84.踏破者、日常生活に悩む。
「主よ、ラマシュトゥから連絡がきた。」
剣呑な空気の食卓にあって、その空気を全く意に介していないパズズがそう告げてきた。
ラマシュトゥはティアの護衛に付けているので、つまりは彼女からの連絡という事だ。
若干食卓の空気から逃れたかった俺はその話を聞く。
「どんな内容だ?」
「依頼したい仕事があるので明日私の自室へ来てほしい。フレンブリード領についての事だそうだ。」
フレンブリード領か…。
今は辺境伯であった俺の父が失脚し、代官が治めているはずだが、何かあったのだろうか。
わざわざフレンブリード領の件と言ってきたからには俺にも何らかの関係がある話なのだろうか。
「わ、鷲が喋った!?」
声の上がった方を見やると、レクシアがパズズを指さして驚いていた。
そう言えばこいつは事情を知らんのだな。
「この鷲は俺の眷属の魔神だ。名はパズズ。」
「ま、魔神!? え?眷属!?」
レクシアが目に見えて狼狽している。
まぁ普通はそうか。
魔神と言えば人族の神のような魔族の神に当たる存在だ。
神と言えば人とは隔絶した存在だからな。
普通は人の下に付くようなことは考えにくいのだろう。
実際相対すると大したことなかったんだがな。
まぁ人の強さがピンキリなように、魔神の強さもピンキリなのだろう。
「これ以上説明する気はないからそういうものだと理解しろ。俺、シファ、レベッカ、パズズで明日王城へ行くぞ。パズズ、ラマシュトゥにそう伝えておけ。」
「承知した。」
パズズが返事をし、シファが頷く。
レベッカは食事に夢中のようだが聞いているのだろうか?
まぁパズズが付いてるから大丈夫だろう。
「パズズ殿…でいいのか?のことはまだ飲み込めてはいないが、私はどうすればいいのだ師匠。」
「お前はさっさと家と職を探してこい。」
「家ならあるぞ!!」
「ほう?どこに?」
「この家だ!!既にメルさんとリルさんに部屋もあてがってもらっている!!」
なに余計なことしてくれてんの!?
こいつマジでここに住むつもりかよ!?
メルとリルに視線を送る。
2人ともこの状況を楽しんでいる。そんな表情をしていた。
く、この2人を使用人にしたのは間違いだったか?
「師匠の世話をするという事で隣の部屋にしてもらっている。何でも言ってくれ!!」
「シルバ!!この2人に決定権を与えるな!!甘やかしてんじゃねぇ!!」
シルバは苦笑いだ。
俺は大仰にため息をつく。
「レクシア、部屋は1階の客間を使え、ただし家が見つかるまでだ。そして弟子なんて取る気はない。いいな。」
「なっ!?」
「話は以上だ。俺は疲れたから寝る。」
そう言って俺は自室に戻った。
◇◇◇◇◇
翌朝、朝の日差しで目が覚める。
寝ぼけたままベッドの上で上体を起こす。
「ん…。」
不意に隣から声がする。
反射的にそこを見ると、衣服を纏っていないシファが寝ていた。
今回はこちらに背を向けているので安心?だ。
ゆっくりと布団をかぶせて俺はベッドから降りる。
俺も何故か裸だ。
なんで?
辺りを見回しても寝間着がない。
なんで?
寝間着を探すのを諦め、鍛錬に適した軽装に着替えて部屋を出た。
顔を洗って庭に出る。
洗顔は偉大で、薄れている意識も暴走しかけていた煩悩も洗い流してくれる。
「師匠おはようございます。」
庭には既に軽く汗をかいたレクシアが居た。
俺の姿を見て挨拶してきた。
「おはよう。弟子は取らないから師匠はやめろ。」
そっけなく対応して自身の鍛錬を始める。
レクシアが傍に正座してこちらをガン見しているが、無視だ。
見て覚えるくらいは自由にどうぞという感じだ。
【圧】をかけて基本の型の素振り。
俺は正確に刀を振れるよう集中する。
その後、無心に木刀を振り続けた。
「…見事だ、師匠。基本の型のみのようだが、どこの流派の剣術なのだろうか?」
「どこでもないよ。幼少期に稽古をつけていくれていた人が居てな、そこで習った基本の型をずっと繰り返しているだけだ。」
俺は朝の鍛錬を切り上げ、屋敷に入る。
レクシアもそれに追従してくる。
どうやら彼女も朝の鍛錬は終わりのようだ。
「師匠の太刀筋は何百年も刀を振り続けているような、極まったものを感じる。その若さでどうやってそこまでの境地に至ったのか。私はそれが知りたい。」
鋭い。
意外と彼女は真面目に剣士としての高みを目指しているようだ。
となると尚更、基本の型しか知らない俺が彼女に教えれることなんてないのだが…。
まさか時間経過の遅いダンジョンに数百年籠れとは言えないし…。
そもそも【アビス】のない今、この世に同じようなダンジョンあるかもわからないしなぁ。
シファも同じダンジョンはもう作れないと言っていたし。
「正直に言って、俺が人に教えれるようなことなんてないよ。見るのは勝手だが、期待はするな。」
そう言って扉にかかっているネームプレートを移動させて脱衣所に入る。
レクシアもネームプレートを移動させて脱衣所へ入る。
なんで?
ネームプレートがあるのもなんで?
「何してんの?」
俺が尋ねると、彼女は顔を赤くする。
「お背中をお流ししようかと。昨晩は夜ば…添い寝させていただこうかとしたのですが…、あの女に邪魔されまして。」
「あの女って、シファか?というか言い直してたけど夜這いも添い寝も意味はたいして変わってないぞ。」
「ええ、それは私よ。」
見ると脱衣所の中にはシファが居た。
なんで?
「主殿に変な虫がつかないように目を光らせているのよ。主殿は朝の鍛錬後にここへ来るでしょう?何か事件が起こるとしたらここの可能性が高いわ。」
「変な虫とはなんだ?私は師匠の弟子だぞ?」
「自称でしょう?今のあなたは押しかけ女房もいいとこよ。」
「いや、2人とも出て行ってくれない!?」
俺は朝から疲れを溜めるのであった。
そういえばラマシュトゥさんも名前省略したいんですよね…。
文字書きにくくて仕方ない…。
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