33.辺境伯、最悪の結末を迎える。
side フレンブリード辺境伯
やはりおかしい…。
異常と言っていい。
王女暗殺計画が失敗に終わったのは間違いない。
呪印を刻んだメンバー全員の反応が消えているからだ。
だが、王女が襲撃されたという情報は入ってきていない。
私の領地内でそんな重大事件が起きれば報告が上がってこないはずがない。
という事は、襲撃は行われておらず、襲撃班が全滅したという事だ。
これは、まぁ可能性としては考えられる。
潜伏中に強力な魔物、本物の賊と、ハンター共に鉢合わせて戦い、負けたというケースだ。
かなりの練度の者を選別したから賊ごときにやられるとは思わんが、不意を突かれたりすれば少人数編成は一気にやられることもあるだろう。
王女襲撃が行われていないのであれば、まだ立て直しが効く。
王女暗殺計画の事は闇に葬り、第一王子派へは第二王女からの勧誘は断ったと報告すればいい。
立場が良くなることはないだろうが、悪くなることもない。
だが、問題はアレンだ。
あの馬鹿はこの家が置かれている状況も理解せず、出兵しやがった。
衛兵の話では40名程を率いて出撃したとか。
まさかあそこまでやるような馬鹿だったとは…。
だが、その後7日経ったが何の音沙汰もない。
アレンからは勿論、王女側からもだ…。
一体何が起こっている?
アレンは王女襲撃前に全滅したのか?
それとも王女襲撃を成していて、場所がオスガルド領だったからそちらの調査から入っているだけか?
ではアレンはどこへ行った?
分からないことだらけだ。
平穏な日々が流れているのが逆に不安を煽ってくる。
分からない事と言えばもう一つ。
我が家が管理を任されている冥級ダンジョン【アビス】の崩壊だ。
ダンジョンには寿命があり、出現から一定期間が経過すると崩壊すると言われている。
実際に寿命なのか他の因子により発生しているのかを確かめる術はないが、ダンジョン崩壊は実際に起こる。
ダンジョンが崩壊するとダンジョン内の魔物が一斉にダンジョン外へ出現する【魔物災害】が発生するため、その前に【ダンジョン・コア】を破壊し人工的にダンジョン崩壊を行う必要がある。
【アビス】はこれまで幾度となく挑戦者を送り込んできたが、誰も攻略を成しえていない。
最後の挑戦者は…ジークだ。
だが、ジークは【無才】。
これまでに送り込んだ、優秀なハンターの達の足元にも及ばぬ屑だ。
あいつがダンジョン攻略など出来るわけがない。
だが、現にダンジョンは崩壊している。
しかも中の魔物が溢れ出したような形跡もない。
調査隊も編成して送り込んだが、何も新しい情報は得られなかった…。
「ふぅ。少し考えすぎているかもしれんな。」
不安が大きくなりすぎて悪い方へ考えが偏っているかもしれない。
実際にはうまい方向へ事態は転がっているかもしれないのだ。
そんなことを考えているとき、執務室のドアをノックされた。
「ザックス様。セロンにございます。」
「…入れ。」
執務室のドアを開けて入ってきたのは王女襲撃班に呪印を刻んだ魔術師だ。
「何か用か?」
「はい。不確定情報なのですが、気になる情報が入ってきましたのでお耳に入れておこうかと思いまして。」
「…聞かせよ。」
「は。…実は、この街に王家直属の近衛騎士団の人間が数名訪れたという情報が得られました。」
「なんだと!?」
「…もしかしたら王女暗殺計画の件で来ているのかもしれません。証拠隠滅は完了していますが、そのうちここへも来るかもしれません。」
「そうだな。王女暗殺計画か…、もしかしたらアレンの事の可能性もあるな。どちらにしてもしらを切り通せ。私が王女暗殺を企てたという証拠はない。」
「御意に。…もう一点宜しいでしょうか。」
「ん?なんだ?」
魔術師は懐から録音の魔道具を取り出す。
私はこの男が何をしようとしているのか理解できなかった。
男が魔道具を操作する。
『そうだな。王女暗殺計画か…、もしかしたらアレンの事の可能性もあるな。どちらにしてもしらを切り通せ。私が王女暗殺を企てたという証拠はない。』
魔道具からは、ついさっき発したばかりの私の声がはっきりと流れ出てきた。
「い、いったい何を…?どうやって…?この部屋は…。」
私が混乱しているのを愉快そうに見ながら男が言う。
「この部屋の【魔道阻害】は解いてありますよ。魔術師でもなければその違和感の違いには気付きませんよね?」
【魔道阻害】は範囲設置型の魔法で、貴族家の執務室や会議室に施されているものだ。
外部からの盗聴や通信を遮断し、魔道具の動きも阻害するもので、機密保持の目的で使用される。
この私の執務室にもそれは施されているため、油断していた。
「…いったい何が目的だ?」
「…取引ですよ。」
「取引?いったい何を要求するつもりだ。」
そう言うと男は少し悲しそうな顔をする。
「減刑です。…あぁ、相手はあなたではありません。」
男がそう言ったタイミングで執務室のドアが乱暴に開かれる。
その先には白銀の鎧に身を固めた騎士が居た。
胸当ての左胸の上にある剣のシンボル、あれは近衛騎士団のものだ。
執務室の中に騎士たちが入り込んでくる。
そのうちの一人が魔術師から録音の魔道具を受け取る。
「ザックス・フレンブリード。王族殺害未遂、王族拉致未遂の容疑で拘束させてもらう。アレン・フレンブリードは既に投獄されており、自供も得ている。大人しくしておいた方が身のためだぞ。」
「な…んだ…何が…。」
私は意識が遠くなるのを感じ、視界が暗転するを知覚した瞬間、意識を手放してしまった。
悪いことしちゃいけませんってことです。
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