81.踏破者、弟子入りを直訴される。
「目が覚めたよ。」
自室で書物を読みふけっていると、いつの間にか入室してきたシファがそう言ってきた。
時刻は昼前。
あれから5時間くらいか。
俺は読んでいた書物を閉じ、腰を上げる。
「分かった。行こう。」
そして向かった先。
拠点の空き部屋に彼女、レクシアは寝かされていた。
ベッド脇にはメルが控えている。
ノックして俺が入室するとレクシアが体を起こす。
「無理に起きなくていいぞ。…なんだかすまなかったな。」
「いや、…何があったか覚えていないんだが、どうなったんだ?」
それを俺に言わせるか?
いや、本当に彼女が覚えていないならそれを知っているのは俺だけになるが…。
「…どこまで覚えている?」
とりあえずジャブを放つ。
「えーっと…。貴公に頼み込んで、重力魔法を使ってもらったところだな。」
心なしかメルがこちらを見る眼が半眼になったような気がする。
しかし普通に最後以外は覚えているんだな。
出来るだけ問題を大きくせずにこの場を乗り切るにはどう説明するか…。
下手に骨折とか言って傷害問題にされたりしても敵わない。
「そこまでは覚えているか。…その後はその魔法に耐えられなかったあんたが倒れて気絶しただけだ。」
うん、問題になりそうなところを省いてシンプルに説明。
これだな。
「シファ殿には両腕と片足の複雑骨折だと聞かされたのだが…。内臓もいくつか損傷していたと…。」
「おい、シファ。お前後で説教な。」
俺は横にいるシファを睨む。
彼女は何か変なこと言ったかな?くらいの表情で首をかしげている。
「別に責めたりはしない。そうするよう頼んだのは私だからな。それと治療してくれてありがとう。」
「お礼なら主殿に言うといい。泣きながら私を呼びに来たからな。」
「泣いてないわ。泣きついたけど。」
レクシアはそのやり取りを聞いて苦笑いした後、少し表情を暗くする。
「貴公はその負荷の中であれだけ正確に剣を振り続けられるんだな。」
ん?朝の素振りの話か?
そういえばいつから見られていたんだろう。
「まぁ慣れかな?俺も最初は重力魔法のレベルが低かったから小さい負荷からのスタートだったしな。」
「そうか…。」
彼女はそう言ってしばらく黙った後、意を決したような表情でこちらを見上げてきた。
「ジーク殿!!私を弟子にしては貰えないだろうか!!」
「は?」
俺は突然のその申し出に唖然とする。
どういう話の流れなのか全く飲み込めない。
これは一回頭の中を整理しよう。
彼女とのこれまでの邂逅を思い出す。
最初は王城で出会い、強制的に手合わせさせられて負かす。
次は拠点に初めて来たときに隣の家から出て来て睨まれる。
そして今朝鍛錬していたら覗き見されていて魔法をかけるよう要求される。
んで、魔法を使ったら彼女が大けがをして死にかける。
やべぇ、思い返してもさっぱり何もわからん。
「貴公が私なんぞを歯牙にもかけぬほどの強者であることは理解した。私もそのステージへ行きたいのだ。鍛えてもらえないだろうか。」
ははぁ。
つまり自分より強い奴の所に弟子入りして鍛えたいという事か。
だがそんなものを引き受けても俺には何のメリットもない!!
「断る。」
「なっ!!私は【剣姫】だぞ!!民衆の支持も高いし容姿にも自信はある。それを弟子にするなんてあこがれるものではないのか!?」
「いや、なんで上からなんだよ。っつーかそんなものに興味ないわ。だいたいあんた第一王女の王族専属騎士だろうが。あの王女さんが第二王女の王族専属騎士への弟子入りなんて認めないだろ。」
「…私は王族専属騎士を辞するつもりだ。元々そんな地位に興味もないしな。それより、自身を鍛えてより強くなりたい。」
むぅ。
これは中々覚悟が決まっている感じだな。
こんな面倒なこと絶対に引き受けるわけにはいかない。
「貴公の弟子になって強くなる。そのためなら何だってやるつもりだ。なんだったらこの体、好きにして貰ってもかまわない。」
「なんでそうなる!?俺の周りこんなのばっかりか!?」
「それほど貴公の強さは強烈なのだ。そしてそのステージに立てるなら交渉に使えるものは使う覚悟だという事だ。それに…まぁ妥協できるレベルだし。」
「妥協言うな!!」
はぁ。
なんか疲れるわ。
なんだか俺の隣にいるシファから殺気が漏れ出してるし。
んで、その殺気はなんでかコイツじゃなくて俺の方に来てるし。
もう一つ言えば成り行きで同席しているメルなんかはずっと目を輝かせっぱなしだ。
こういう話好きだもんね。
ここはあれだな。
勢いで説き伏せて断る!!
「レクシアだったな。悪いがあんたを弟子にすることはできない。ただ強くなりたい。その願望にまっすぐ進んでいるあんたは強くなった後どうするつもりだ?そこに何があるかを考えるべきだ。何もなく強くなってしまった人間なんて、ただの危険人物でしかない。その鍛えた力を振るう場を探し回る戦闘狂となってしまうかもしれない。強くなるには相応の理由が必要だと俺は思う。今のあんたからは強くなりたいという願望しか見えてこない。一度頭を冷やして考えてみると良い。その答えがでて、俺が鍛えるに値すると判断したらその時はあんたを弟子にとろう。」
なんか途中から何言ってるかわからなくなった。
何回か嚙みそうになったし。
「これが…ブーメラン…。」
何か隣でシファがつぶやいたが意味は分からなかった。
「…っ。」
どうやら反論はない様だ。
どうにか断ることには成功したようだし、軌道修正してアルカディア魔道具研究所へ報告に向かうとしよう。
俺はシファを伴って部屋を出て行く。
「ジーク殿!!私は諦めません!!必ずや貴公の弟子になって見せます!!」
俺は無言のまま部屋を後にした。
なにあれ??
全然諦めてないじゃん!?
「主殿が最後、その時は弟子にとろうなんて言うからですよ。肯定的に捉えたんでしょう。」
シファがため息交じりに説明してくる。
どうやら彼女に諦めさせるにはもう少し話し合いが必要なようだ。
それを考えただけで少し憂鬱な気分になる。
俺は重い足取りのままアルカディア魔道具研究所へと向かうのだった。
これが…ブーメラン…。
勿論ジークさんはそんな事気付きません。
細かいことは気にしない!!そんな人間に私はなりたい!!
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