38.踏破者、コウナードに着く。
ライラックを出立しておおよそ3週間が過ぎた。
これまでに2つの町に滞在してきたが、特に大きな問題は発生していない。
そして今日、オスガルド領の領主に会うべくコウナードの町に到着する。
話を聞くにオスガルド領の領主は第二王女派閥という事なので、フレンブリード家のような暴挙に出てくることはないだろう。
辺境領地でもなく、外敵もないことから強力な兵師団を有しているわけでもないしな…油断は禁物だが。
「主殿、右前方から【獄犬】が5匹、こっちに駆けて来てる。見つかるよ。」
俺と同じ馬に横乗りし、俺に後ろから抱き着いているシファが声をあげる。
…シファが馬に乗れないと主張するので仕方なくこのような状況になっている。
ティアは自分と一緒に馬車の中に入るよう促していたが、それは固辞していた。
なんでも【探索】が使える自分は警護として外にいるべきとのこと。
実際こうやって索敵して敵による不意打ちを避けられているのでまるっきり方便というわけでもない。
「了解。 ランドール隊長!!右前方から【獄犬】が5匹です!!」
「分かった!!第一小隊で対応に当たれ!!第二から第五小隊は間隔を広げて第一の穴をカバーだ!!」
「「「了解!!」」」
隊長の号令に馬車群の周りで隊列を組んでいた隊員たちが隊列を組みなおす。
小隊の1つを遊撃に切り離した隊形だ。
間もなく現れた【獄犬】は第一小隊の4人によって簡単に処理される。
流石に弱い魔物だったのでケガ人も出ていない。
俺が後ろを振り返り、シファに他の反応がないか確認する。
シファは首を横に振った。
「他に反応ありません!!」
「よし、第一小隊戻れ!!通常隊列だ!!」
「「「了解!!」」」
その後も時折魔物との接触はあったが、俺たちが戦闘に参加するようなこともなくコウナードの街に到着した。
「まずは領主に会いに行く。こちらの予定は先に伝えてあるんでね。」
ランドール隊長はそう言って迷いなく街中を進んでいく。
どうやらこの街は初めてではないようだ。
俺はフレンブリード領から出たことがないので、他の領主が直接治める街を見ることが初めてだった。
待ちゆく人々は俺の生まれ育った街と比べると表情が柔らかいように見える。
外敵のある辺境領地とその恐れの比較的ない内領地との違いだろうか。
それとも治める領主の質の違いか…。
しばらく街中を進むと他と比べても明らかに大きな屋敷が出現する。
おそらくここが領主の住む館だろう…。
ランドール隊長が門の警護をしている衛兵と会話すると、すぐに開門の指示が出たようで門が開いていく。
そして馬車群がそこを通っていった。
領主との接見時にも同席するよう頼まれていた俺達も一緒に門をくぐる。
「へぇ。」
思わず声が漏れる。
「どうかした?」
「いや、俺の育った屋敷の庭は兵の訓練用の設備が置いてあったりして殺伐としたものだったんだが、ここは結構趣が違うなと思ってな。」
俺は周囲を見渡す。
そこには多くの花壇に色とりどりの花が咲き誇る景色があった。
「ご無沙汰しておりますティア王女殿下、よくお越しいただきました。」
「そんな堅苦しい挨拶は不要ですわ。息災のようで何より。オリヴィア先生もお久しぶりです。」
「ええ、本当によく来てくれたわ。公務もあるだろうけどゆっくりして行ってね。」
ティアのとあいさつを交わしているのがこの町の領主であるボーマ・オスガルド伯爵とオリヴィア・オスガルド伯爵夫人という事だった。
なんでもオリヴィアさんはティアの幼少期の教育係だったとか。
心なしかティアも表情が柔らかくなっているようだ。
その後雑談や近況報告をしていたが終始和やかな雰囲気だった。
ティアがあの質問あをするまでは。
「他の王族たちから接触や嫌がらせを受けたりはしていないか?」
この問いにボーマ伯爵は少し顔をしかめた後話し始めた。
「1カ月ほど前になるのですが、第二王子派閥のものが王戦に協力するよう要請してきました。その時は丁重にお断りしたのですが、その後少し気になることが…。」
「何かあったのですか?」
「関係があるかは分からないのですが、我々の管轄しているダンジョンで…魔物の溢れ出しが疑われる事象が発生しています。」
「崩壊が近いという事ですか?」
「実はハンターギルドと連携して近々調査に出ることになっています。何もないと良いのですが…。」
ティアは少し悩む素振りを見せたあと、何かを思いついたように顔をあげる。
嫌な予感しかない。
「でしたら優秀なハンターが居ますので推薦いたしますわ!! 1キロ先を索敵できて騎士団員数十名をまとめて葬れるほどの高位魔法も使える方ですわ!!更に容姿も完璧!!美しく、儚げな深窓の令嬢というイメージがぴったりの女性です!!」
押しが強いな!!
「そ、そのような方がこの街に?」
「ええ!!しかもおまけで騎士団員にも引けを取らない腕前の剣士もセットで付いてきます!!」
俺はおまけか!!
実にお買い得だ!!
俺は一人気付かれないように小さくため息をつくのだった。
スーパーで見るお買い得には毎回騙されないぞという気持ちを持ってしまいます。
ひねくれてますね…。
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