46.踏破者、異常の原因を探す。
俺たちは異常の発生している1階層へと戻ってきた。
念のため5階層まで下りたが、やはり通常のダンジョンと遜色ない魔物の沸き具合であったのだ。
1階層はやはり多くの魔物が闊歩していた。
「ついさっき、散々倒して通ってきた道なのにもう魔物が復活してやがる。」
『神狼組』リーダーのロウが忌々し気につぶやく。
「やはりこの階層に何かの原因がありそうだな。こういった事象が起るような原因って何があるんだ?」
俺は【圧】で周囲の魔物を蹴散らしながら確認する。
ダンジョンからの溢れ出しについては例が少なく、はっきりとした原因が分かっていないケースも多いらしく、文献にも大したことは書いてなかった。
「俺はよくわからねぇな。ネイ、アランはどうだ?」
「私も同じだよ。」「僕もデス。」
どうやらダンジョンからの溢れ出しに関しての知識は現役ハンターも同様のようで、『神狼組』は皆よく分からないという回答だった。
だが、エリオは少し困った風な表情をして黙っていた。
「エリオ、心当たりがあるのか?」
「…噂レベルの話なんだ。俺の耳にも本当にたまたま入ってきたレベルの。」
「どんな噂なんだ?」
「それが、どっかの研究者が人工的に溢れ出しを発生させる魔道具を作っている。って話なんだ。」
「そんな事出来るわけねぇだろ?」
間髪入れずに否定したロウにエリオも頷く。
「俺もそう思ってるよ。今の今まで思い出すこともないくらいの話だ。だが…。」
エリオは俺に視線を投げかける。
「ああ、今の状況から見るとそう言った種類の原因がある可能性はあるな。シファ、今の情報から何か探せないか?」
「難しいかな…。私の【探索】は生物の反応と地形条件を情報として得ることが出来る。仮にそう言った魔道具があるとして、地形条件に引っ掛かるくらい大きなものでないと分からないと思う。」
「しらみつぶしに行くしかないな。シファ、地形条件確認して確認漏れがないように行こう。片っ端からだ。」
俺の言葉に全員が頷く。
そして1階層を対象としたローラー作戦が決行されることとなった。
「何か変な部屋がある。」
しばらくローラー作戦を続けていると不意にシファがそう発言した。
「どういう事だ?」
「こっちの道の先行き止まりなんだけど、その先に閉鎖された空間がある。」
「行ってみよう。」
そう言って俺は歩き出す。
「これは…。」
すぐに問題の行き止まりに達するが、そこには明らかに異常なものがあった。
洞窟型ダンジョンの通路とは明らかに異なる金属製の壁である。
しかもその壁には無数の穴が開いており、壁の先の空間と換気が出来るようになっているのだ。
そして異常はもう一つ。
「ここまで来ると明らかデスね。」
口を開いたのは『神狼組』の炎魔術師、アランだった。
「この周囲は明らかに魔素が濃いデス。まるで魔境にいるヨウだ。」
「ああ、信じられんが、この先に何かこの魔素を生み出している物があると考えるべきなのだろうな。そしてそれを封じるように設置された人口の壁…。」
アランの言葉に同意するエリオ。
どうやらここにいるメンバーの意見は一致しているようだ。
エリオが金属製の壁に触れて確認する。
「硬いな…。ジーク、破壊できるか?」
「とりあえずやってみよう。」
そう言って俺も金属製の壁を確認する。
質感的には鉄だろうか。
厚みは分からない。
俺は少し金属製の壁から離れるとシュラを抜き放った。
皆には聞こえない程度の小声で話しかける。
「行くぞシュラ。」
『…え?なに?』
こいつ寝てやがったな。
俺は無視して金属の壁に向かってシュラを振りぬく。
ギャリギャリ
『痛ってぇぇぇぇえええええ!!!!』
シュラを振りぬいた跡を見ると、金属製の壁は見事に切り裂かれていた。
一振りでは貫通していないようだが、切れるのであればいずれ達するだろう。
流石、良い刀だ!!
因みにシュラの声は俺以外の人間には聞こえないらしいので、安心して壁の破壊に勤しもう。
ギャリャリャ
『ぎぃやぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!』
ギャギャン
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!』
ギャキン
『もうやべでぇぇぇぇえええ!!!!』
しばらくそんなことを続けていると、とうとう壁を破壊することが出来た。
厚みは1mくらいだろうか。
予想よりずいぶんと分厚かった。
「あの金属の壁切ったぞ…。」
「あれだけ刀を振り続けられる筋力もやべぇが刃毀れしていないあの刀もヤバい…。」
「ちょっと刀の気持ちになって気持ち悪くなったデス。」
後ろから若干引き気味の声が聞こえる。
感受性の高い奴もいるようだ。
『もう…コロシテ…。』
右手を見るとシュラがぐったりとしている。
刀モードなのでぐったりしているというのは雰囲気から察しているんだが。
「悪いな。あれを使えば楽なんだが、こんなところでお披露目するわけにはいかないんでな。」
俺の切り札の1つの話だ。
おいそれと公開するようなものではない。
『このままじゃお披露目前に我が死んでしまう…。』
「お前さっき殺してとか言ってただろ?死にたいのか死にたくないのかどっちなんだよ。」
俺は破壊した壁から閉鎖されていた空間の中に入る。
小部屋程度の広さのそこには、この異常の原因と思われるものが確かにあった。
俺に続いて部屋に入ってきたハンター達もそれを見て顔をしかめる。
そこには、少女が倒れていた。
ちなみにシュラさんは生きているので刃こぼれしても時間が経てば再生します。経済的ですね。
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