37.踏破者、困惑する2。
「…9998…9999……10000…!!」
今日は王女の護衛隊の一員としてライラックの町を発つ日だ。
朝早起きして日課の素振りを行っている。
重力魔法でかけている負荷をもっと上げたいんだが、俺の能力じゃこれが限界なんだよな…。
毎日重力魔法をフルレベルで使用しているが、これ以上成長する感覚は持てないし…。
「おはよう。」
鍛錬について思考していた俺は声を掛けられ振り返る。
そこにはシファが居てこちらに微笑んでいた。
「え?…おはよう。」
なんだ?
シファが朝の挨拶をしてきた?
いつもなら朝起きたら朝食の時間まで本を読んでいるはずだが…。
何か企んでいるのか?
「旅立ちにはいい天気ね。」
「…そうだな。」
なんかにこやかに会話し始めたぞ?
何だろう、少し寒気がする…。
「そろそろ朝食の時間でしょう?部屋に戻りましょう。」
「あ、ああ。…何かあったのか?」
「? 何もないよ?」
とぼけんじゃねぇぇぇええ!!
明らかになにかあっただろうがぁぁぁああ!!
表面上は平静を保ちつつ、シャワーを浴びるため部屋へ向かう。
シファはその俺の隣にぴったりと並んで歩いてきた。
マジで何なんだろう。
シャワーを浴びた後は朝食を食べにラウンジへ。
シファは変わらず俺にぴったりと寄り添っているが、もう気にしないことにした。
ラウンジではすでにシルバ、メル、リルが席についていたがまだ食べ始めてはいないようだ。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「「「!? お、おはようございます。」」」
俺も驚いた…。
シファが俺以外の人間に挨拶するなんて…。
「シファさん?何かありましたよね?」
思わず敬語で話しかける。
「? いいえ、特には。」
とぼけた様に微笑んで首を傾ける。
その仕草も非常に可愛いもので、普通の男ならイチコロな破壊力がある。
…あくまで普段の彼女を知らなければ、の話だが。
俺はこれ以上の追及は無駄とみて席に着く。
シファは俺の隣の席を…わざわざ移動させて俺の席にぴったりくっつく位置に移動させて座る。
「………。」
俺は周囲を窺う。
シルバは不思議そうな表情でこちらを見ている。
メルとリルは何かニヤニヤしている。
隣を見ると、シファもこちらを見ていて目が合うと微笑んでくる。
俺はその微笑みに背筋が凍るような感覚を覚えた。
◇◇◇◇◇
「では改めてよろしくお願いしますわ。ジークさんとシファお姉さまは護衛、シルバさん、メルさん、リルさんはスタッフですわね。」
ライラックの町の迎賓館、その応接室で俺とシファはティアに着任の挨拶を行っていた。
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします。誠心誠意努めさせていただきます。」
「あ、敬語は要りませんわよ?お二人とは友人。そしてゆくゆくはパートナーとなりますので、今のうちから壁は取り払っておきたいですわね。呼びもティアと呼び捨てにしてくださいまし。」
「そうか?パートナーになる気はないが、気を使わなくていいならそっちの方がいいな。もう何度も暴言吐いてる気もするが…。」
「私も敬語無しでいいよね?あなたとは良い(ライバル)関係になれそうだわ。」
シファがにっこり微笑みながらティアに話しかける。
ティアは雷に打たれたようにビクッとはねる。
そして恍惚の表情を浮かべる。
「シファお姉さま、とうとう私の想いに応えてくれるんですの?」
「ティアの(ジークに対する)想いは分っているわ。私も(ジークに選んでもらえるように)と思ってはいるけど、まだ私は未熟なの。でも、これからゆっくりと(ジークと)関係を進めていければばいいと思っているわ。」
「はわわ。」
シファの言葉にティアが骨砕きになってしまった。
というか完全に意識を失っている。
傍に控えていた侍女が素早く動きティアを抱きかかえる。
この動き、この侍女さん相当慣れているな。
そして俺はシファの朝からの言動に納得していた。
俺以外の人間に対して興味を持ちたいと考え始めたのはティアが原因であったと。
俺に対して必要以上に近づいたのは、予行練習みたいなものか?
「だから、ティアには負けない。」
ん?それはどういう意味だ?
シファの最後の一言が引っ掛かって疑問が口を出そうになった瞬間だった。
応接室の扉がノックされ、護衛隊隊長が入ってくる。
「失礼します。王女殿下。出立の準備がととのいまし…た?」
その王女殿下は気を失って倒れている。
それを支えている侍女が無言で頷く。
護衛隊隊長はふーっとため息をつくと、こちらを見て一礼する。
「ジーク殿、シファ殿、護衛の件よろしくお願いします。」
「ランドール隊長。こちらこそよろしくお願いします。」
「はい。では早速打ち合わせをしたいのですが、よろしいでしょうか?メンバーにも改めて紹介したいですし。」
「分かりました。シファも良いな?」
「はい。ランドールさん、よろしくお願いします。」
そうして俺たちは応接室を後にした。
王女と侍女の二人が残った応接室。
「姫様の恋路は前途多難ですね…。」
一人ため息を吐く侍女の姿があった。
すれ違い会話は書いてて楽しいです。ハイ。
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