夢と現実 後半
「"扉"…?」
暗い森の中に光り輝く、何故そこにあるかも分からない"扉"が一つ。
指を指されるまで気付けなかったのは、ここが夢の中だからだろうか?
「やっぱり…救世主には見えるんだね」
「え?」
「僕には見えないんだよ。
君がきっと見ているだろう"扉"は」
アレクが救世主であるかは自分でさえも信じられなかった。
だからこそうさぎの国にいるという未来予知の魔法持ちの元へ話を聞きに行こうとしているのに。
(あの"扉"は……オレにしか、見えない?)
けれど彼はそう思って、待ったをかけた。
チェシャは見えていない。見えないとはっきり言っていた。
ならば、
「……あなたには、見えてるの?」
『……どっちだと思う?』
仮面の中の表情は分からないけれど、白うさぎはクスっと笑っていた気がした。
『さて、救世主。あの"扉"には何が見える?』
何が?
白うさぎの後を追い、"扉"に近づいたアレク。
チェシャはその後ろからゆっくりと歩いてきた。
扉の傍まで着くと白うさぎは彼にそう聞いてくる。
この"扉"、何かあるのかな…?
不思議に思いながらも、アレクはじっと観察してみる。
"扉"は一見して普通に見える。
少し奥側の森が見えるから透けているのはわかった。
……後は?
光り輝く以外は普通の扉なのだ。
ちらりと白うさぎへ目をやると彼の視線に気がついたのか、もう少し視野を狭めてみるといい、とそう言って"扉"に視線を戻した。
ヒントのような事を言われ、アレクは再度見てみる。
と、……アレクはドアノブの辺りに視線がいき、そして気が付いた。
そこには小さな、
「……鍵穴?」
『そう、正解』
白うさぎの何が見える?の正解は鍵穴であったようだ。
そして気がついたのはもう一つ。
アレクはおもむろに首に掛けている鍵を出し、そしてじっと鍵穴と鍵を見比べてみる。
…………似ているのだ。
彼の持つ鍵と、"扉"にある鍵穴の形が。
『言う前に気がついたようだね』
白うさぎはその様子に満足げな声を出す。
『さぁ、救世主。
その鍵で"扉"を開きなさい』
そうすれば、自ずと分かるはずだ。
白うさぎはそう言った。
それは………、先ほど言っていた救世主としての"役割"、ということだろうか?
手に持っている鍵をぎゅっと持ちながら、彼は恐る恐る"扉"の前まで歩く。
(……やっぱり…形が同じだ…)
この鍵は、この"扉"を開ける為のものだったのか。
けれど何故、そんな鍵がアレクの世界にあったのだろう。
……これは元々、彼の父の形見のはずなのに。
………考えてみたって仕方がない。
アレクは意を決して、鍵穴に鍵を挿し、そしてそのまま横へと回した。
ーーーーガチャッ
鍵の開いた音。
その音は、どうやらチェシャにも聞こえたようで。
耳をひょこひょこと動かしながら、彼の様子を見て伺っている。
『無事開けられたようだね』
白うさぎがアレクに近づき、彼の開けた"扉"のドアノブへ手をかけた。
『これが救世主としての"役割"。
世界の異物を浄化させる為の、『循環』だ』
その言葉と共に、"扉"は開かれた。
後ろではチェシャの「これが言っていた"扉"かぁ」と言う声が聞こえてきた。
と…、
「…っ!」
周囲から突然…黒い靄が現れる。
この靄は一体…。
いや、…トランプの国で聞いた、あの昔話。
そこに出てきていたではないか。
……『黒い靄』が。
その黒い靄は、何故か開けたばかりの"扉"の中へと吸い込まれていく。
『この靄は、所謂世界の異物。
…世界が溜め込んでいた、世界のあらゆる生き物から出た"負"の感情等が表に出てきたもの』
「……世界の…異物?」
『そう。
普段は目に見えないもの。
けれど世界に溢れかえると救世主でなくても見え始める危険なものだ。』
あ、夢の中であっても触ってはいけないよ、と彼とチェシャへと声を掛ける。
『人で例えようか。
人は息を吸うだろう?
息をして酸素を取り込み、それが血液を通して体の中を巡り、二酸化炭素となったそれが肺から出る。
それと同じように、世界も人と同じように息をしている。
……世界の場合は逆なのだけれど』
白うさぎは話す。
世界は、生きとし生けるものから無意識に出る負の感情等の暗い部分を吸収しては綺麗にして世界へ返しているのだと。
そしてこの"扉"は、人で言う鼻や口と同じ役割であると。
『世界は常に生きとし生けるものを見守っている。
それ故に、不幸せな者を助けようとする。
黒い靄を吸収しては綺麗にするのを繰り返す。
………けれどいつしか限界も来る』
吸収が追いつかなくなり、いつしか世界自身の力で"扉"を開ける事が出来なくなる。
そう言う白うさぎの声は少し悲しそうにも聞こえた。
『"扉"が開かない、けれど黒い靄はどんどん溢れてくる。
その結果が、君も聞いただろうあの昔話というわけだ』
触れれば最後、人の心を狂わせる。
そこまで言うと白うさぎは間を空けて、そしてまた口を開く。
『先程も言ったように、この"扉"は救世主にしか見えない。
鍵を開けてしまえば他の者にもこの"扉"も黒い靄も見えるようにはなるが…、役割は救世主本人でなければできない。
その"鍵"を持つ資格のある者でなければ』
「資格…」
全く意味が分からない。
ただ形として持っていただけの、見た目がファンシー過ぎるこの鍵がそんな大層なものだとは。
そして持っているのに資格が必要なのこれ!?、アレクは内心驚いてばかりだ。
『救世主は唯一、世界中にある"扉"の鍵の開け閉めのできる存在。
それ故に、世界は自分ではどうしようもない限界が来ると別の世界にいる救世主を呼ぶ。
また自分で靄を綺麗にできるようになるまで、『循環』をしてもらえるように』
そう話している間に、周囲から黒い靄が消えていた。
"扉"の中に吸い込まれていた様子から、恐らく全て吸い込まれた…ということだろうか。
アレクは周囲は見回していると、白うさぎは今度は扉を閉めるようにと促した。
彼は白うさぎの言った通りに、扉を閉め、そして…今度は鍵を閉めた。
「…!…き、……消えた?」
ガチャリと鍵の閉まる音と共に、光り輝いていた"扉"はその場から光の粒となって消えていった。
驚くアレクを他所に白うさぎは言葉を掛ける。
『救世主。
どうか"扉"を見かけたら今のように『循環』をしてほしい。
それが世界を救う為の一歩になる』
「?…それってどういう…」
『循環』をしていけば、世界が自分でできるようになれば…それで良いのでは…………ない?
