65.踏破者、剣姫をあしらう。
「レクシアだったか?ティア王女殿下の命で仕方なく相手してやる。」
「舐めた口を、私を【剣姫】と知らないのか?」
「知らんな。才能の名か?」
「ふん。貴様に教えてやることなどない。剣を抜け。」
レクシアは腰に下げていた細剣を抜く。
一方の俺は直立不動のままだ。
「何のつもりだ?」
訝し気に問いかけてくるレクシア。
そりゃ剣も構えていない相手に切りかかったりはしにくいわな。
「悪いがあんたじゃ抜剣に値しない。怪我をさせるなというオーダーだからな。」
「…ふざけるなよ。」
「残念だが大まじめだ。あんたみたいな三下に見合った武器を持っていなくてな。ペーパーナイフでもあれば良かったんだが。」
「…殺す。」
いよいよ我慢の限界だったのか、レクシアは俺目掛けて突っ込んでくる。
真っすぐ最短距離で、数歩で距離を詰めると俺の右肩めがけて突きを放つ。
その動きだけで、これまで相対してきた剣士の中で最も練度の高い使い手と分かる無駄のない動きだった。
まぁ、だからと言って数百年修練を積んだ俺の前では児戯に等しいのだが。
俺は放たれた突きを、細剣の腹に右手の甲を合わせて軌道をずらすとともに左半身の姿勢を取り、カウンターの左ストレートを放つ。
と言っても当てずにわざと外すのだが。
見ている人間にすれば一瞬の攻防だろう。
レクシアの細剣と俺の左拳がお互い外れた状態で硬直する。
状況を理解できているのはティアの陣営とレクシア本人くらいだろうか。
大きく目を見開き、驚愕の表情を表すレクシア。
すぐさま飛びのき、体勢を立て直す。
「どうやらそこそこ出来るようだな。次は本気で行くぞ!!飛空剣!!」
今度は真っすぐ突っ込んでくるようなことはせず、その場で剣を振るうレクシア。
高速で振るわれた細剣からは真空刃が放たれる。
おいおい、俺の後ろにはティア王女殿下も居るんだが?
ちょっと熱くなり過ぎじゃないか?
こうなると避けるわけにもいかない。
真空刃に一つ一つに対して掌底を高速で放ち、衝撃波で相殺していく。
余波で壁や地面が割れたりしているがそれはもう勘弁してくれ。
そしてレクシアの動きもしっかり見えている。
真空刃を隠れ蓑にして俺の右側に回り込んできている。
そしてすれ違いざまに俺の右腕を切り飛ばさんと細剣を振りぬく。
「これは周囲に被害が出るようなスキルを使用した罰だ。」
俺は細剣を乱雑に右手で握りこむと、そのまま力を籠める。
バキン
「っ!?」
再び後方へ飛びのき距離を取るレクシア。
その手に残っているのは根元から真っ二つに折れた細剣。
折れた細剣の先は俺の右手の中だ。
「武器が無ければこれ以上戦えんだろ?このくだらん仕合も終わりだな。」
そう言って俺は折れた剣先を放る。
それはレクシアの足元に落ち、高い金属音を辺りに響かせた。
「レクシア!!いったいどういう事なの!?」
状況に全くついてこれていないオリヴィア王女がレクシアに詰め寄る。
レクシアは苦々しい表情を浮かべたまま、折れた剣を拾い説明する。
「…大変申し訳ありません王女殿下。私の剣が奴に折られてしまい、続行が困難となりました。」
折れた剣をまじまじと見て納得するオリヴィア王女。
「なるほど、もうこの剣は寿命だったのですね。何と間の悪い…。いえ、対魔物戦でなかっただけ良かったのかしら。」
オリヴィア王女の反応に困惑するレクシア。
「いえ、王女殿下、私の剣は奴に折られて…」
「ミスリル合金製の剣が素手で折れるわけがないでしょう?もう寿命であったに決まっているじゃありませんか。」
対するオリヴィア王女は自信満々だ。
「ティア。あなたの王族専属騎士…。まぁ悪運だけは一人前と言ったところかしら。今回は間が悪かったようなのでこれで失礼するわ。」
「…それはどうも。」
言いたいことだけ言って去っていくオリヴィア王女。
レクシアは俺を一睨みしてからオリヴィア王女の後を追った。
「なんというか…変わった姉を持っているんだな。」
「残念ながら同じ血が流れているんですよね。ああはならないように気を付けないと。」
そう言ってティアも私室に向かって歩き出す。
俺達もその後に続く。
「ジーク様、先ほどは私の要望を聞いて下さりありがとうございました。」
「ケガさせるなってやつか?まぁあれだけ実力差があればそんな難しいことではないぞ。」
俺の返答に苦笑いのティア。
周囲を見るとランドール隊長も苦笑いだった。
「ジーク殿、【剣姫】レクシアと言えばこの国で1,2位を争う剣豪なのですよ。ラマシュトゥと戦っている時も異次元の強さだとは思いましたが、こうして自身が良く知る強者があっさりと負かされるのを目の当たりにすると、改めて規格外の強さをお持ちだと再認識させられますね。」
「私もランドールの意見に同意ですわ。魔神との戦いは凄すぎて良く分からないといった面がありましたから…。あ、着きましたわよ。」
そう言ってティアが私室の扉の前で止まると、お付きの侍女たちが荷物を持って先に部屋へと入っていく。
それに続く形で俺達も中へ。
ティアの私室はいかにも王族然とした豪華なものではなく、どちらかと言えば殺風景な部屋だった。
天蓋付きのベッドはあるものの無駄な装飾はなく、あとは鏡台やテーブル、ソファがあるくらいだった。
「ジーク様達にはこれを。」
侍女が持ってきた記章を受け取り、そのままこちらへ渡してくるティア。
それは、剣と盾があしらわれたものだった。
「これが王族専属騎士の身分証明になります。王族の誰の王族専属騎士かについては、色で見分けることが出来ます。私の場合は黄色です。」
「なるほど、確かにさっきの女騎士も胸に記章を付けていたな。赤色の。」
「ええ、オリヴィアお姉さまの色ですわね。これから貴族区、王城へ来られる際にはその記章をつけていただければ検問はスルー出来ますわ。」
「なるほどな。じゃあ俺たちは一旦これで失礼するよ。何かあったらラマシュトゥを通じて連絡くれ。」
そうして俺たちは王城を後にした。




