25.踏破者、襲撃者を追い詰める。
シファが倒れている騎士を順に回復させていく。
イヤイヤ命令に従っているだけだというような顔をしていなければ、騎士からはまさしく天使のように見えていただろう。
やがて全員の回復が終わった。
数名助からなかったがこればかりは仕方がない。
俺たちが居なければ全滅していたであろうことを思い、飲み込んでもらわなければならない。
「回復は終わったぞ。あいつ等を追うのか?」
治療を終えたシファが声をかけてくる。
俺は未だ主人を見せない豪勢な馬車の、その王家のエンブレムを見ながら答える。
「…ああ、このまま放っておけば、いずれあいつらが捕まって処刑されて終わりだ。」
「君はフレンブリード辺境伯の関与を考えているんだね?」
声をかけてきたのは先ほどの騎士だ。
どうもこの護衛隊の隊長らしい。
俺と同じく、今回の一件に考えを巡らせていたようだ。
「…そうだ。襲ってきていた男は長年フレンブリード家に仕えている執事長だ。実直な人柄で…とても独断で今回のような凶行に走るような奴ではない。間違いなくフレンブリード辺境伯の狂命を受けているだろう。」
「襲撃が失敗した場合にすべての責任を一人で受けるようにも…か。」
そうだ。
あそこでわざわざ独断による犯行であると高らかに宣言する意味はそれしかない。
ここにいるメンバー、特に襲撃対象であったあの馬車の中の人物に対してそれを聞かせることで、辺境伯が言い逃れれる余地を残したのだ。
「…もうフレンブリード家からの襲撃はないと思うが、次の目的地まではちゃんとたどり着けそうか?」
「幸い次の目的地は我が主に友好的な領主の治める土地だ。おそらく大丈夫だろう。」
「よし、行くぞシファ。」
「…我が主には会って行かないのか?」
「俺は、貴族だのに興味なくてな。面倒だ。」
「そうか、ご武運を。」
騎士は俺たちに敬礼する。
「ああ、そっちもな。」
そう言って俺たちはシルバが消えた方角へと走り出す。
◇◇◇◇◇
「ここで野営していたのか。」
今俺が居る場所はテント群が簡易ではあるが木柵に囲まれた場所だった。
シルバが消えた方へ向かって走る途中でシファの【探索】に人工物が引っ掛かったというので確認しに来たのだ。
「近くに人は居ないな。どうする。」
「ここに手掛かりはないだろう。襲撃失敗も視野に入れているとすれば、辺境伯家の命を受けている証拠となるようなものを残すことはしないだろう。」
そう言いながら頭の中で地理を整理する。
この先は…川か!?
「すぐ移動するぞシファ。この先には王都から南西へ向けて流れている川がある。小舟のようなものまで用意されていたら一気に捜索範囲が広がってしまう。」
俺達は野営地を後にして川へと走る。
途中、鋭利な刃物で倒された魔物が転がっていたのでこの先にシルバが居るのは確実となった。
やがて森が途切れ、川が視界に入り込む。
「…流石に船までは用意していなかったか。」
「ええ、残念ながら。最初は逃げるつもりがありませんでしたから。筏でも作ろうかと悩んでいたところでした。」
川の前にはシルバと、今は顔の布を取った二人の女性が立っていた。
「メルとリルか、道理で。」
メルとリルはシルバの孫娘で、ともにフレンブリード家に仕えるメイドだった。
バトルメイドだったとは知らなかったが…。
「犯行を独断だったと宣言した後で自害しなかったのは二人を逃がすためか。」
騎士の前ではあえて口には出さなかったが、シルバが逃亡したのは疑問だった。
逃げている間は追手に人員を割かねばならないのでフレンブリード辺境伯家への追及の手が緩むことも考えられたが、もし捕まればその関係性が明るみに出るという最悪のケースも考えられる。
普通に考えるならば独断専行だと宣言し自害するのが一番リスクが少ない。
「…私も任務のために非情になり切れなかったようですね。坊ちゃん、この二人は見逃してもらえませんか?」
「お前も害する気はない。フレンブリード辺境伯家が関与している証拠はないか?」
「…私は助かりませんよ。」
そう言ってシルバは右腕の袖をめくる。
そこには複雑な呪印が刻まれていた。
「…奴隷印。」
「少し違います。奴隷印は高位の術者でなければ刻めませんから、フレンブリード家の者では刻めません。これはせいぜい行動の制限をかける程度のものです。」
「お前はどのような枷を?」
「…主人を害する行動をとれないようにと。そしてこの呪印は術者から感知できるようになっていますので、私が生きていることもここに居ることもばれています。この場は逃げおおせても、いずれ私はフレンブリード家の刺客に殺されるでしょう。」
なるほど。
普通なら絶望的な状況だな。
だが、このままシルバを見殺しにしてフレンブリード家を逃すようなことはしない。
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