コツと、夢と、猫と
「じゃあ僕はここで」
「うん、コツ教えてくれてありがとう。クラース」
「ううん、こっちこそ台車を一緒に押してくれたりありがとう。
また話せて楽しかった!」
今度は僕の村にも来てね!と大きく手を振りながらクラースは分かれ道を左へ進んでいった。
そんな彼を姿が見えなくなるまで見送った後、アレク達三人は彼とは反対の道、右の道へと歩き始める。
魔法石について教えてもらい、実際に実践した後も何度か、アレクは石を使用していた。
魔獣の姿は多くはなく、あの後現れた別の魔獣は一体のみ。
その為道端に時折ある岩などを利用して使うのに慣れていこうとリオーレの言葉で、時折足を止めて使ってみたのだけど…。
「うーん…」
「アレク?どうしたの?」
初めて使用した時に使用方法の感覚は掴めた…のだが、どうしても瞬時に使えない。
これでは遅いんじゃ…?
今のアレクのように間が空いてから発動、というのではワンテンポ遅く感じる。
まだ先程のような猪の魔獣のように、攻撃のタイミングだったり、行動パターンがわかる相手ならいいかもしれない。けれど…そうじゃない相手なら?
ルーアが以前使って見せてくれた風の魔法の感じからすると、発動時間は一瞬だった。
そのくらいの感覚で使わないとそのような相手の場合は恐らく、怪我では済まないのでは?
そう思うと、どうしても何かコツがないのかと考えてしまう。
そうクラースに伝えてみた。
というのも、リオーレの教え方では中々答えにたどり着けない説明だし、ルーアの場合は魔法自体を発動させるならともかく、魔法石自体はそれ程扱ったことがないらしい。
使い方について左程変わりはないのだそうだが、慣れてない自分よりも扱いに慣れている二人から教わった方が良いだろうと彼女に言われたから。
彼と同じようにうーん…と考えながら、クラースは自分の持っている強化の魔法石に触れながら、自身を強化。
そしてその辺に落ちているただの石を握り、……そのまま砕く。
……え、すご。
「……。…アレクってさ、強化の魔法石使う時、もしかして色々と考えてない??」
「え?…うーん、どうだろ。
体全体をこう、強くするイメージはしてたけど…」
「そっか…」
クラースはまた考えて、そしてまた口を開いた。
「これは僕の感覚的なものだし、同じ魔法を注いだ魔法石でも個々で違うから何とも言えないけど…。
僕は石を使う時、例えばさっきの石。
この石は『手』で握って砕こうって思いながら使ってた」
どうも彼は、リオーレから言われていた『魔法石を握って頭の中で石に込められた魔法を使うのイメージを(グッと)して、それを使う対象に(ガッと)放つ』を省略していたみたいだ。
「たぶんアレクは、『体全体を強化する』というイメージをしてたんじゃない?」
「あ、うん。してた」
「基本的にそれは間違ってない。
使用する魔法石によってはそうじゃないと使えないのもあるから。
でも強化の魔法石の場合、
体全体を強化すればイメージのまま強化は出来るけど、その分発動してから体を強化する時間が少しかかるんだ。
だから使う部分、僕がさっきやったみたいに、手だけを強化するイメージでやると全体を強化するよりも早く使える」
そう言って彼は同じようにただの石を拾い握る。
そしてアレクみたいに体全体を強化してみるね、とそのまま強化の魔法石も握った。
それから直ぐに石を握ってみる。
…が、すぐに砕かれる訳ではなく、握られた石はしばらくしてからパンッと砕けた。
今度は先程クラースがしたように『手』を強化するイメージをしてから強化、そして同じように直ぐ握る。
その瞬間石は音をたてて砕けた。
「…こんなに差があるの?」
「うん。もちろん魔法石それぞれによっても、使う人によっても個人差はあると思う。
でも強化の魔法石の場合は、全体を強化するより部分的なものの方が発動は早くできるよ」
あくまで僕が使ってて、ではあるけど。
そう付け加えつつ、クラースはそう言う。
確かに…アレク自身もそれを聞いてなんとなく理解したし、納得もしていた。
それから彼のしたように、アレクもその場にある小石を拾うと、
(体全体じゃなくて…『手』だけを強化するイメージで)
手のみに魔法石の力を使うイメージをする。
するとすぐにふわっとする感覚、体全体を強化した時に感じたあの感覚を手に感じた。
その感覚を感じながら小石を握れば、パンッと砕ける。
「ぜ、全然違う…!」
「でしょ?」
魔法石の力を使用した際の速さが見ていても分かったけれど、実際使うとすぐ実感する。
…速い、先程よりも早く強化できた。
見てても思ったけどこんなに違うんだ…。
「これなら…オレ、猪の魔獣みたいなのとちゃんと戦えるかな」
「たぶん、初めての時よりは上手くいくんじゃないかな?
