初めての魔法石
*一部グロっぽい描写有*
流血表現はありませんが表現の一部にちょっぴりグロっぽい所があるのでご注意ください。
「いいかアレク、さっき俺が言った通りにやってみろ!」
「わ、分かった…!」
ここは森、国の人々からは”惑いの森”と呼ばれている、一度道を外れてしまうと迷子になりやすいといわれている…言ってしまえば迷いやすいだけの森の中。
アレク、ルーア、リオーレ、そして何故か一緒にいるシュピカルーレで出会った少年クラース。
四人の前には猪が突然変異したのだろうか、それに似た魔獣がいる。
「アレク様!ご無理はせず!けれど頑張ってください!」
「アレク頑張れ~」
後ろでそう声をかけている二人に対して、彼はまだ実践初めてなのに;と内心不安の中、目の前の魔獣と対峙している。
その手には…手で握れる程の大きさの石が。
「あーもうヤケだ…!」
正直に言えば、応援しているルーアもリオーレも、もしもの時は動いてくれると言っていたし信じているけれど、初めての戦いは怖い。正直怖いのだ。
ましてやこの石を使うのは初めてなのに…!
そう、只今絶賛戦闘中。
アレクにとって初めての戦い。
…何故いきなりこうなったか?
それは数時間前に遡る―――――
「あれ?アレク??」
「…?あ、クラース!」
出発してから間もなく、シュピカルーレの外へ続く門の前で、大きな台車を引きながら声を掛けてきたのは昨日出会った少年・クラースだった。
台車にはこれから自身の村へと運ぶであろう食材や消耗品の数々が。
よいしょっと台車からゆっくりと手を離し、
「もうこの国を出るの??
それに…リオーレ様まで一緒なんて、何かあったの?」
少々苦笑いをしつつリオーレへ視線を向ける。
やはり普通に考えて女王の弟である彼が一緒なのは不思議に見えるらしい。
…そうだよなぁ。
「えっと、何かあったって訳じゃないけど…」
「こんにちわ、クラース様。
これから私達はラビニスへ向かう予定でして。
リオーレ様は女王様から一緒に向かうように申し付けられてご一緒してるんです」
「まぁ言われたからってのもあるけど言っただろ?
これは俺の意思でそう決めたってさ」
「???
そう、なんですか??」
ルーアとリオーレ、二人からの返答に少々疑問を持ち首を傾げつつ、彼は昨日のようにとりあえず話に合わせてくれた。
ちゃんとした説明もなしなのにそう対応してくれる彼に感謝しつつ、アレクは彼の荷物を見ながらもしかしてクラースも帰るの?と聞けば、彼はそうだよと頷く。
「あ~そういやぁお前の村、ラビニスに行く途中にあるんだっけか」
「はい、森の途中にある分かれ道を左に曲がった先になります」
リオーレの言葉にそう返すクラース。
何でもラビニスに向かう道の途中分かれている場所があり、右へ進めばラビニスへ、左に進めば妖精の国『ファルータ』へ続く道へと続いているそうで、丁度彼の村はその途中にあるらしい。
というか、
「昨日も思ってたけど…一人で帰るの大変じゃない?」
あまり詳しいことを二人から聞いた訳ではないが、森の中には昨日話に出てきた魔獣という生き物が時折出てくるらしい。
最近はあまりそう言った魔獣が出てくるなんて事が少なくなっているとはいえ、全く出ないという訳じゃないという。
自分自身も含めた村の人々の為、週に一度…考えてみたらかなりの頻度を行き来しているのだ。
世界のことをあまり知らないとは言っても、その為に一人で…というのはあまりにも危険ではないだろうか。
そう思っている彼の事に気づいたのか否か、クラースは笑って平気だよ!と腰にしているバッグにごそごそと手を入れて何かを出して見せた。
…これって、……石??
「森に入るのに一人なのはいくら魔獣が現れないからって確かに危険ではあるんだけど。
いくつか”魔法石”を持ち歩いてるから大丈夫だよ」
―――……”魔法石”?
彼の口から出た言葉にアレクは疑問を抱く。
石…見た目が石だし、魔法が付くくらいだから……恐らく魔法が使える石…とか?
「あ?もしかしてアレク、お前…。
魔法石の事知らないのか??」
「え、あ、うん。いや、はい。リオーレ様」
「ん?なんだよ急に敬語になりやがって。
普通に話せって!それに呼び捨てで構わないぞ」
い、いやいやいや!!!
なんでここの人ってこうなの!?
年上で、ましてや王族ですよねあなた!?
