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210/218

210.踏破者、王都へと飛び立つ。(第一王子、体制を整える。)

朝、領主邸の前。

庭には既にバハムートを呼び出している。

もう後はその背に乗りさえすれば王都へ向けて発つことが出来る。


「師匠、私は本当に行かなくて良いのですか?」


出立準備を手伝ってくれていたレクシアが若干悔しそうに聞いてくる。

今回、彼女の役目は俺たちが留守の間のこの街の防衛だ。

ないとは思うが、再び魔族軍が攻め込んでくる可能性は否定できない。


だが、本当の所の理由は別にある。

戦士にそのあたりの事情を隠すのも違う気がしたので、俺は本当の所の理由を告げることにした。


「今回の相手は神族だからな。正直に言ってレクシア、お前が神族相手に戦えるようになるのはまだ先の話だ。」


「…そう、ですね。」


レクシアもそのあたりは十分理解しているはずだ。

だが、それは『まだ』と言うだけだ。


「今のまま異空間訓練を続けて行けば1年位あればミハエル位とは良い勝負できると思うぞ。」


「だからミカエルよ。」


シファからの突込みが入る。

レクシアは首をかしげている。

そういやレクシアはミカエルと戦った時には居なかったな。


「まぁ速い話が今は無理だろうが、近いうち神族とも戦えるようになるって事だ。精進を怠るなよ?」


「…!!はい!!」


あえて言う事はしないが、理由としてはもう一つあるんだがな。

仮に王子派の兵と戦う事になった場合、本当にどうしようもない時はそれを切るつもりでいる。

王国騎士団に所属していた彼女からすれば元同僚だ。

少なくない付き合いにあった者も居るだろう。

それが切れるかどうかは俺には分からなかった。



そんな話をしている所にティアがラマシュトゥを連れてやってくる。

目の下にクマが出来ているところを見るに夜遅くまで悩んでいたのだろう。

一方でその表情に迷いはない。

しっかりと結論を出してきたようだ。


「おはよう。結論を聞こうか?」


ここでティアはその両頬を膨らませる。


「ジーク殿、卑怯ですわ。よくよく考えれば、私がどちらを選ぼうともジーク殿はお兄さまのバックに居る天使を排除してしまうのでしょう?そうなれば混乱は必至。私には安定を取るかとか言っておいて、安定の道なんてないじゃないですか。」


責めるようなその物言いに俺は笑う。


「ははは。気付くのが遅いぞ。それだけいっぱいいっぱいだったって事だろうがな。で、整理はついたのか?」


「ええ、クーデターにより奪われた王座を奪還しに行きます。」


俺はその言葉に頷く。


「よし、俺とシファ、ティア、ラマシュトゥで行く。ラマシュトゥ、お前の任務はティアの護衛だ。相手は神族。ぬかるなよ?」


「無論、誰が相手でもその役目、この妾が果たしてみせよう。」


そして皆でバハムートの背に乗り込む。

レクシアが俺達に向けて敬礼する。


「バハムート、行ってくれ。」


こうして俺たちはモールドを発ち、王都へと向かった。





◇◇◇◇◇




玉座の座り心地は存外心地よくなかった。

それは物理的な緩衝の問題か、はたまたここに座る過程の問題か。

僕にはどちらかわからなかった。

あるいは両方なのかもしれないが。


眼下では僕の配下の兵が片膝をついて首を垂れている。


「ラズール王。報告にございます。王都内の反勢力についてはあらかた捕え終わりました。ですが依然、前王の王族専属騎士(ロイヤルナイト)、リュードの行方は掴めておりません。」


代り映えしない内容だ。

リュードは僕がクーデターを起こした時に何かの任を受けて王宮を不在にしていた。

それを捉えられなかったのが今では唯一の不安要素だ。


「そうか。引き続き捜索を続けてくれ。ハンターギルドとの強いパイプを持っているらしいからそっちに何か働きかけてくる可能性もあるから動向は注意してくれ。下がって良いぞ。」


「はっ。」


報告を終えた兵は一礼して謁見室を後にする。


「順調に王座を得たというのになんだろうな、この虚無感は。」


『そんな事は私の知ったことではない。それより要求通りに動いてやってるんだ。さっさとルシフェルの捜索を開始しろ。』


玉座の後方、何もない空間からその声は答える。


「もう指示はしている。だが妙齢の絶世の美女と言うだけのヒントではな…。もう少しまともな情報はないのか?」


『そうなのか?我はルシフェル以上に美しい人を見たことがない。それだけで十分だと思うのだがな。…まぁいい、他で言えばやはり単純に目立つだろうことは言えるか。なにせ腐っても神族だ。人族と一緒に居れば浮くだろうからな。』


「まぁ探させているからもう少し待てよ。」


『ふん。』


僕は特に意味もなく立ち上がり、辺りを見回す。

玉座からの視界。


この国のトップに立ったという実感は後で沸いてくるだろう。

今はそれでいいということにする。


「戴冠式が終われば名実ともに僕が王になる。ティアはどう出るかな?」


無意識に独り言ちる。

現状対抗してくる可能性があるのは彼女だけだ。

その一方で国民を慮る彼女の事だからこのまま国の安定を取ることも考えられる。


『む?上空から大型の【竜種(ドラゴン)】が来たぞ?背に人も乗っているようだ。何者だ?』


不意にメタトロンから告げられるその報告。


僕は不意にもう一つあった不安要を思い出す。

先日メタトロンが取り逃がした隠密。

この天使の怠慢である事は疑いの余地はない。

だが、それでも神族。それから逃げおおせることが出来るのもまた神族か。


その相手にメタトロンの存在を知られてしまったこと。

それが心のどこかに引っ掛かっていた。

クーデターが成功するかの瀬戸際ですね。

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