でもどっちにしても、そうなるには動きながらできるようにならないとだからね。
とにかく実戦あるのみなのは変わらないかも…;」
「うっ……じ、実戦…かぁ……」
彼の言葉に苦笑いしつつ、まぁやるっきゃないよな!と気合を入れる。
戦える3人と違い何も戦える術のないアレクにとって、魔法石を上手く使えるようになることはとても嬉しいことであり、足手まといになる自覚はあるのでその点でも大きな一歩なのだ。
と、まぁ…クラースからコツを教わって、最初の頃に比べたらだいぶ強化の魔法石の扱いが上手くなった気がする。
彼と別れてからも少し大きな石等で力の使い方を練習してみてそう感じた。
もう少し練習を、と思ってたけど、
「練習はそこまで、魔法石が大きいから大丈夫ちゃあ大丈夫だが、万が一使えなくなったら大変だからさ。
それに良い時間になってきたしこの辺りで野宿の準備すっぞ」
「そうですね、だいぶ日も落ちてきましたし」
よく見れば太陽は真上からだいぶ傾き始めている。
そんなに時間が経ってたんだ…。
二人の言葉で自分の為に前へ進む歩みを遅くしてくれてたんだなとわかり、ごめんと謝る。
二人とも気にすることはないとは言ってくれたけど……、今度はちゃんと状況を見つつでやろう。
それから道より少し膨らんだ広場のような場所を見つけ、そこに焚き火と簡易的な、彼の世界で言う寝袋のような布製の大きな袋。そこに体を入れて寝るんだとか。
焚き火の火で手持ちに入れていた食べ物を串に刺して焼いて食べる。
何処に持ってたの?!と驚けば、空間を扱うことのできる魔法石を使って収納してたみたいで、量はあまり収納できないらしいが一日二日程度の物なら大丈夫とリオーレは言った。
………ちなみに、この魔法石もそれを扱う人も、この世界にはあまりいないらしく見かけもしない、彼曰く、
「もしいたとしたら、たぶん魔王の国あたりになるんじゃねーか??」
「え」
だそうだ。
この世界に来た時点で、それに魔法がある時点でファンタジーだと思ったけど、『魔王』という言葉を聞くと更にファンタジーな世界にきたんだなぁとと実感する。
……魔王の国っていうくらいだから…強そうな人とか珍しい人?が多いんだろうな…など想像してみたり。
「救世主」
「…っっ!?」
アレクは突然目の前……、正確には顔間近で声がしガバっと目を見開いた。
そして最初に目に入るのは紫色に大きな目。
うわぁっっ!?!?と大きな声を上げて彼は身を起こしたが、それを気にすることもなく、紫色のそれはクスクスと声を出して笑いながらひらりと地に着地する。
あれ?、よく見ると見覚えのあるシルエット。
「久しぶりだね、救世主」
ーーー"久しぶり"
その言葉に思い出すのはあの"夢"。
まさか……、
「君は……あの時の"夢"の…」
「クスクス、覚えていたみたいで何よりだよ」
その言葉で以前の紫色の猫であることが分かった。
それが分かるとアレクは少し背中がブルッと寒気を感じた。
…………………待った。
(こ、ここは……何処だ…?)
ふと見回せば何もない。
先程までいた森のような場所だけど、でもそれだけ。
自分と目の前にいる紫色の猫しかいない。
ルーアは?リオーレは?
一緒にいたはずの二人の姿もない。
確か焚き火を焚いて皆で一緒にいたはずなのに。
「こ、ここは…」
「安心して。
ここは夢の中、君の心配してる二人はちゃんと現実で君の傍にいるよ」
彼が何を思っているのか察したのか、猫はそう言った。
……、………夢の、中?
「驚かせてしまってごめんね、救世主。
僕はこの空間でしか君と話はできないから、勝手に君の夢に入らせてもらってるんだ」
「…え?入らせて…って」
「そのままの意味さ。
まぁ多少…いじらせてはもらってはいるけど」
この猫の言葉の意味がよく分からない。
夢は夢、話せないとか、入らせてもらったとか、一体何の話だろう。
「君は…一体………?」
目の前の、以前一度夢に出てきた猫。
その夢でも今みたいに"こちらを見て話しかけてくる"、まるで現実のような……ブルッと体が震えたあの時の夢。
……今まさに同じ出来事が起こってる。
とはいえ、もう二度目だ。
会話ができるのなら、できれば話をしてみたい。
アレクは恐る恐る、目の前の猫にそう尋ねてみた。
「ああ、そうだったね。
まだ自己紹介もしてないのに僕ばかり話してしまった。
改めて、初めまして"今世の"救世主。
僕は"チェシャ"。
そうだね………今は、夢の案内人さ」
こんばんわ、ほしよるですm(_ _)m
修正に修正してたら結局今日になってしまいました…;;
毎度遅くて申し訳ありません…(;∆;)
今回は前回の続きと、その先の話を少し。
何やら聞き覚えのある名前が出てきました(*´ω`*)
この猫さんは何しに来たのでしょうか??
続きはまた次のお話にて…(ꈍᴗꈍ)




