72.堕天使、決意する。
アルカディア魔道具研究所から拠点へ戻る。
もう深夜なのでこの拠点で生計を共にしている仲間たちは先に寝ている。
まだ一人で寝ることが出来ないレベッカはあのややこしい双子のどっちかと寝ているはずだ。
「今日は遅くなったし、明日は昼まで休むようにしよう。じゃあまた明日。」
ジークはそう言うとさっさと浴場の方へと歩いていく。
この家は王都の貴族区にある屋敷という事もあり、数人が入れる浴室が備えられている。
これはチャンスでは?
時刻、深夜。
私とジーク以外は就寝中。
私だって汗を流したいのは一緒だし、一緒に入っても不自然ではないよな?
答えは…まったく不自然じゃない!!
私はジークの後を追って浴場へと向かった。
脱衣所の扉には金属版がかけてあり、この拠点に住んでいる者のネームプレートが張り付けられている。
金属板には入浴中と書かれている枠があり、入浴の際にはネームプレートをこの枠の中に移動させる約束になっている。
浴場は1つしかないので男女の事故が起こらないようにという工夫だ。
当然だが、今はジークのネームプレートが枠内に入っており、その他に入浴中の者はいない。
私は自分のネームプレートを枠内に移動させ、脱衣所の扉をゆっくりと開ける。
ジークは既に浴室へと移動した後らしく、この空間には居ない。
私も服を脱ぎ、空いている衣類籠に放り込んでいく。
一糸まとわぬ姿となったところで一つ悩む。
流石にこのまま裸で浴室へ入るのはやりすぎかな?
私はバスタオルを体に巻き、浴室へと入った。
浴室は湯気が立ち込めており視界はクリアとは言えないが、誰が居るかくらいは分かるだろう。
「ん?誰だ?」
ジークは湯舟横の洗い場で頭を洗っていた。
眼を開けられないので誰が入ってきたか認識できないでいるようだ。
「私よ。」
「シファ!?今俺が入ってんだけど!?」
「知ってるわよ。でも別に問題ないでしょう?」
そう言って私も洗い場へと移動し体を洗い始める。
勿論バスタオルも外してだ。
だが、3か所ある洗い場にはそれぞれの間に仕切り板が設けられている為、横目にはその姿を確認できない。
「シファが気にしなくても俺が気にするんだよ…。」
隣に居るはずのジークはそう言うと湯舟に移動する。
一応気にされていないわけではないようなんだが…。
これはあれかな?
すり寄るんじゃなく煽る方が効果あるのかな?
「主殿はヘタレだからな。」
「ヘタレ言うな!!」
「いや、私のような美人がすぐそばで無防備にしているのに手を出してこないのはヘタレでは?」
「ぐ…。ほっとけ。俺が獣になっても困るくせに。」
む。そっぽを向かれてしまった。
男を見せてくるかと思ったが…。
待ってる私の身とすればさっさと既成事実を作ってしまいたいんだが。
あれ?なんでこんなに必死になってるんだっけ?
理由があったような…。
忘れた。
まぁいいか。
私は体を洗い終わると湯舟へと移動する。
バスタオルは巻いたまま、ジークの隣に腰かける。
「近いわ!!」
そう言ってジークが距離を取る。
顔が一瞬見えたが照れていた。
かわいい表情をするではないか。
何というか…嗜虐心をくすぐられるな。
それはさておき、無防備にして待ってもダメ。
ちょっと煽ってもダメ。
となれば、もう直接誘うくらいしないといけないのかもしれない。
しかし自分から行くというのは私のプライドが…。
出来ればジークに私を襲わせたい。
ここはもう少し大胆に無防備にしていくか!!
そう結論を出した私は湯舟の中でバスタオルを解いていく。
湯気と水面の反射があるのではっきりと見ることはできないだろうが、これはかなりインパクトがあるはず!!
こんな美女が!!
同じ湯船で!!
一糸まとわぬ姿で!!
理性が持つはずがあるまい!!
ガラガラ
ん?
「じゃあ先に上がるから。照明ちゃんと消しといてくれよ。」
んん??
ガラガラ
ピシャン
そのままジークは脱衣所へと消えていく。
何?
私が思い切ってバスタオル程いているタイミングでもう湯舟を出ていた?
私は自分の姿を見る。
湯舟の水面には絶世の美女の顔が映っている。
自分で言うのもなんだが、道を歩けばすれ違った人が振り向き、店でお茶でもすればすぐに声を掛けられるんだぞ?
「ふ、ふふ、ふふふ。」
いい度胸じゃないか。
思えば最近言葉遣いも変えて、語尾が「~よ」とかちょっと女性らしいところを見せようとしていたのにもノーリアクションだったな。
どうやらジークは徹底して私を女として見ないつもりのようだ。
それならそれで私にも考えがあるぞ。
もう私のことを女としてしか見れないようにしてやる!!
私はたっぷり湯船につかってから浴場を後にした。
もうジークは寝ている頃合いだろう。
作戦決行だ!!
暴走シファさん回です。
しかし今回は何やら決意したご様子。
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