76.踏破者、調理する。
実は、魔物の最後については謎が多い。
魔物の死体は時間経過と共に魔素が抜け、それほど時間を置かずに風化してしまうため研究が出来ないのだ。
なぜ剥ぎ取った素材は風化しないのかと言った問題も未解決となっている。
一説では魔物の死体のそばに人が居るのと居ないのとで風化速度に差が出るという事実から、人から何かしらかの影響を受けて素材は現実の物質となるも言われている。
まぁ大半のハンターは「そういうもの」として気にすることを止めている奴がほとんどなのだが。
そして魔物素材と言うと、武器防具や魔道具の素材となったり魔術の媒体となる特定部位以外にも食用肉というのがある。
これがいわゆる魔物肉だ。
魔物肉も素材と同じく、剥ぎ取ることで風化を避けることが出来るが、劣化が早く、ほとんど市場には出回らない。
つまり、実質魔物を狩ることを生業としている者にしか食べられない肉という訳だ。
俺は魔物解体用の小刀を取り出すと【大角鹿】の解体に取り掛かる。
3人(と1匹)なのでもも肉だけで十分だろう。
腹周りの肉は脂身が特に多いしな。
手早く必要部位を切り出し、皮を剥ぐ。
俺一人ならこのまま焼いてかぶりつくが、女子2人にそう言う事をさせるわけにもいかない。
もも肉を一口大に切り分けていく。
「魔物肉って白いんですね。もっとこう、紫とか黒いイメージがありました。」
レベッカの突拍子もない話に苦笑する。
「弓矢をベースに戦うと中々肉を見る機会はないからな。意外とこういった獣系の魔物の肉はきれいな白に近いピンク色の事が多いかな?【小鬼】なんかは少し緑がかった色だぞ?」
「うぇ。小鬼】も食べたりするんですか?」
「俺は食べたことないな。人型のフォルムの魔物はそう言った食肉としては忌避される傾向にあるらしい。でも【半豚人】の肉は旨いって噂は聞くな。」
「うう、ボクは【半豚人】も生理的に受け付けないです。」
「まぁ無理に食べるもんじゃないさ。」
俺は一口大に切り分けた【大角鹿】のもも肉を金属製の串に刺していく。
持ち手部分に牛革が巻かれて肉を焼いた直後でも持つことが出来る優れものだ。
肉の準備ができると、次は火の準備だ。
徐に立ち上がると近くに生えている木の根元まで移動する。
「何するんですか?」
「まぁ見てな。」
レベッカの疑問に適当に答える。
というか別に何か特殊なことをするわけじゃない。
ただ燃料としての木材を集めるだけだ。
俺は木に対して半身の姿勢を取ると、回し蹴りを放つ。
剛力を乗せた俺の蹴りは木を容易に圧壊させ、切断した。
達磨落とし状態となった木の上部分が落下し、そのまま地面に倒れる。
俺はその木を適当な長さになるように踏みつぶして切断していった。
「へぇ、木材の伐採ってこうやってしてるんですね。知らなかったです。」
「童よ、これは一般的な方法ではないと思うぞ?主にしかできんだろう。」
感嘆しているレベッカにパズズが一般常識を教え込んでいる。
意外と人族の常識とか知ってるんだな。
「ジークさん。この木を燃やして火を作るんですか?」
「そうだ。だが、このままでは火が着きにくいし、火をつけても大量の煙がでてしまう。乾燥させないとな。」
「乾燥ですか?」
「普通は1年位放置するんだが、ここでは簡易的な方法で疑似乾燥させる。【圧】」
俺は木の中心に向けて力が加わるよう魔法を放つ。
メキメキメキメキ
嫌な音を立てて押し潰れる木材。
そして、その木材からは表面に圧搾された水分が出て来ていた。
適当な所で【圧】を解除すると水滴は地面に落ちる。
残ったのは体積を3分の1位に減らし、水分をしぼりとられた木材だけとなっていた。
「何と言う力業だ…。」
パズズが驚いているが、似たような方法ならいくらでもあるだろう。
別に驚くほどの事ではない。
「じゃあこの木を使って調理用の火を起こそう。」
木材を拾い集めて休憩地点で1カ所にそれをまとめる。
今度は火を起こすのだが、これは特に問題にはならない。
「レベッカ、生活魔法は使えるな?【種火】を頼む。」
「分かりました。【種火】。」
レベッカは手の先に直径3cmくらいの火球を出すとそれを木材に近づける。
少しそのままにしていると、パチパチと何かがはぜる音と共に火柱が立ち上り始めた。
「よし、そしたら今度は肉を焼いていこう。シファ、結界頼む。」
「承知した。【聖域結界】。」
シファが魔法を放つと直径20m程のドーム状の透明の壁が現れる。
内外を遮断する結界だ。
シファ曰く最高位の結界魔法でSランク魔物の攻撃でもびくともしないとの事。
ほんとかよ。
ともあれ、これで焼いた肉の匂いにつられて魔物が現れるという事態を回避できる。
心置きなく焼いていこう。
火の回りにくしを刺し、炎熱であぶっていく。
味付けはとして少し塩を振りかける。
肉の焼ける音と匂いが辺りに立ち込めると、レベッカは早く食べたそうによだれを垂らす。
いや、普通に垂れてるよ?
女の子なんだから気を付けて。
「そろそろいいかな。ほれ。」
俺は串を一つ抜いてレベッカに手渡す。
「最初にいいんですか?」
「ああ、食べてみてくれ。」
「では。………おいしぃぃぃぃぃぃぃいいい!!」
辺りにレベッカの絶叫が響き渡る。
結界張っててよかったな。
パズズさんはおじさんが定着してきたと思います。
そろそろラマシュトゥさんの事も書いてあげないといけないなと思いながら…
王戦の話はもう少し先ですね。
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