そう思いながらも…ルーアと同じく、頑固??なのだろうか。
結局呼び捨てで呼ぶ事となったアレクであった。
さて話を戻そう。
魔法石について、アレクは予想でこうかなとは思っても必ずそうとは限らない。
という事で三人にこれについて聞く。
その際に説明してなくて申し訳ありません…!とルーアからかなり謝られたが…。
「魔法石ってのは、まぁ言ってしまえば誰でも魔法を使える石、だな」
リオーレが言うにはこうだ。
魔法石。
人一人にしか持たない魔法をとある天然石に一定の力を注ぐ事で出来る、言うなれば誰でも魔法を使用できる石の事らしい。
とある天然石というのが透明な水晶だそうで、他の石では魔法石は出来ない。
小さなものから体よりも大きなものまであって、一定の回数を使い切ると魔法石は粉々に砕け散るのだそうだ。
この魔法石は魔法の使えない者の助けとなっており、結構あちらこちらで見かける…アレクは未だ見たことなかったのだけど。
ただ大きさと比例して魔法を注ぐ量も違う上、使用できる回数も魔法の能力や注いだ人の級によって変わってくるそうで。
例えば、下級の魔法持ちが水晶に力を注いだとしよう。
その場合大きな水晶だと注ぐ時間がかなり掛かってしまうが、下級の場合使う力の量が少ないのもあって使用回数はかなりある。
逆に上級、この場合国のトップである王達が該当するのだが…。
上級の場合、小さな水晶でも大きな水晶でも力を注ぐのはそこまで掛からない。
ただ、能力が強いせいで石に負荷がかかる為なのか、数回使うだけで石は直ぐに割れてしまう。
「魔法石は使い勝手が良いから、自分の魔法を使っていいという者達が旅人や商人、生活に必要な者に提供してる事が多いんだ。
…たまに変な輩がいるから、そういう奴はボコボコにして動けなくてから捕まえて牢に入れちまってるけどな」
今しれっと怖いこと言ったなこの人。
「じゃあ…クラースが持っている魔法石も行き帰りの安全の為に?」
「うん、そうだよ。
えっと今日持ってるのは…風と水、それとさっき買い足した強化の魔法石だよ」
そう言って腕に付けた紐…にくくりつけてある石を見せる。
強化??
にこっと笑いながら腕をふんっと…力こぶは出てないけどそう腕を曲げて、荷物がいつも多いから強化の魔法石で自分に使って荷物を運んでるんだと彼は言った。
「魔獣とか…たまに会うんだけど、荷物を取ろうとする盗人を追い払うのにも結構使ってるから、この魔法石は国に来る度に買い足してるんだよ」
「へぇー…」
なにそれすごい。
失礼だけども、見た目からすると力のあまりないような少年が、こうやってやるんだよとしているぱっと見痛くなさそうな優しいパンチで撃退してるとか…え、なにそれすごい。
そんな風に目を輝かせていたからだろうか。
「……んー。
アレクも使ってみたいなら実践してみっか!」
「………、……ぇ?」
―――――……そして冒頭に戻る。
森の中を途中まで同じだからという事でクラースも共に歩きながら、急遽ルーアが購入した手で握れるくらいの大きさのクラースが見せてくれたものと同じ強化の能力が注がれている魔法石。
その使い方をリオーレから教わる事となったのだ。
何故彼が、というと。
「俺は魔法持ってないからな」
「え、そうなの??」
彼は姉である女王とは違い魔法は持っていない。
代わりに剣術を極めたそうだ。
けれど、剣術では退治できない魔獣も過去にいたそうで、その対処をする際に魔法石を使っているそう。
また、同じく石を使用しているクラースは荷物を運ばないといけないのもあり歩きながら教えるにもできない。
なのでリオーレが教えると挙手を挙げたのだ。
が、その教え方は中々のもので。
「魔法石を握ったら、グッとしてガッと放つんだ」
「え…??…グッとして……え???」
「だからグッとして、ガッと放つんだって」
「???」
……なんというか、感覚的に使ってたんだろうか。
言ってることがわからない。
この人、教えるの下手では…???
グッって何を??ガッていうのはたぶん石の中の魔法を放つって事かなとは思うけど…。
とりあえず後ろの方でクラースの荷物を押していたルーアがそれを聞いて補足してくれたので何となくは理解した。
つまり彼が言いたかったのは。
魔法石を握って頭の中で石に込められた魔法を使うのイメージを(グッと)して、それを使う対象に(ガッと)放つ、という事である。
……ちょっとは合ってたけど…でも分かりにくな…言葉足りてないよ;
補足としてルーアが言うには、魔法石はクラースがしているようにアクセサリー等身に着け、同じようにすると能力を使えるらしく、一般的には身に着けやすい大きさが好まれやすいそう。
ただ、今彼が持っている大きめのサイズだとポケットにも入らない為、握った方がいいという事でリオーレは握るようにと言ったとのことだ。
まぁ彼の説明はともかく、ルーアのおかげで何となくは理解した。
…ので、丁度その際に猪みたいな魔獣が現れたものだから、じゃあ今教えた事を実際やって体験してみようか!…という話になって今に至る。
(あーもう!当たって砕けろだ…!!)
