26.辺境伯、悩む。(辺境伯の養子、行動に出る。)
side フレンブリード辺境伯
儂は執務室で魔術師の報告を聞いている。
目の前に居るのはフレンブリード領の所有する騎士団の中で魔術に長けた者たちを集めた魔道隊の隊長だ。
第二王女暗殺部隊の主要メンバーに呪印を刻んだ人間である。
「…全滅したのは間違いないのか?何故だ?」
先ほど血相を変えたこの男が儂を訪ねて来て暗殺部隊の信号が全て途絶えたと言い出したのだ。
「部隊全員に呪印を刻んだわけではありませんので全滅かは判断しかねます。極端な話をすれば呪印を刻んだ腕を切り落とされただけでも反応は消えます。」
「…少なくとも呪印を刻んだメンバーは死亡したか腕を失うほどのけがを負ったと?」
「それは間違いないかと思います。」
儂は窓の外に目をやる。
日が落ちかけた空はこの先の行く末を現しているように見えた。
「…襲撃が失敗していればそう間を置かずに使者がここに来るだろう。わかっているな?」
「はい。襲撃部隊と我々を繋ぐものは何もありません。手筈通りに。」
そう言うと魔術師は執務室を退室する。
入れ違いにアレンが執務室へと入ってきた。
「上手くいっていないようですね。」
「…何の話だ?」
今回の件についてはアレンに何も話していない。
レアな【魔法剣】の才能に惹かれ養子としたはいいが、この男は問題ばかり起こしている。
粗暴で短気。メイドや領民には横暴な態度を取り、気に入らなかったり気に障ることがあると暴力を厭わない。
その才能のせいでなまじ戦闘力は騎士団のトップと遜色ないこともあり、誰も反抗できなくなっている。
最近は私兵を従えるようになってますますその傾向が助長されている。
私兵といってもその出自はその辺のゴロツキだ。
「知っていますよ?先日ここに巡視という建前で訪れたあの可愛らしいお姫さま。第二王女の暗殺でしょう?」
「…。」
「王女からの王戦の協力を断り、王女暗殺を成すことで第一王子陣営の中でも上位の立場を手に入れる目算だったのでしょう?」
アレンの言うとおりだった。
間もなくこの国では王子、王女の中で誰が次期の王位につくかを争う【王戦】が始まる。
慣例に習えば、それぞれ領地を与えられて領土を発展させる手腕を争う形になる。
実際には他陣営への妨害工作もありなのだが、一国を担うという事はそう言った手腕も必要という事だ。
今回の王女の巡視はいわゆる陣営強化が目的だ。
各地の領主を陣営に引き込むことで、自身の領土が近くに指定されれば支援を、敵陣営の領土が近くにあれば妨害をさせることが出来る。
領主の側にもメリットはある。
自身の所属する陣営の王族が王位を取得すれば、次期国王の下で確固たる地位を得られるのだ。
敵陣営に所属していた領主の領土を没収して自陣営のものに与えるようなことも過去にはある。
「父上の目的は宰相の地位ですか?そのためには陣営の中でも最も高い貢献度が必要になりますものね? …良ければ私が王女暗殺に向かいますが?」
「何馬鹿なことを!!…いったい何が目的だ。」
「俺の目的は王女様です。元王族の奴隷として日の当たらない所で飼ってやりますよ。」
「…お前は馬鹿なのか?襲撃対象を生かしておくなどリスクが高すぎる。それにもう王女陣営はフレンブリード領を離れただろう。もう手出しはできん。」
「…そうですか。残念です。」
そう言ってアレンは執務室を後にする。
「このことは他言無用だぞ!! この後当家は取り調べを受けるだろう。シラを切り続けなさい。」
執務室を去る背中に言葉を投げかけたが、その言葉が聞こえているかはわからなかった。
これはもう一度言い含めておかねばならんな。
誰も居なくなった部屋で儂は大きなため息をつく。
「儂の野望も潰えたか…。だが、であればこそ今の地位は死守せねば…。」
儂は椅子に深く腰掛けると、体重を背中に預けてもう一度大きなため息をついた。
◇◇◇◇◇
side アレン・フレンブリード
「準備は良いか?目的地は隣領。オスガルド領だ。」
俺の前には、俺が選りすぐった兵士が並んでいる。
人数にして40名。
どいつも最底辺の生活から引き上げた俺に対して従順な奴らだ。
全員が馬にまたがり、出発の号令を待っている。
「王女様を攫うんだろ?俺たちもいい思い出来るんだよな?」
そのうちの一人が声をあげる。
「残念だが王女は俺のものだ。飽きたらお前らにやってもいいがな。お前らには金でも女でも望むものを与えてやる。貢献度の高い奴から順にな。気張れよ!!」
「「「オオッ!!」」」
「行くぞ!!」
こうして俺たちはフレンブリード家を飛び出した。
アレンが王女の元へ向かった事をフレンブリード辺境伯が知るのは数時間後になる。
私はアレンが嫌いです。はい。
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