書き終えたらなるべく早めに出したいと思います。
よろしくお願いします。