白うさぎのその含みのある言い方に彼は不思議そうな顔をして返す、……が。
『…きっと君なら、自分で分かる』
いや、何が…??;
先程までさらさらと説明してくれた白うさぎは、今度は何故か言葉を濁している。
顔は見えないけれど、何処か……。
(……辛そうにも見えるのは…なんでだろ)
そう見えたのは見間違いか。…それとも。
ーーーーユラ…
突然、周囲の森がユラリと揺れた。
え、今度は何…!?
森が奥からユラユラと、そしてゆっくりと崩れていく。
『ああ、良かった…。間に合ったようだね』
「え、な、何が…!?」
「君が夢から醒めるまでの時間内で、救世主の役割の事言えたって事だよ」
「!チェシャ」
先程まで後ろで黙っていたチェシャが声をかけてきた。
夢が醒める?…だから森が崩れてるの?
『救世主。
一方的に話してしまってすまない。
だけど、もう一つ。
この世界に来た君にも魔法を使う事ができる』
「え…!?」
白うさぎは崩れる森、否、夢の中でこちらを見て言った。
アレクにも魔法使える、そう言ったのだ。
使えないと思っていたアレクにその不意の言葉は驚いた。
崩れ始めているからか、白うさぎは一人淡々と話していく。
『今のように『循環』を続けるんだ。
私の使っていた魔法を"扉"に封じてある。
その"扉"さえ開ければ、君に授かるようになっている。現に今君には、』
「白うさぎ、もう時間だよ」
タイムアップというように、チェシャはそこで話の間に入った。
これ以上はアレクを夢に閉じ込めてしまうから、そんな怖い事を言って。
その言葉はもちろん彼にも聞こえていて、それにはちょっとゾワッと体が震えた。
『…すまない。話さなければと』
「ううん、だ、大丈夫……」
謝ってきたけど…むしろちょっとだけ救世主の事を知れたのだから気にしなくていい、アレクはそう思う。
ふわっと、アレクの体が軽くなる感覚がした。
「大丈夫、それに身を任せて」
それが目覚めの合図だから、チェシャはそう言う。
ふわふわという感覚で変な感じだ。
『救世主』
白うさぎはまた声をかけてきた。
何?と視線を向けて返事をしてみると、
『…また、夢で会おう』
そう言った白うさぎの仮面、そこから見えた色。
(……蒼い…)
その色が何故か、…………最後に目に焼き付いた。
『アレク!!/アレク様っ!!』
「ーーー……っ!!」
二人の、ルーアとリオーレの声で瞬間目を覚ました。
あれ?なんか視界がおかしくないか…?
確か焚き火を囲って寝ていた気が…。
夢の中にいたからとは言え、何故か地面から浮いているような視界が入る。
…………そしてどういう訳か、体が揺れてないか…?
「くそっっ…!アレクを人質にってか…!?」
「ア、アレク様…!」
少し顔を上げてみれば、離れた場所に二人の姿が。
………。
…………何故こんなに離れているのだろうか。
ーーーグルルルル…
「え"」
上、まさに…頭の上。
そこなら………何やら獣の唸り声。
アレクは顔に冷汗が流れるのを感じながら、ゆっくり、…そう。ゆっくりと顔を二人からもっと上へ。
グイッと顔を上げた。
「な………………」
視界に入ったのはもふもふとした毛並みと細長い顔。
ちょっぴり見える布のような、否、布は自分の服で。
もっとよく見れば、服を咥えているそれには噛まれたら痛いどころか一環の終わりだろう、とても鋭い牙が見える。
今度は下を見てみようか。
………脚、脚だ。
見た事ある犬のような、…けれど犬にしては………かなりの大きさの脚が見える。
待って、なんでこんなに大きいの。
…そう、これは、まさしく。
「な…っ、何でオレ、狼に咥えされてるのーーーっっ!?」
叫んでしまう程、それはそれは大きな狼で。
そんな狼に夢から覚めたアレクは、何故か宙吊りな状態で咥えられていたのだった。
こんにちは、ほしよるです。
……すみません、だいぶ間開けたのですが久しぶりに投稿いたしました(;∀;)
今回の回も意味不明ですね…;;
ただ、今回は救世主としての大事な話になります。
文才ないから分かりづらかったらすみません;;;
チェシャ猫ことチェシャ(まんま←)出ました〜!
ずっと書きたくて、でも出番じゃないから我慢してました(泣)
やっと出せて良かったです!
そして…白うさぎは一体誰でしょうか?
次回は来月になるかもですが、よろしくお願い致しますm(_ _)m




