29.踏破者、王女に会う。
ライラックの町にある迎賓館。
この国の第二王女さまはここに滞在しているらしい。
今日は1日休養日に充てるらしく、巡視等の予定は入っていないとの事。
「こちらになります。」
そう言いながら扉をノックする護衛隊隊長。
「ティア様、ただいま戻りました。例のハンターの方々も一緒です。」
護衛隊隊長の言葉に一拍置いて中から返事が返ってくる。
「は、入りなさい!!」
護衛隊隊長は俺たちに頷いてゆっくりとドアを開ける。
「お会いしたかったですわ魔術師様!!」
その瞬間、金髪の美少女が凄い速さでシファめがけて突っ込んでいった。
そしてそのままの勢いで抱き着く。
事前にそういう行動をとられる可能性があると聞かされていたが、とても王族とは思えないな。
因みにシファにはそうなった場合避けたり魔法で防御しない様に指示してある。
結構な勢いを受け止めることになり、ちょっと痛そうだ。
俺を差し置いてモテたりするからだ。いい気味だな。
護衛隊隊長は苦笑いだ。
「先日は危ない所をお助けいただきありがとうございます!!このティア・フォン・メリルローズ!!あなた様に感謝と親愛をお伝えしたく思っておりま…し…た?」
シファに抱き着いたまま礼を述べる王女さまだが、どうやら途中で気付いたようだ。
「え、ええええ!?魔術師様…!?女性だったのですか!?」
反射的にシファから離れる王女さま。
その顔には驚愕が浮かんでいた。
そう。彼女はシファの事を男性だと思い込んでいたらしい。
確かに顔は中性的だし、シファが着ていたローブは比較的体のラインが出にくい。
自身のピンチに颯爽と駆け付けた相手を白馬に乗った王子様だと勘違いしたってわけだ。
明らかに男である俺でなくシファに惹かれたのは剣で地味に戦っていたか、高威力魔法で派手に戦っていたかの違いだろう…たぶん。
どうやら王女さま以外のメンバーはシファの事を女性と気付いていたようだが、それを言っても王女さまは聞く耳持たなかったらしい。
シファが諭すように言う。
「ティア王女殿下、だいたいの話はそこの男に聞いた。だが私は女だ。あなたの想いには応えられない。」
これもそう言うように皆で話して決めて、俺が指示した。
シファは本当に人間一人一人に興味を持つのが難しいらしく、ちゃんと指示しなければ俺以外の人間は皆無視になってしまうのだ。
そしてシファからの拒絶を受けて王女さまが俯く。
ショックだろうが、この後の交渉事を捗らせるためにも色恋沙汰はここで終わりにしてもらわないとな。
少し可哀相な気もするが仕方ない。
「…こ、これはこれでイイですわ!!お姉さま!!どうか私とお付き合いください!!」
「ひっ!?」
王女様が再びシファに抱き着く。
いや、なんでだよ。
あの何事にも無関心なシファが怯えたぞ今。
俺も聞いたことない悲鳴が漏れちゃったよ。
狂気を感じたんだろうなぁ…。
周りを見ると護衛隊隊長は勿論、部屋の中に居る侍女たちもこの王女さまの行動には驚いているようだった。
だが、取り乱すところまで行っていない所を見るに驚きなれてるな。
「ティア王女殿下、自己紹介をさせていただいても宜しいでしょうか。」
俺は王女さまににこやかに笑いながら話しかける。
さっさと話を進めて片を付けたいからな。
…最悪、シファには尊い犠牲になってもらおう。
◇◇◇◇◇
「そちらの事情は分かりました。」
客室のソファに座る王女さまが俺たちの説明を聞き頷く。
王女さまの隣には魂の抜けたシファ、対面には俺、俺の後ろにはシルバとメル、リルが立っている。
「嘘を話す理由もありませんし、筋も通っています。フレンブリード辺境伯を押さえたい私共の思惑とも一致しますし、そちらの話に乗りましょう。」
王女さまは初対面時とは違い凛とした対応を見せていた。
どうやら政治的な話はできる人物のようだ。
「つきましては今回の襲撃の件、しばらく伏せていただきたい。王女殿下側からのアクションがなければフレンブリード辺境伯は襲撃が失敗したのか、襲撃前にアクシデントがあったのか判断が付かずに多少混乱するはず。その隙に俺達で今回の件の証拠を回収してきます。」
「その証拠が揃い次第フレンブリード辺境伯を吊り上げると。証拠隠滅されていた場合は?」
「フレンブリード辺境伯、及び例の呪印を施した魔術師を拘束します。シファは自白を強要する魔法も使えますので、本人が居れば今回の凶行は白状させられます。」
「そのような魔法も使えるのですね!!さすがシファお姉さま!!」
そう言って隣のシファに抱き着く王女さま。
あ、シファの口から出てる魂が更に吐き出された。
王女さまはシファとは違い、女性らしい、万人受けするような可愛さをしている。
その王女さまが絶世の美人に抱き着いている様子は見る人によればいい目の保養になるだろう。
だが、まじめな話し合いの途中途中で、俺は勝手に百合モードと呼ぶことにしたが、このモードに入るのは勘弁してほしいな…。
「では、我々は早速行動に移ります。首尾よくいきましたら先ほどの方法で連絡します。」
俺が席を立つと、一転して真面目モードとなった王女さまがしっかりを俺の目を見る。
そして確固たる意志を持って話し始める。
「ジーク様、シファお姉さまを置いていってくださいませんか?」
「お前マジ空気読めよ。」
つい突っ込んでしまったが、不敬罪に問われなかったので良しとしよう。
皆さんは目上の人に対する言葉遣いは気を付けましょう。
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