215.第二王女、第一王子の元を目指す。
地下から飛び出し謁見の間へと向かう。
途中襲い掛かってくる兵士たちは王族専属騎士の3人とリュードの仲間たちが難なく対処している。
皆手際よく兵士たちを戦闘不能に追い込んでいく。
襲い掛かってくる兵士もこの国の民である。
しかも操られているとなると殺すわけにはいかない。
「ちっ。こいつらマジに操られてるのか?動きにぎくしゃくしてるところがないぞ?」
今もまた死角から襲い掛かってきた兵士を巨大な戦槌の一撃で吹き飛ばした筋骨隆々の大男が言う。
「おそらく操作ではなく洗脳の類なのだろうな。こちらの問いかけには応じる素振りがないから何かしらかの異常状態にあるのは明らかだろう。」
返事をするのは先ほどシファお姉さまにサイモンと呼ばれていた初老の男だ。
こちらも的確な攻撃魔法を駆使し兵士を戦闘不能に追い込んでいっている。
この2人は王の王族専属騎士の一人、リュードの昔の仲間だと言っていた。
リュードは元Sランクハンターなので、その時代の仲間なのだろう。
しかし気になることがある。
「サイモンさんは先ほどコウナードのギルドマスターだと言われていましたわよね?ハンターギルドは政治に不干渉という原則があるはずですが、…良かったのですか?」
サイモンさんはその問いに優しく笑う。
「なに、パーティメンバーの個人的な頼みに個人的に協力しとるだけだよ。何も問題はないし、仮に問題視されてもギルドマスターを退けばいいだけだよ。」
「そしたら儂ともう一度パーティを組んでもらうぞ。何せ最近の若いもんは鍛え方がなっとらんからな。臨時パーティを組むのも一苦労なんだ。」
にやりと笑う大男は私も知識としては知っている男だ。
『破壊王』の二つ名を持つ現役のSランクハンター、エギル。
リュードと繋がりがあるというのは聞いたことがあったが、元パーティメンバーだったとは知らなかった。
それにしてもいったい何歳なんだろう。
結構年齢は上のはずなのにそんな雰囲気は微塵も感じない。
「私はもう現役を引退しとるよ。…それに、『最近の若いもん』の中にもしっかり鍛えている者もおるよ。」
そう言ってサイモンさんはシファお姉さまに視線を向ける。
「2人ともお喋りはそこまでだ。」
先行しているリュードの足が止まる。
ちょうど王宮のエントランスまで戻ってきたところだ。
そのエントランスの中央には3人の男が立っている。
2人は分かる。
王国騎士団団長と副団長だ。
そして面識のないもう一人もその正体は明白だ。
なにせその背には1対の羽が生えている。
メタトロンの配下の天使で間違いない。
「天使の方は私がやるわ。」
シファお姉さまが【天翔】によりふわりと浮き上がる。
同時に天使の方も宙に浮きあがる。
「ちっ。1回天使とやらとも戦ってみたいところだが今はわがまま言う時じゃねえからな。だが団長は譲らんぞ。」
そう言ってエギルは戦槌を構える。
リュードとサイモンもその後ろで構える。
副団長の方はリュード以外の王族専属騎士2人が対応することになるようだ。
そしてエントランスでの戦いが始まった。
飛び出したのは戦槌を構えたエギル。
重量武器を持っているのに凄まじい速さで騎士団団長へと接敵し、薙ぎ払うように仙椎を振り回す。
しかし騎士団団長の方も戦闘能力は折り紙付きだ。
そんな直線的な攻撃に屈するような者ではない。
騎士団団長は音もなく滑るように後方へ移動し戦槌を躱す。
そして戦槌の一撃を放った後の無防備なエギルへと切りかかる。
「ふっ!!」
その間にリュードが滑り込み騎士団団長の剣を捌く。
騎士団団長は【剣技】と言う一般的な才能でありながらたゆまぬ鍛練によりその地位まで登り詰めた人間だ。
王族専属騎士とは言え、戦士としてのピークを越えているであろうリュードが押されている。
「オラァ!!」
エギルの戦槌が容赦なく振り下ろされる。
だが、素早く反応した騎士団団長のバックステップによりその一撃も躱される。
「【敏捷低下】【暗】【拘束】」
緊急回避で態勢が崩れた騎士団団長へ能力制限系の魔法が3連射される。
発動者はサイモンさんだ。
「よっしゃ!!しまいだ!!っ」
動きが止まった騎士団団長へと容赦ない戦槌の一撃が振るわれる。
その戦槌は騎士団団長の剣、鎧を容赦なく破壊しその体を大きく吹き飛ばす。
そしてそのままエントランスの壁へと叩きつけられる。
騎士団団長は意識を失ったのかそのまま地面に落ちで動かなくなった。
…死んでないといいけど…。
ふと上空を見ればシファお姉さまと、その前に結界が見える。
結界の中は凄まじい勢いの炎が渦巻いていて何も見えない。
おそらく先ほどの天使はあの中だろう…。
そしてもう一人。
騎士団副団長の方も終わったようだ。
副団長は槍で壁に縫い付けられるようにしてその動きを止めていた。
相手が相手で仕方ないとはいえ、また足止めを食ってしまった。
騎士団団長と副団長をそのまま放置して私たちはエントランスから階段を上っていく。
そこからは天使も兵士も出てこない。
こちらにとって都合が良いのは間違いないが、どこかこの静けさが不気味に映る。
やがて謁見の間に辿り着く。
「開けます。」
小声でリュードがささやき、そして扉を開けた。
「遅かったな。」
そこには玉座に座るジーク殿の姿があった。
お知らせです。
今年度が始まり、仕事が忙しくなったため執筆活動が困難になってしまいました。
頂いた感想に変身も出来ない始末でして、このクーデーター編の終了を持って本作は一度完結とさせていただきたいと思います。
まだまだ回収しきれていない伏線や新作のアイデアもまとめている所だったのですが…。
いずれ必ず!!とは思っています。




