34.踏破者、困惑する。
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「そうですか。…フレンブリード家もお終いですね。」
「ええ、フレンブリード家は取り潰し、当面は代官を派遣し領地運営を行うことになります。」
俺たちはライラックの町の迎賓館、その客間に来ている。
この国の第二王女であるティアに事の顛末を聞いていたのだ。
ソファに俺とシファが並んで座り、対面のソファにティアが座っている。
俺がアレンから入手した音声証拠、そしてアレン本人。
この二つでも十分フレンブリード元辺境伯を訴追することは可能との判断だが、元辺境伯の身柄を確保する際により確実な本人の音声証拠の入手に成功したらしい。
「しかし良かったのですか？あなたが辺境伯の息子との話は聞きましたが…家督を継がなくても。」
「貴族生活にも領地運営にも興味ないですから。」
「それでハンターとしての生活を望むと？…変わったお方ですね。」
そう言ってティアは微笑む。
その容姿も相まって非常に魅力的な表情だ。
アレンが暴走するのも分からないでもない、と思ってしまった。
「ティア王女殿下も大変な状況に置かれているでしょうに。私の事は気にしなくていいですよ。」
俺がそう言うと、ティアの表情は一転する。
そりゃそうだ、今回は助かったとはいえ、いつまたフレンブリード家のように王女暗殺を企ててくる輩が出てくるかわからないのだ。
「そうですわね。…ジークさんは王戦についてはご存じですか？」
「一応は。」
「此度の王戦は第一王子、第二王子、第一王女、私の4名で行われます。正直、私の陣営は4兄弟の中では圧倒的に弱く、今回の件のような標的になりやすいというのがありますね。」
「そうなのか？」
「貴族中心主義のお兄様方、お姉様と違い、国民中心主義の私の考え方が王国貴族や各地の領主に受け入れられ難いというのが本当の所です。」
「…なるほど。」
そこでティアは一旦話を区切ると居住まいを正した。
その後一泊置いて話を切り出す。
「そこで相談なのですが、ジークさん、シファお姉さま、私の騎士になっていただけませんか？」
そうなるわな。
「申し訳ないですが辞退いたします。貴族にかかわるつもりはありませんから。」
「王族専属騎士待遇でもダメでしょうか？」
「興味はありませんね。」
「シファお姉さまだけでも!!」
「最初からそれが目的だろ!!」
横目でシファを見るといやそうな顔をしている。
こいつはティアやメル達のように親愛でガンガン来るタイプが苦手のようだ。
ティアが今度はシファの方を向いて懇願する。
「ティアお姉さま!!どうか私の王族専属騎士になってください!!」
「…いやだ。」
シファが一層嫌そうな顔をして拒絶の意を伝えるとディアはがっくりと肩を落とす。
が、すぐに顔をあげる。
目が爛々と輝いている。
「そうですわね!!シファお姉さまは王族専属騎士ではなく私の婚約者というのが相応しいですわ!!」
「お前の思考回路どうなってんだマジで。」
つい突っ込んでしまった。
まぁここにいるメンバーでこのくらいの暴言を不敬罪だと唱える人はいないのでいいのかもしれないが。
シファを見ると、なぜか今度は少し余裕のある笑みをこぼしていた。
美人がそんな表情をすると妖艶なものに見える。
「残念だが私は婚約者にもなれない。…なぜなら私は既にジークと将来を誓い合っているからだ!!」
「はぁああああああ！？」「ええぇぇぇぇぇぇぇえええええ!?」
こいつ何言ってやがる？
あ、してやったりな顔してやがる。
王女さまを振り払うために考えて来てやがったな!?
王女様を見ると完全に固まってしまっている。
「やっぱりジーク様とシファ様はそういう関係だったのですね!?」「シファ様!!どこまで進んでいるのですか!?」
「ひっ!?」
俺とシファが座るソファの後ろで待機していたメルとリルが目をキラキラさせながら俺とシファに詰め寄る。
シファは今の嘘がこの二人を刺激するところまで考えていなかったようだ。
シファが嫌がるから宿を俺と一緒にしていたのが失敗だったか。
この双子の脅威度が下がってしまっていたらしい。
「宿ではジーク様とシファ様と二人で一部屋ですものね!!きっと愛をはぐくんでいたんですね!!」
「ふ、二人で同じ部屋にですって!?」
メルかリルかわからないが、同室宿泊の話を出したのにティアが反応する。
大きくのけぞって固まってしまった。
俺は大きく息を吐き出す。
いわゆるため息というやつだ。
「みんな落ち着け。今のはシファの嘘だ。王族専属騎士を断るための口実だな。」
俺は事態の収拾に動く。
そもそも何かを断るのに嘘なんて必要ない。
求愛にしたって断るなら気がないとしっかり伝えればいいだけなのだ。
だが、そう考えていない奴が居た。
「嘘ではない!!ジークは毎晩私を求めているではないか、あの時間を嘘だったというのか!?」
「えええぇぇぇぇぇぇえええ!?」「きゃぁぁぁぁぁぁああ!!」
ティアが意識を失い床に倒れこむ。
メルとリルは楽しそうに抱き合って跳ね回っている。
シファは耳まで真っ赤にしてなんか震えてる。
そこまでして嘘をつく理由があるのか??
俺は助けを求めて周りを窺う。
護衛の騎士たちは視線が合いそうになると顔をそむける。
シルバは苦笑いだった。
俺はもう一度大きく息を吐きだした。
シファさんどこまで暴走するのか？
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