208.踏破者、熾天使の存在を知る。
モールドの領主邸に戻ると、そこにはこの街の主要メンバーが揃っていた。
因陀羅の報告を受けてティアが招集をかけたのだろう。
「随分早かったですわね。」
「ああ、今回は事が事だからな。若干手荒くなったが手っ取り早く魔族軍にはステージから降りてもらったよ。」
「ジークさん…。」
俺の報告に不安げな声をかけてきたのはレベッカだ。
そうか、彼女は魔族軍の中にベリルが居たことを見てるんだったな。
「ベリルなら生きてるぞ?俺が処理してきたのはアンデッド兵の使役者の女と援軍に来ていた魔族数十人だ。」
そう言うとレベッカは安心したようだ。
「では少しお話させていただいても?」
その一方でティアの表情は暗い。
「ラズールお兄さま…第一王子に高位の天使がついている可能性が高いという事ですが…。」
『それについてですが、さっき波夷羅の目が覚めたので確認してきました。』
因陀羅が説明を始める。
『波夷羅は情報収集の為、第一王子の拠点である領収邸へ侵入したそうです。ですが、屋敷内に入るとすぐに男から声をかけられたと。それがメタトロンと名乗ったそうです。そして屋敷に来た理由を聞かれ、沈黙していると敵とみなされて攻撃を受けたとの事でした。』
「不意打ちってわけでもなくやられたって事か?」
『はい、詳しくは分かりませんが、こちらの攻撃が一切通ることなく一方的だったようです。何とか屋敷から逃げ出すも、身動きが取れなくなり主殿に助けを求めたという流れです。』
「であれば波夷羅を放ったのが誰かとまではバレていない可能性もあるな。となるとその天使が波夷羅の足跡を追って攻めてくるって可能性はそんなに高くなさそうだな…。」
「何で残念がっているのですか…。」
俺が露骨に肩を落とすのを見てティアが呆れている。
「先日のミリガルド帝国の侵攻をラズールお兄さまが手引きした可能性がありますが、そのメタトロンなる天使がバックについていたとなるとその目的が見えてきますでしょうか?」
「そりゃ神族がバックについてくれるんなら多少無茶できるだろうからな。王に気付かれないようにライバルを排除するとか、ラマシュトゥの言うようにクーデターだって成就できるだろう。…その神族が協力的ならな。」
そう言って俺はシファを見る。
シファは首を横に振る。
「メタトロンが私の知っている奴なら、人族に興味を持っていないはず。何かしらかの目的があって人界に来ているとは思うけど、その第一王子と目的が一緒って事はないでしょうね。」
第一王子の目的はこの王国の覇権を取るという事だろうか。
確かにメタトロンの目的が第一王子を王にするなんてことはないだろう。
「それでも組んでいるという事は何かしらかの利害が一致しているという事でしょうか。話を聞く限りではその天使はお兄様の護衛のようなことをしているようですし…。」
「そうだな。具体的には分らんがそう言う事だろう。で、だ。今後俺たちがどう動くべきかという話だが、どう思う?」
俺の問いにティアが思案する。
少しの間沈黙した後、その考えを口に出す。
「まず、その神族とラズールお兄様の協力関係を断ちたいところですわね。この国の為にその力を行使するのであればいいのですが、無駄に国民の血を流させるようなやり方を進めようとしているのを見過ごすことはできません。」
語り終えたティアの目にははっきりと戦う意思が浮かんでいた。
俺は頷く。
「よし、それならこちら側から仕掛けるとしよう。俺とシファでそのメタトロンに接触を試みてみるか。」
「え?会いに行くの??…嫌なんだけど。」
「実際に会って話しないと人界に来た理由が分からないだろ?場合によってはその目的を成就させてやれば第一王子と組む理由もなくなるだろうし。目的が俺やシファの抹殺とかなら遠慮なく戦えるし。」
「後半に希望がだだ洩れしてるわよ。」
仕方ないだろ。
熾天使だぞ?
めっちゃ強そうだろ?
こんな機会逃したくないんだよ!
「何か会いたくなさそうだけど、何か問題があるのか?」
「…単に嫌いなだけよ。自信家でやたら私の後を付け回してくる奴なのよ。」
「ん?」
「今にして思えば多少好意を向けられていたのかしら。私の方が興味なくて相手にしていなかったのだけれど。」
「んん!?」
「…どうしたの?」
「いや、どうやら俺にはもう一つその男と戦う理由が出来たようだ。」
「…妬いてるの?」
若干嬉しそうな表情を浮かべるシファ。
この感情は恐らくそうなのだろう。
これまで感じたことのない黒い感情だ。
だが、何故かそれを認めてはいけない気がする。
認めたらこの堕天使が調子に乗ることが目に見えているしな。
「おかしいですわ。この国の行く末の話をしていたはずですのに、いつの間にか痴情のもつれに話になっていますわ。シリアスな空気が消えてしまっています。」
「悪いが俺は国情より私情を優先させる。」
「いったい何の宣言ですの!?だいたい、シファお姉さまは将来私と結ばれるのですわよ!?そこの所お忘れなく!!」
お前も私情の話してきてんじゃねえか。
他のメンバーの何とも言えない表情を見ろよ。
俺は一つ咳払いをする。
「話を戻すぞ。俺とティアでメタトロンに会いに行く。その後の流れは流動的だが、第一王子との協力関係を解消させるように動くことにする。いいか?」
俺は一同を見渡す。
異論はないようだ。
では、と会議を締めようとした時だった。
会議室のドアが勢い良く放たれ、国防軍の兵士が入ってきた。
「ほ、報告です!!先ほど国防軍設置の通信魔道具に着信があり、お、王位の継承が行われたと!!ラズール王が即位したと!!おそらく国内すべての通信魔道具に同様の知らせが流れたものと思います!!」
俺達は顔を見合わせる。
どうやら第一王子は俺たちが思うよりだいぶ早く動き出していたようだ。
シファさん割と本気で嫌がってます。
気のない人に好意を向けられても嬉しくないというタイプだそうです。
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