207.踏破者、配下の鬼神を倒される。
モールドへと戻るべく森の中を進む。
そんな俺の元へと仕事を終えたシファが戻ってきた。
「お疲れさん。首尾は?」
「もちろん問題ないわ。その辺に居たアンデッド兵は残らず【除霊】でただの死体に戻しておいたわ。そっちはどうだった?四将軍の2人が居たんでしょ?」
「期待外れもいいとこだったな。1人は自身の戦闘能力が低いってタイプだし、レベッカの仇の方は戦意を失ってしまっていたし…。」
「戦力差を理解できるレベルにあるって事は凄いことなんでしょうけどね。」
そうかもしれないと俺は思う。
我彼の戦力差を理解できないレベルの奴は逆に突っかかってくる気がする。
そうしないという事はある程度レベルが高いとも見れるのか…。
「だが、それで向かってくることが出来ないレベルなんじゃ結局相手にならんな。…そういう意味じゃ今回の神族には期待しているぞ。」
「身内がやられているのにその心配より自分の戦闘欲を優先させるのは人としてどうかと思うわ。」
「命の危険があるわけではないしな。それはそれだ。」
言いながら俺は先刻の事を思い起こす。
事態が急変したのは魔族軍の再侵攻に備えて数日が経った頃だった。
◇◇◇◇◇
俺は国防軍拠点の顧問室にいた。
アンデッド兵中心の魔族軍の侵攻を退けた後、昼夜問わず散発的に少数のアンデッド兵が攻め込んできてはいたが、当番の兵で難なく処理できている。
こちらの疲弊を狙った手だろうが、如何せん手駒が弱すぎてこちらも緊急招集などを発する必要がなく、良い実践訓練が出来ているとさえ言える。
だが、いつ魔族軍の本体の再侵攻があるかが不明なのが悩みの種だった。
俺の予想よりすでに遅い。
まだ長引くようならこちらから攻め入ろうか。
その時はどんな布陣で行くべきか。
そんなことを考えているタイミングだった。
血相を変えた因陀羅が顧問室へ入ってくる。
『主殿!!波夷羅がやられました!!呼び戻せますか!?』
「【眷属召喚】。」
因陀羅の報告に俺は即座に反応する。
俺の前に展開された魔法陣から波夷羅が出現する。
『すみ…ません。不覚を…とりました。』
「喋らなくていい。」
見たところ全身が焼けている。
魔法攻撃の類だろうか。
致命傷という訳ではなさそうだが…。
「シファ、回復頼む。」
シファが頷き、波夷羅に回復魔法を行使する。
『ぐ、ああぁぁぁ!?』
同時に波夷羅の悲鳴が顧問室中に響き渡る。
反射的にシファが魔法を解除すると、波夷羅は意識を失った。
俺はまだ波夷羅の息がある事を確認し、シファに尋ねる。
「…どういうことだ?」
シファは少し悩んでから可能性を口にする。
「多分、回復魔法によるダメージだったんだと思う。過剰回復を受けた場合、過剰分のエネルギーが蓄積されることになるんだけど、その負荷に体が耐えれなくなると崩壊を引き起こすのよ。」
「強力な回復魔法を受けた後は身体能力やスタミナが増幅されるってあれか?」
「そうね。それは過剰分のエネルギーが発散されることで起こる現象なんだけれど、発散されるより早くエネルギーを蓄え続ければ…。こうなる可能性があるわ。」
「そこに回復魔法を行使したから逆効果になったって事か。回復が出来ないとなると厄介だな。」
「ええ、自然とエネルギーが発散されるのを待つしかないわね。」
俺は因陀羅に確認する。
「波夷羅は第一王子の身辺を調査していた。間違いないな?」
『間違いありません。』
先日の王子との一件で、ミリガルド帝国へと情報提供を行っていた疑いが出たために俺が指示したのだ
。
念のため隠形に優れた波夷羅をあてがったのだがな。
「第一王子の周りには波夷羅の隠密を看破し、かつ回復魔法で打倒できるほどの人物がいるわけだ。人間業じゃないな。」
「あなたが言うと説得力ないわね。」
確かに。
回復魔法は使えないが、波夷羅を打倒自体はできるな。
『聞き間違いの可能性もありますが、念話ではメタトロンなる人物にやられたと言っていました。』
「メタトロン!?」
その言葉に反応したのはシファだった。
「知ってる奴か?」
「…かつての私と同じ熾天使に属する男よ。」
「熾天使!?ほう!!」
「いや、そんな喜色満面といった笑顔をされても…。」
いかん!!
喜んでいるのがバレてしまった!!
平常心。
平常心。
「失礼。ずいぶん強そうな奴が出て来たなと思ってな。」
「ジーク、顔がすごい歪な笑顔になってるわよ。逆に怖いわ。」
あれ?
表情ってどうやって制御するんだっけ?
落ち着け。
状況を整理しなければ。
「メタトロンってのが第一王子のバックについてるって事か。そいつは人間にちょっかい駆けるような奴なのか?」
「いいえ。どちらかと言えば無関心な方ね。だから人界に来ているのには何か理由があるんだと思うわ。」
「前に大天使の…なんだっけ?ミハエル?倒しちゃったじゃん?報復に来たりとか?」
「ミカエルよ。…その可能性もありそう。後は私の抹殺とかもありそうね。」
「いずれにせよこっちの密偵がやられてるんだ。何かしらのアクションを起こしてくる可能性は否定できんな。」
俺は執務室から立ち上がり、外套を羽織る。
「どこに行くの?」
「状況が変わった。波夷羅をやるような奴がいつ攻めてくるか分からないんだ。魔族軍の侵攻と被らないようにそっちは俺が処理する。因陀羅はティアにこの件の事を報告しておいてくれ。」
『御意に。』
そして俺は顧問室を出て魔族領を目指した。
この半刻後、【氷華のベリル】を残し魔族軍を殲滅することになる。
ジークさん出動の裏話です。
大きく話が動きそうな予感です。
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