199.第二王女、疑いを向けられる。(国王、調査を開始する。)
「そんな風に疑われるとは思ってもみませんでしたわ。」
「僕からするとあまりにも状況が不自然な気がしてね。」
自然とラズールお兄様と睨み合う形になる。
片方が微笑なので一方的に私が睨んでいると言っても良いのかもしれないが。
「状況記録の魔道具についてはオーヴェンお兄様の振る舞いが普段から度を超すことが有ったために常備するようになったと聞いています。また、侵攻軍については私の方で応対した結果、ほぼ全ての敵兵が戦死しています。ミリガルド帝国と結託して私の戦功を立てるのが目的であれば追い返すだけでいいはずですわ。」
「うん。まぁそうだね。例えば本当はミリガルド兵は何もせずに踵を返して帰る手はずだったところに奇襲をかければ、2万の兵を少数の兵で倒すことも出来るのではないか。とか思っちゃっただけだよ。」
「…ミリガルド帝国と結託し、かつそれさえをも裏切った。そう言いたいのですか?」
「はは、まさかね。まぁ元々ミリガルド帝国側にそんな偽装侵攻みたいなことをさせられるだけの見返りがあるとも思えないし。ティアが王戦に勝った後で見狩りを貰う事になっていたとしても5年後だし、その間この国との関係が悪化することは避けられない。それをさせるだけの見返りがあるとは僕には想像できないよ。うん。確証のないことを言うべきではなかったね。ごめんね。」
随分厄介なことをしてくれる。
ある程度筋の通った理屈でこの場に居る人間に私への疑惑の種を植え付けるつもりか。
どうやって2万の敵兵を退けたかが説明できない分論破が難しい。
「ラズールの言いたいことも分からんではないが、私はティアの今回の功績は非常に大きいものとして捉えている。まぁかの国へは抗議と共に賠償請求を行っている。どのような回答が返ってくるかは分からんが、そのあたりの経緯も明らかにせねばならんな。ラズールの言う通り、内通者がおらんとも限らん。この件は私の方でも調査をすることを約束しよう。」
この話は終わりだと王が宣言する。
王が誰かに加担して偽りの調査結果を出すとは思わないが、巧妙に偽装された情報をつかまされて誤った結論を出す可能性はある。
これは私の方でも証拠を押さえる必要がありそうだ。
「では、今回招集をかけた用件は全て伝え終えたので解散とする。王戦の参加資格を有するものは3名となったがそれぞれ鋭意努力するように。」
私たちは王に一礼し謁見を終える。
ラズールお兄さまは謁見室を出ると、さっさと自室の方へと帰って行った。
私の方へは一瞥もくれなかった。
一方のオリヴィアお姉さまは、明らかな疑いの目を私に向けてから無言で去って行った。
嫌味を言われなかっただけマシだろうか。
私は大きくため息をついて自室へと向かった。
◇◇◇◇◇
王戦の資格者が謁見室を去った。
ここに残っているのは私と宰相、そして私の王族専属騎士3名の計5名だけとなる。
「…宰相、どう思う?」
「此度の侵攻の裏についてですか?私見で良ければ。」
「構わん。申せ。」
私が許可すると宰相はコホンと咳払いをして話し始める。
「内通者の情報についてはティア王女殿下からも事前に進言がありましたな。敵軍の指揮官への尋問記録と共に。対象が一人で発言が捏造されたものと言う可能性は否定できませんが、内容は『王国側からミリガルド帝国側に面する領土の正確な内情を知り得たため新皇帝が侵攻を決断した』という内容です。」
私は宰相の言葉に頷く。
「少し前に新しい皇帝が即位しましたが、先代とは違い腹の内の読めない方です。野心家であっても驚きはしません。そこに餌をぶら下げる輩が居れば侵攻を起こさせること自体は可能かと。ラズール王子殿下の疑いも分からなくもありませんが、ご自身でも言っていたように疑似侵攻をさせるだけの見返りの提示は難しいでしょう。」
「つまり、此度の侵攻は内通者によって引き起こされた可能性が高いが、それが誰かは特定には至らない。という事か?」
「その通りです。この時期ですので、王戦に絡んだ誰かの陰謀と言う可能性が高いとは思います。ライバルであるオーヴェン王子殿下の脱落を狙ったものかもしれませんし、ミリガルド兵を確実に撃退できると踏んでいれば戦功を立てる目的ということも考えられます。」
「そうだな。帝国へは取引の線も伝えておけ。密告者の情報を出せば賠償については減額すると。真偽を確認できる魔道具がある以上、虚偽の情報は出せんだろう。」
「承知しました。」
「あと気になるのはティアの王族専属騎士の実力か。ティアの報告では召喚術を駆使して人数差を埋めたとあったか?」
「その通りです。にわかには信じられませんが…。」
それにも同意だ。
万単位の戦力を覆せるほどの召喚獣を従えているという事が本当なら、やりようによっては1人で国家と渡り合える力があるということだ。
今回の件とは別にしても、ある意味危険因子になりかねない者の実力は把握しておくべきだろう。
確かその男はハンター兼任だったな。
「リュード。お前が一番ハンターギルドに顔が利く。調べてくれるか。」
私は自身の王族専属騎士の一人に話しかける。
王族専属騎士になる前、世界でも数人しかいないSランクハンターの称号を得ていた男だ。
「承知しました。今となってはどれほど顔が通じるか分かりませんが、古い知り合いに当たってみます。」
「頼んだ。」
それだけ言うと私も玉座を離れ、自室へと歩き始めた。
王と宰相の2人がまともという事が分かった回ですね。
そして元Sランクハンターの登場。
この後どのように絡んでくるかが気になる所です。
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