夢と現実 前編
半年近く続き出さずすみません;;
前回の続きになります。
「初めまして"今世の" 救世主。
僕は"チェシャ"。
そうだね………今は、夢の案内人さ」
紫色の猫はそう名乗った。
ーーー『チェシャ』。
この名は最近聞いた。
そう、最初に夢でこの不思議な猫が出てきた時、ルーアに聞いたあの一族の。
「…チェシャ、って……チェシャ一族の…?」
幻を見せる魔法という一族の話。
あの童話に出てくる登場人物ような"チェシャ"というこの猫は、はて?と首を傾げる。
それから、うーんと考えるような動作をすると、あーそっかと何か納得したみたいだった。
そして、
「君の言う一族が何かは分からないけど、僕の名前と同じなのは見当がつくよ。
なんてったって僕は、アリスの友達だからね」
きっと名前にあやかりたかったんじゃない?、猫はクスクス笑う。
また『アリス』…。
でも、このアリスは今までの救世主としての意味とは違う感じがアレクにはした。
「それに、…僕の名前を使うとしたら………」
「え?」
「いや、何でもないよ」
ニンマリと笑いながら言う姿は、まさにあの童話の猫のよう。
それにはちょっぴりアレクはあははと引き気味に笑った。
「さて、救世主。そろそろ行こうか」
「い、行くって、何処に?」
「君を連れてきてほしいって言われててね。
夢は何かのきっかけですぐ覚めてしまう。
だからちょっとだけ早足で着いてきてくれるかな?」
そう言ってふわりと向きを変えると、チェシャはそのまま先を歩き始めた。
アレクが戸惑っていれば、振り向いてほら行くよ、と移動を促す。
そうされてはじっともしていられず、アレクはチェシャの後ろを着いていくことにした。
「ところで、⋯チェシャ?」
「ん?なぁに?救世主」
「(また救世主って…;)…さっき、この空間でしか会えないって言ってたけど…それってどうして…?」
「あぁ、そのことか」
夢の中の森を移動する中で、彼は先程の会話の中で気になっていたことを話してみた。
そう、チェシャの言葉だ。
『この空間』、つまり夢の中でしか会えないとチェシャは言っていた。
「簡単な話だよ。
僕と救世主…………、あ、ごめん。
君名前なんだっけ??」
「あ;…アレックス。でも、アレクでいいよ」
「ふーん、アレクかぁ。
少しアリスに名前に似てるね。
…えっと、どうしてかっていうのはね。
僕とアレクのいる"場所"がお互いに遠いから、直接会うことができないからだよ」
そう顔だけアレクの方に向きながらニンマリと笑った。
「僕の魔法は夢に入る力でね。
その力を使って君の夢に入ってるんだ。
こうすれば距離だとか時間も関係なく会えるからさ」
つまり…夢を見ている人の夢には何時でも何処でも入れるんだ、チェシャの言葉にアレクは少しだけ驚き目を見開いた。
そうじゃないかとも思ったけど…まさか本当に魔法だとは。
あ、ちなみに。夢の中だから僕の魔法のこと話したんだからね?とやんわりと秘密にするように言い、そしてチェシャはそのまま続ける。
「僕の力は、僕の仲間達とも違う力でね。
何ていうんだっけ…?あ、そう。突然変異ってアリスは言ってたな。…まぁらしいんだよ、僕。
姿は変わらないけど、力だけは仲間と違くて、あの頃は何に使うものかも分からなかったけど。
こうやって君と話せるんだ。
この力を持っててよかったとは思う」
「…そう、なの?」
"仲間"というのはチェシャ一族の事だろうか。いや、先程わからないといってていたから違うかもしれない。
ともあれ、それに関しては特に気にせず、アレクと話せたことが嬉しいのか、それとも別の意味で言ってるのか分からないが、確かにチェシャはルンルンと嬉しそうにも見える。
よくわからないけど、チェシャは自分に会う為に夢の中に来ていた…ということなのだけは彼も理解した。
……と、
「それよりさアレク、僕が何処に君を連れてこうとしてるか気にならないの?」
有無を言わさずついてきてなんて言ってるのにさ、チェシャは今度は視線だけ彼に向けながら言う。
それにワンテンポ遅れて彼はあ、確かに…、と思い出す。
この不思議な猫はアレクを連れてきてほしいと言われたと言っていた。
連れてきてほしいと言うことは…、チェシャが連れてこうとしている先に誰かがいる可能性があるということ。
言われるまで聞かなかっただけではあるが、
「……誰がオレを?」
確かに気になっていたのもあり、不安そうな表情を浮かべながらも聞いてみる。
彼のその様子に気づくと、チェシャは安心してと言うかのようにニンマリ、ではなく…、優しく笑った。
「大丈夫。安心して。
"白うさぎ"は君に危害を加えたりしないから」
(………"白うさぎ"?)
『チェシャの言う通り、私は君に危害を加えるつもりはない』
「ーーー!!」
気づかなかった。
その声が聞こえるまで、すぐ傍まで人がいるなど。
アレクは声の主へビクッと驚き視線を向けた。
………白い、うさぎの仮面をした人物がそこに立っている。
「あれ、今連れてこうとしてたんだけど」
『中々来ないから心配になって迎えに来た』
「ありゃりゃ、それはごめんね"白うさぎ"」
この人が、先程チェシャが言っていた"白うさぎ"。
確かに、…白いうさぎの仮面をしているからそう呼んでいるんだろうけど…。
白うさぎの声は男性と女性、2つの声が重なって聞こえ、仮面以外は頭まで黒いマントで隠されており、チェシャがいなければ不審者にしか見えない服装をしている。
『"今世の" 救世主。
夢の中まで来て君の時間を奪ってしまい申し訳ない』
「え…?あ、いや……」
『だがどうしても教え伝えなければならない事があった。
これは、君の救世主としての『役割』について大切な事でね』
救世主としての、……『役割』?
初めて聞く話。
確かにアレク自身、鍵を持っているから、異世界から来たからと言う理由で救世主と呼ばれてしまっているが、かと言え何をするものかも知らない。
ただ世界が危機に瀕してる時に現れる世界に呼ばれた者…救世主、知るのはそれのみだ。
それなのに、白うさぎは…救世主としての『役割』を知っている……?
『救世主、君には"あれ"が見えるかい?』
「……"あれ"?」
何故だろうと少しだけ考えていると白うさぎからとある方へと指を指しながらそう言われる。
見える?何のことだろう??
彼は首を傾げて、そして白うさぎの指を指した方へ体ごと視線を向けた。
ーーーーと、
「………?…………………………"扉"?」
その先にあったのは、
一つの光り輝く"扉"だった。
後半に続きます…。




