49.踏破者、申し出る。
レベッカの生い立ちについては大体のところがわかってきた。
彼女は魔物の大群に襲われた村の生き残りとのこと。
定期巡回中の神父様が開く野外教室に参加していて、村が魔物の大群に襲われた際、そのまま神父様に連れてこられて隣町まで逃げ延びたらしい。
その後は孤児院で生活していたそうだ。
レベッカは顔を伏せたままとつとつと語っていく。
だが、光を灯さない目から涙が落ちることはなかった。
「そう、辛い話をさせてしまったわね。」
ライラさんがレベッカの肩に優しく手を置く。
違う。そうじゃない。
「それがどうしてダンジョンなんかに…。孤児院で暮らしていたあなたに何があったの?」
「ボクもよくわからないんですけど、…気が付いたら冷たい床の上に寝かされていました。起き上がると手が縛られていて、男の人の声が聞こえてきたんです。『お前は奴隷として売られる。少しでも待遇のいいところに行きたければ自分を高価に見せろ。』と。」
どうやら彼女は孤児院から攫われて奴隷商に売り飛ばされたようだ。
この国では犯罪奴隷というシステムがあるが、拉致してきた子供を奴隷として売買するのは立派な犯罪だ。
「そのあとすぐに明るい場所に連れていかれて、…多くの視線を浴びました。目が見えないが珍しいハーフ・エルフだと紹介されるとどよめきが聞こえて、それから数字を叫ぶ声がいっぱい聞こえてきました。」
違法奴隷を扱うオークションか。
規模のでかい犯罪組織が絡んでるな。
「その後首にも枷をはめられて馬車で移動しました。何日もです。そしてどこかに着いた後、変なにおいのする布を当てられて…その後のことは覚えていません。」
「そう…。周りの人は何か言っていた?」
「確か『確かにハーフ・エルフだ。純正のエルフほどではないがそれなりの寿命があるから長時間作動させられる。』と言っていました。」
つまりレベッカはあの魔道具を作動させるために買われたってことだ。
問題はだれに買われたかってことだが…。
「あなたを運んだ人の名前はわかる?誰かが呼んだりしていなかった?」
「…そういえば。馬車に乗せられるときに『ヴァン侯爵閣下にもよろしくお伝えください』って聞こえた。」
「ヴァン侯爵!?」
これは大物の名前が出てきたな。
ライラがサイモンに視線を送る。
サイモンは少し考えるそぶりをする。
「まだ確定というわけにはいかんが、有力な情報だな。その線で調査をするとなると、慎重に時間をかけて行わなければならない。」
「侯爵家相手にギルドは動けるのか?」
「建前上、ギルドは国家から独立した組織だ。だが侯爵家ともなると影響力も大きい、ギルド側に間者を送り込んでいる可能性もある。この件は一度私に預からせてほしい。信頼できる上層部の人間に相談するよ。」
「分かった。」
「ライラも良いね?他言無用で頼むよ。」
「分かりました。」
俺たちの今後の方針は決まった。
残る問題は一つ。
「あの…。ボクはこれからどうなるのでしょう?」
そう。レベッカの今後の処遇についてだ。
彼女の言葉を信じるなら彼女はただの被害者だし、信じても問題ないだろう。
「そうだね。君は被害者だ。基本的には普段の生活に戻してあげるという形になる。」
「…それは…嫌です。」
それはそうだろう。
何せレベッカは孤児院に居る所を攫われたのだ。
孤児院に戻ればまた同じことが起こる可能性だってある。
…本当に最悪の可能性を考えれば、孤児院と奴隷商人がグルという可能性もある。
これは流石に考え過ぎであってほしいと思うのだが。
サイモンもその可能性については思い当っているようだ。
「うん。他の場合としてあるのは里親を探して引き取ってもらうという形かな。ただ、すぐに見つかるかどうかは分からない。里親に名乗り出てくれた人についてはギルド側である程度は調査もするし、比較的安心だとは思う。」
「…盲目でハーフ・エルフのボクを引き取りたいと言ってくれる人はいるのでしょうか…。」
「…それは何とも言えないな。」
「俺が引き取ろう。」
俺の言葉にサイモン、ライラ、シファが驚く。
「ただし保護対象としてではなくハンターとしてだ。ハーフ・エルフなら魔力も多いし、しっかり訓練すれば戦えるようになるだろう。一人で生きていけるだけの力を身に着けるつもりがあれば来るといい。」
「ジーク君は旅人じゃなかったのかい?彼女を連れて旅ができるのかい?」
サイモンの指摘はもっともだ。
ただ、俺は根無し草の旅人をずっと続けるわけではない。
「俺は既に3人の使用人を抱えていてな。王女護衛の依頼で王都まで出たら拠点は構えようと思っているんだ。」
なるほど、とサイモンは頷く。
「…ボクが、戦えるようになるんですか?」
レベッカが不安そうに聞いてくる。
「ああ、そこまでは面倒を見よう。その後は好きに生きればいい。…復讐するのなら手も貸してやらんでもない。」
「!?」
レベッカが大きく目を見開く。
その瞳に光はないのだが、俺には何かが灯っているように見えた。
先ほど自身の過去を話している彼女を見て気付いていた。
彼女は悲しみではなく憎しみに囚われているのではないかと。
だが、生きていく上で心の拠り所は必要だ。
俺はその感情を肯定する。
「村を襲った魔物の大群。大方魔族の仕業なんだろう?」
「…はい。実はボク、目が見えない代わりに耳がいいんです。魔物の大群に村が襲われた時、明らかに人族とは異なる質の声が聞こえて来たんです。『我はベリルである』と。」
「そうか。あとは闇オークションと奴隷商もだな。俺も性分的にそう言った奴らは許せなくてな。叩き潰したい。」
俺の言葉にレベッカが頷く。
「ボクに力を下さい。よろしくお願いします。」
こうして俺たちの旅に1人仲間が加わったのだった。
闇組織ぶっ潰しましょう編ありますのでお楽しみに。
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