200.踏破者、謁見の様子を聞く。
「突っかかり具合から察するに第一王子が黒っぽいな。」
王宮にあるティアの自室。
そこで王から告げられた内容と、その場での話の内容を聞いた俺がつぶやく。
「確かにラズールお兄さまならそれくらいやろうと思えばできるでしょうが…。ですがそれはこの国の国力を低下させることに繋がる策です。流石に悪手だと思いますし、その点から言えばラズールお兄さまはそういった手段は取らないような気がしますわ。」
俺達が話しているのはこの国に居る内通者についてだ。
先のミリガルド帝国からの侵攻。
敵軍の指揮官に【強制自白】を使用して聞き出した情報では、帝国側に王国側からの情報供与があったらしい。
曰く、フレンブリード領では無能の王族が領地経営を行っており、防衛力が極端に低下している。と。
この情報に帝国で覇権を取ったばかりの新皇帝が喰いついた。
帝国内での求心力を高めるために目に見える成果を欲していた奴は内偵を行い、情報が真であると確認するや暴挙に出たという訳だ。
おそらく、フレンブリード領を攻め落とすと同時に王族の人質を取り、その領土をミリガルド帝国に属するものと認めさせる算段だったのだろう。
ここでの問題は誰が帝国に情報を流したか、ということだ。
真っ先に思い浮かんだのが王戦に絡むライバルがほかの候補者を脱落させるために仕組んだというものだが、それには大きな矛盾がある。
それは先ほどティアが言ったように国力の低下を招くという事だ。
フレンブリード領を奪われた場合もそうだが、王都より派兵して応戦、これを撃退した場合でも王国側に相応の被害が出ることは明白だ。
自身がこの国の派遣を狙っているのにわざわざその国を弱体化させる理由などない。
西の隣国、聖王国セアルドにしても王国が疲弊すればどのような手段を取ってくるかわからない。
「国力が低下しても問題ないと断じるに足る策があったか、あるいは国力の低下そのものが目的であった可能性は否定できんがな。」
俺の言葉にティアが怪訝そうな顔をする。
「…どういうケースが考えられますか?」
「例えばだが、もうこの国を見限っていて、聖王国セアルドあるいはミリガルド帝国と結託しているパターンだな。ミリガルド帝国と王国を戦争状態に追い込み、疲弊した王国を聖王国セアルドが占拠、自身はその地の統治者として聖王国に任命させる。とかかな。」
「…王国を聖王国の属国とするということですか。しかしそこまでする必要があるとは…。」
「ティアの存在があるからな。」
「え?」
俺の指摘にティアが驚く。
「ティアはここ最近立て続けに戦果を挙げ、シュタイン領の経営も順風満帆と来てる。次期女王が冗談でなく見えてきている状況だろう?自身が王戦に勝ち切れる確証がなければより高い確率で覇権を取れる方法を画策してもおかしくないって話だ。」
ティアは黙り込む。
自身に対する周りの評価は直接聞くことは無くても俯瞰して見れば想像できるだろう。
「まだ他にもあるであろう?」
そう言って会話に入ってきたのはティアのベッドに胡坐をかいて座っていたラマシュトゥだった。
「人族の歴史の中で覇権を取る最もオーソドックスな方法が。革命というなのな。」
「…クーデターか。」
それは俺も考えていなかった。
いや、無意識にその可能性を排除していたと言うべきか。
何せ、クーデターを起こすには個人で国を占有するだけの戦力を持つ必要がある。
第一王子、あるいは第一王女にそれだけの求心力があるかは疑問だ。
自身の派閥を持つとはいえ、現王に弓を引いてその派閥の者が全てついてくるわけではないだろう。
もう一つは心情的な問題か。
クーデターを起こすとなった場合、打倒する政権の主は自身の親なのだ。
「言っておくが、自身の親を殺して政権者となったものなど過去いくらでもいるぞ?」
ラマシュトゥが俺の考えを読んだかのように言う。
いや、俺だけでなくティアも同じようなことを考えていたはずだ。
「…可能性の一つとしては、…考慮すべきかもしれませんわね。」
ティアは苦しそうに言う。
もしそうなった場合の事を考えているのだろう。
ティアにとって兄姉が敵に回るというのは想像していなかったはずだ。
競争相手とは違うのだ。
「まぁそういう手に出てくる可能性もあるという程度だ。可能性としてはやはり低いとは思うしな。今はあまり気を張らないようにしよう。何よりまずはシュタイン領を発展させることだ。」
俺はそう言って話を締めくくる。
とは言え内通者を放って置くことも出来ない、ティアに伏せて調査すべきだろう。
十二神将の誰かをミリガルド帝国に潜入させるか…。
俺がそんなことを考えていたタイミングだった。
『主殿、よろしいか?』
王都へついてきていた因陀羅が声をかけてくる。
「どうした?」
『シュタイン領北の魔族軍の見張りから報告がありました。大規模侵攻の兆候があるとの事です。』
「大規模侵攻ですか?数に劣る魔族がそんな頻繁に大規模侵攻とは…。」
ティアが言う事はもっともだ。
俺は因陀羅に視線で話の続きを促す。
『それが、ほとんどの兵はアンデッドのようです。どうもそういう能力の持ち主がいるようで、数にして約2万になるそうです。』
「2万!?」
その数に驚くティア。
だが、アンデッド軍という事は魔族レベルの強さではないだろう。
ちょうどいいかもしれない。
「よし、国防軍に今の情報を連絡し、対応に当たらせよう。」
「ちょっ!?ジーク殿!?2万ですわよ!?」
先程より驚くティア。
それに対し俺は不敵な笑みを返した。
ラマシュトゥさんは時折核心を突く発言をしますよね。
もはや空気となっている旦那のパズズとさんとは違うタイプですね。
彼はレベッカに感情移入しちゃう人情派ですので。
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