一回練習、とかではなく実践という今の状況。
うまくいくかも分からないのに、けれど魔獣は既に戦闘態勢。
…というか、…もう既に真っ直ぐこちらに向かってきてる。
後ろにはリオーレ、ルーア、そしてクラース。
避けたら…いやきっと避けても二人がどうにかしそうではあるけれど。
(絶対倒してみせる…!)
どんな理由があれど、アレクは否を解く。
避ける選択はしない。
彼は向かってくる魔獣に視線を逸らさず、そのまま魔法石を握りイメージを頭で(グッと)思い浮かべる。
これは強化の魔法石。
そう、強化だ。
力を強くする、力…。
アレクの世界のゲームのように、武器に強化…しようにもリオーレのような剣はない。近くにそういう物もない。
…強化、そう、強化するもの。
クラースが言ってたみたいに体を強化して…!
彼はそのイメージのまま、自分自身に向けて魔法石の力を(ガッと)放つ感じで……!!
すると、石から仄かに淡い光、そしてそれと同時に。
(あ…、なんだか体が)
ふわりと軽くなったような感覚を彼は感じ取る。
…成功…?今、強化されたって事…??
初めてで分からないけれど、今はとにかく目の前の事だ。
「…あれ?」
さっきまですごい勢いで突進していたはずの魔獣の動きが、何故か遅く見える。
これも強化のおかげ…?
あぁ何だろう、これなら相手が先に攻撃してくるより先に。
「なんか…当てれそう…!!」
『グガァ…っ!?』
その言葉と同時に、こちらへ突進していた魔獣がアレクのグーパンチで後方へ勢いよく飛ばされる。
地面へドンッと強打しゴロゴロと転がっていく。
そして木に当たってようやく魔獣の体は止まった。
とはいえただのグーパンチ。決定打とはならず、魔獣は痛みで少し震えながらも怒りを露わにしながらその場に立った。
「や、やっぱりパンチじゃダメか…!」
「初めて魔法石を使ったにしては上々!
それに今のパンチも小さい魔獣なら結構効いてたと思うぜ!」
「でも…」
「大丈夫だって!まぁ今回は猪の魔獣がでかいからなんだし、そんな気にするなよ………っと!」
後ろで見ていたリオーレがポンッと彼の肩にニカッとしながら軽く手を乗せ、それから直ぐ前方の魔獣へ向かい走る。
…え、早っ…!?
魔獣はその彼の姿を捉えるとすぐさま後ろ足を2度蹴ると、そのまま再び突進してきた。
ってあ、あれ??
魔獣もさっきよりも突進早くない???
そんな事を思っている内に。
それよりも早く魔獣の前へ到達したリオーレは大きく剣を振り上げ、
「俺が相手で悪いな!………あばよっ!!」
―――ザンッッ…!!
『…!!!………』
その瞬間、風を切るような音。
魔法を持っていないというのに、魔獣までの距離の詰め方も早く、そしてこの剣の威力。
その剣に成す術もなく、声なく倒れる魔獣。
…そして同時にボトリ…と地面へ転がるその首。
アレクはそれにヒッと思わず声に出そうだった。
……が、通常の動物とは違う体なのだろうか。…体内から血のようなものは流れなかったのは幸いだ。
斬られた首を見てまだドキドキとしている彼は、それを見ながら思った。
(倒していい、とは言われていたけど…こんな風に斬っちゃうんだ…)
…まぁそうだよね、うんそんな気はしてたけど。
目の前の出来事に驚いたし、一瞬でも怖いと感じたけれど。
けれど自分がそう思うだけで、この世界の人々には当たり前の光景。
魔獣というのはこの世界の動物が突然変異で生まれたもの、通常の動物とは違って狂暴化し人を襲う。
だから退治するもの、排除するもの。
倒すのが当たり前。
それにほら、魔獣を斬ったリオーレも、ルーアもクラースも、特に顔には動揺もない。
それがちょっぴり、
(悲しいと思っちゃ…ダメ、だよな…)
魔獣へ攻撃した後で思うのも、こうした光景を見てから思うのも、なんとなく失礼だよなと…そうアレクは心の内で思うのだった。
こんばんは!ほしよるです。
…だいぶ間空いてしまいすみません;;;
お久しぶりになりますが、続きになります!('◇')ゞ
今回は少しだけ戦闘…というよりは魔法石の使い方を学ぶ回ですね。
それとリオーレ…実は剣術使えます、の回でもある(((
魔法石については今回小説内で書いてあった通りです。
……その内に言葉のまとめページも作ろうかな?(いつになるだろう…←)
一応今月はもう1話出せそうなので頑張って出します!
それでは(^.^)/~~~




