20.踏破者、トカゲ退治する。
「トカゲさんね。ちょっと見に行ってみるか。」
「分不相応ではなかったのか?」
「聞いてたのか?遠目に見てヤバそうだったら手は出さないよ。俺だって別に死にたいわけじゃない。」
「嘘だな。」
「嘘だよ。」
実際、俺は強い奴と戦いたいという気持ちが確実にある。
実力が拮抗した相手と戦う時の高揚感は忘れがたい。
ドラゴンはこの世でも上位の魔物と言うのだから戦っておきたい。
あわよくばと思いわざわざこの場所の依頼を受けたのだからな。
まぁ勝てなさそうなら逃げるがな。
シファが指示する先を目指して森を駆け抜ける。
「もうすぐ見えるな。」
「いた。」
俺は足を止める。
4足歩行、全長10mほどの魔物だ。
フォルムは甲羅のない亀のようと言えばいいだろうか。
足が異様に発達して肥大しているため、トカゲという印象からは外れている。
動きは緩慢で、一般人でもよほどの事がない限り逃げ切れそうだ。
「…強そうに見えんな。姿形は情報と一致するが…これが【地竜】か?」
「【探索】するか?」
「それでは楽しめんだろう。防御力が非常に高いという事だけで十分だ。いくぞシュラ。」
『心得た。』
俺は身を隠していた茂みから飛び出し、【地竜】に向けて駆ける。
向こうもこちらに気付き、鎌首をもたげる。
「確かもっとも固いのは足だったな。」
俺はそのまま速度を落とさず【地竜】に接近すると、左前脚に向けて斬撃を放つ。
「シッ!!」
「グォォォォォォオオオオ!?」
剛力を発動して放たれた斬撃により【地竜】の前足は大きく切り開かれ、鮮血が舞う。
【地竜】は斬撃を受けるまで余裕があったようだが、こちらを脅威として認識したようだ。
斬撃を受けた足をそのまま振りかぶり、俺を踏みつぶさんとして振り下ろしてくる。
「遅いな。」
だが、その前足が振り下ろされる前に縮地で腹の下に潜り込む。
ドォン
一瞬遅れて【地竜】の足が振り下ろされるがそこにはもう誰もいない。
「4足歩行の生物の弱点は腹部とよく聞くが、おまえはどうか、な!!」
俺は頭の上にあるその柔らかそうな腹部に向けて連続で斬撃を畳み込む。
「はぁああ!!」
「グ!?グォ!?グォォォオオオ!?」
何度か斬撃を畳み込むと【地竜】の巨体が揺らぐ。
俺はそれを察知すると再び縮地を使用し腹の下から脱出した。
ズズン
振り返ると、そこには光を失った目を持つ【地竜】の死体が横たわっていた。
「(斬撃の)どれかが心臓に達したかな?」
「お疲れ様。どうだった。」
シファが茂みから出て俺に近づきながら問うてくる。
「弱いな。…なぁ、聞きたいことがあるんだが?」
「聞こう。」
「【アビス】にいた魔物より強い奴はこの世にいるのか?」
「…魔物に関してはほぼいないだろう。魔物の頂点にいるような個体がどうかと言うところだろう。人族、魔族に関しては可能性はあるな。神族に至っては【アビス】の魔物より強い奴ばかりだ。」
「そうか。強い奴がいないってわけじゃなくて良かったよ。」
「…主殿が満足できるほど強い奴がいるとは限らんがな。」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何も。この【地竜】は回収するのか?」
「ああ、どうせならギルドに報告して討伐報酬を貰おう。そしたら【スリアド】から出られる。」
「【地竜】の討伐証明部位ってどこだ?」
「確か竜玉とあったはずだ。どこだろうな?」
「仕方ない。全部持っていくか。」
「え?」
そう言うとシファは【地竜】の死体に向けて手をかざす。
その瞬間、そこにあった死体はきれいに消えてしまった。
本なんかを収納しているという空間魔法のようだが、こんな大きなものも入るのか…。
「どんだけ容量あるんだよその魔法…。俺が持ってるゴブリンとウルフの討伐証明部位も回収してくれりゃいいのに…。」
「容量に関しては無限に近いな。だが出し入れに魔力を消費するからゴブリン程度を討伐するたびに使用したくはないな。」
「なるほど。だが眷属であるお前は俺の命令があると断ることが出来ないと。」
「き、貴様、眷属いじめは犯罪だぞ!!」
「うるせぇ。奴隷がごちゃごちゃ言うな。」
「誰が奴隷だ!!」
「お前だ。」
『どうでもいいがそろそろ儂を拭いてくれんか?血が乾いてきて気持ち悪い。』
「よし奴隷のシファ、シュラにに【洗浄】の魔法を使え。」
「ぐ、体が勝手に…【洗浄】」
魔法が発動するとシュラの刀身が新品のように綺麗になる。
「ようし、町に戻るか。」
「待遇の改善を要求する!!」
こうして俺たちの最初の依頼が終わったのだった。
眷属いじめは書いてても楽しいのでちょくちょく出したいですね。
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