旅立ち
「その猫様、
もしかしたらチェシャ一族の方かもしれません」
「チェシャ一族?」
あの夢の事をアレクは彼女に話した。
あれはどう考えても夢なのにおかしい。
こちらを見て話しかけるようなそんな夢は普通はない。
だからこそ驚きしかないし、少々不気味に感じた。
とはいえ、ルーアはそんな話を聞き思い当たる一族の名を口にする。
それがチェシャ一族。
名前からしておそらくあの童話によく出てくる紫色の猫なのかな…?
アレクのその疑問はともかくとして、
ルーアの話は続く。
「チェシャ一族は長く姿を現したことはないのであまり詳しくはないのですが…。
魔法の能力は確か…幻を見せる…だったはずです」
「幻?」
幻というと目の前に本物みたいな偽物を見せる…的な?
あと考えられる幻といえば…。
「チェシャ一族の魔法で出される幻は、その能力を使った人の大事な記憶だそうです。
それを見せて人を幸せな気持ちにさせたり、逆に騙したりしていた…と聞いてます」
…なるほど。
アレクはそうなんだと答えながら、内心納得した。
アレクの世界では小説などで幻の表現がある時にそういう人の記憶を使って何かする、と言ったものもあった。
だからこそなんとなくルーアの言葉に納得できたのである。
ただ…。
(あの夢は……幻だったのかな…?)
もし自分の寝ている間にチェシャ一族が傍に来て幻を見せていたとして、あんな幻を見せる意味は?
それに、………あれは違う気がする。
幻とも思えない……、まるで実際にそこにいたみたいな。
そう思うとアレクはぶるっと、
少し自分の体温が下がったような気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
数刻後、アレクは固まっていた。
「……」
「よぉっ!アレク!!昨日ぶりだな!」
目の前にいる、この人物を見て。
「………なっ、」
「んん??どうした?
変な顔しちまってるけど」
「……いやいやいや!!!な、なんで普通にいるの!?」
何でかルーアはわぁリオーレ様おはようございます〜と特に気にしてなかったのだが。
けれどアレクは本当にびっくりである。
何故なら彼の格好、明らかに旅支度の後の服装に荷物に、何故が腰に剣。
しかも何故か普通にアレクとルーアとしれっと合流とか。
「んー???いや、ほら。
お前らラビニスに向かうんだろ?
じゃあ俺も一緒に行かねぇーとな!って思ってさ!」
や、やっぱりーーー?!
いや、心強いよ!もちろん!
二人旅ってラビニスへの道のり聞いてかなり大変そうだなぁとは思ったし。
でもまさか、…まさか!
(王族が普通に国の外出ていいのっ!?!?)
そんな簡単に一緒に来るとかいいの?!
内心混乱でぐるぐるとしている彼と、その様子に心配するルーアの元へコツコツと靴の音。
女王がこちらに歩いてきているのが見えた。
「女王様!」
「ふむ。旅の準備はできたようだな」
女王は特に驚くことなく、アレク、ルーア、リオーレの顔を見ながら言う。
この感じは……女王は恐らくリオーレがともに行くことを知っている。
「じょ、女王様!あの…!」
「よい。言いたい事は分かっている。
……リオーレは私がついて行けと命じた」
「え」
知っているとは思っていたけど、彼女自身が命じた…と。
「昨日も言ったが、私はお前が救世主だとは信じてはいない。
だからこそリオーレを共に行かせ、ロッタの話を共に聞いてきてもらおう為命じた」
「……」
確かに最もな話。
アレク自身も自分が『救世主』だと言われても信じられないのに。
ましてや彼女達にとって自分は異世界から来た来訪者に過ぎない。
そう言われても仕方がないし、それは昨日だって思った事。
だとしても、やっぱり何度も面と向かって言われると少しだけ…。
「命じたって言ったって、俺の意思でお前についてくって決めたんだぜ?
大体ラビニスへ向かう途中の森、最近良い噂は聞かねぇし、二人だけで行かせるのも心配だしな」
リオーレの言葉にアレクは顔を上げた。
最後の方の話は…気になるけどまぁ置いといて…。
彼は彼で自分達を心配してくれたみたいだ。
女王の意図は分からないにしろ、彼の言葉は昨日の彼の態度から見ても本当と思っていいかもしれない。
「女王様、私もです。
アレク様が例え救世主でなくても、私は私の意思でアレク様の傍にいたいと思っております」
ルーア…。
彼女もそう女王へ言う姿に、アレクは少し目がうるっとなった。
女王はそんな二人に、そうか…と少し笑った…気がした。
そして改めてアレクの方へ視線を向け、
「アレクよ」
「…はい」
「………」
「………?女王様?」
名前を呼ばれて返事をするも、女王は無言になり彼を見たまま。
かと思えば、
「………いや、…………。
アレク、旅の道中は気を付けて」
「…!」
女王は確かに笑った。
でも昨日とは違う柔らかな笑み。
あの女王から感じた王としてのオーラ…のようなものを今は感じない。
ただ旅の無事を祈るかのような、そんな誰かの。
「………、…………はい。
気を付けて行ってきます!」
そんな彼女に答えるように。
そんな彼女が大丈夫だと感じてもらえるように。
アレクもまた、満面の笑みで返すのだった。
大変遅くなり申し訳ありません…m(_ _;)m
色々とやってたら遅くなりましたが、前回の続きになります!
次回はアレク、ルーア、リオーレの三人旅の話………の予定(*´ω`*)←
のんびりなのでまた遅くなると思いますがのんびりでも出してきますので、良かったらまた読みに来てもらえたら嬉しいです〜(ꈍᴗꈍ)




