32.踏破者、調教する。
「お前が俺の相手だと?」
アレンがゆっくりと立ち上がる。
目いっぱいこちらを睨んでいるが、シュラ程度に腰を抜かした後では虚勢を張っているようにしか見えない。
「あのバケモンが何かは分らんが、お前を殺して魔道具を奪い、ここから脱出するだけなら問題ねぇ。」
「あいつより俺の方が弱いとでも?」
「【才能なし】が強くなれる分けねえだろうが!!死ねやっ!!」
アレンは抜刀して俺に切りかかってくる。
アレンの才能【魔法剣】は剣技も魔術も高いレベルで扱えるようになるレア才能だ。
剣筋も悪くはない。
だが俺からすればまだまだ未熟だ。
俺は振り下ろされる剣を片手で掴み、止めた。
指で挟むとかではない、完全に握りこむようにして。
常時発動している【鉄壁】があるので、この程度の使い手の剣では俺の肌はおろか身に着けている薄布1枚とて裂くことはできない。
「なっ!?……う、動かない!?」
片手で、しかも素手で剣を止められたアレンの顔には驚愕が浮かんでいる。
俺は空いている方の手の拳を握りこむと、ただ力任せにアレンの顔面へと振りぬく。
「ごぶぁ!!」
アレンは剣から手を放して吹き飛び、地面を転がる。
殺すことが目的ではないので【剛力】は使用していない。
だが莫大な時間超重力下で鍛錬を続けてきた俺の力は一般人レベルを大きく上回っているはずだ。
「お前の悪行の一部を聞かせてもらったよ。お前は他人のことを慮ることが出来ないようだな。自身を上位者と思い込み、他人を蔑んでる。そういうように見える。」
アレンが鼻血を拭いながら立ち上がる。
足が小刻みに震えているので相当効いたのだろう。
「不意を突いたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!!魔法剣【火炎ノ剣】!!」
無手となっていたアレンの手に炎で出来た剣が現れる。
燃え盛る剣からは絶えず紅炎が噴出し、周囲を焦がしている。
思っていたより魔法剣は強力なようだ。
あの剣に込められた魔力は相当なものだろう。
「死ねっ!!」
再度俺に切りかかってくるアレン。
アレンの【火炎ノ剣】による斬撃を、今度はそのままこの身に受ける。
実体のない【火炎ノ剣】は俺の体を通過する。
「……!?」
アレンは【火炎ノ剣】を振りぬいた体勢で、衣服すら燃えることなく立ち続ける俺を見て言葉を失う。
俺の【鉄壁】は物理攻撃はおろか魔法攻撃も一切通さないのだ。
俺は差し出されている馬鹿面へ向かい再度拳を振りぬく。
「ごばぁ!?」
再び地面を転がるアレン。
俺はその姿を見下しながら、あえて抑揚を殺した声で話しかける。
「…お前のような者を出してしまったのは、俺が辺境伯の嫡男として認められることを放棄してしまったとこが要因の一つではあるだろう。少し責任を感じてしまっているんだ。お前に虐げられた民たちに申し訳ないってね。」
アレンは片膝をついた状態で俺を睨んでいる。
俺は構わず続ける。
「だからお前には自分が強者ではなく、圧倒的弱者であることを理解してもらい、お前が虐げてきた人々の気持ちを理解してもらう。そのうえで罪を償ってもらおう。」
「なぜ俺の攻撃が効かねぇ…?」
「…ふぅ。こちらの話を聞いてくれていたかな?」
俺は【縮地】でアレンの前へ移動すると、がら空きになっている腹部を蹴り飛ばす。
「…っぐ!!」
「俺は別に善人じゃない。理解してもらうまでは手荒に行くよ?」
そして俺によるアレンの調教が始まった。
◇◇◇◇◇
それははたから見ればただの暴力でしかないだろう。
辺境伯とこいつから受けた仕打ちは記憶に残っている。
言ってしまえば、殺されかけた恨みみたいなものがないとは言えない。
俺はアレンの体を痛めつけ続け、限界が来たと見るやシファを呼んで回復させた。
回復直後のアレンは反抗心を燃やし再び立ち向かってきたので再度痛めつける。
次第にアレンから対抗心の様なものは消えていき、最後には頭をかかえてうずくまるだけの人になっていた。
ここまで徹底的に痛めつければ今後暴力を振るおうとする気持ちは持てないだろう。
そういう気持ちを持った時に今回の出来事が蘇るくらいには躾けたつもりだ。
そう判断した俺はこいつを開放することにした。
もうとっくにシュラは残党の殲滅を終えており、シファの横に胡坐をかいて座っている。
久方ぶりに自身の意思で暴れられたからか少しスッキリしているように見えた。
「終わったかの?」
「ああ、後はこいつと録音の魔道具を王女さまに渡して証拠能力を吟味してもらおう。十分であればそのまま辺境伯はお縄だが、まだ不十分という事であれば当初の予定通り辺境伯家へ証拠回収に向かう。」
シュラは頷くと刀剣化により刀の姿になる。
『承知した。』
「シファも今回は助かった。また次も頼む。」
「出来ればこいつみたいな屑の回復役みたいな仕事は回してほしくないんだが?」
「…お前って人間の為に神に喧嘩売ったんじゃなかったっけ?」
「博愛主義ではない。理不尽に失われる命に疑問を持っただけで、屑の事は知らん。」
「そうか。なんかそう言うのって人間っぽい考え方だな。」
そんなことを話しながら俺たちはライラックの町へ戻る。
縛り上げられ、馬に載せられたアレンは道中一言も話さなかった。
アレンさんこの後は…秘密です。
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