198.第二王女、王戦の臨時報告を受ける。
「よく来てくれた。」
玉座に座る王から最初に出たのはねぎらいの言葉だった。
確かに今回はイレギュラーな招集だった。
王戦に関しては定期的に招集をかけて報告を行う事となっていたが、今回はその時ではない。
単に招集をかけるだけの理由があったために呼び出しを受けたという事だ。
関係者でオーヴェンお兄さまだけこの場に居ないが、2人ともそれを訝しんでいるようには見えない。
「まずは先日起こった隣国からの侵攻について報告しよう。」
王は続けてそう言った。
私は素早くこの場に居る兄姉の顔色を窺う。
オリヴィアお姉さまの顔には驚きの表情が浮かんでいる。
これは長年共に生活していた私の勘だが、偽りの表情ではなさそうだ。
つまり、オリヴィアお姉さまはこの件を今の今まで知らなかったと思う。
一方のラズールお兄さまは、表情を一切崩していなかった。
いつも通り少し微笑んでいるような表情そのままだ。
つまり、ラズールお兄様はこの件について知っていたという事になる。
単に情報が早いだけなのか、あるいは…。
「東の隣国、ミリガルド領が2万の軍勢を率いてフレンブリード領へ侵攻してきた。正直、フレンブリードの兵力だけでは対応できない物量だった。」
「…では、フレンブリード領は落ちたのですか?オーヴェンは…?」
思わずと言った感じで質問するオリヴィアお姉さま。
本来であれば王の説明中に口を挟むなど言語道断なのだが、今はフォーマルな場ではない。
王も特に気にするようなことはなかった。
「結論から言うと事前に危機を察知したティアの助力によりフレンブリード領は守られている。…いったいどうやったかは正直私も気になる所だがな。何せ支離滅裂な報告しか上がってこんのでな。」
そう言って王はこちらへと視線を向ける。
私は笑顔を作ってそれに応える。
「方法は企業秘密ですわ。私の切り札でもありますし、手の内を晒すつもりはありません。」
王はその答えに苦笑する。
「だそうだ。だが、私が王都から派遣した兵がフレンブリードへ到達する前に事態を終息させたのは事実だ。」
「そうですか。ティアが…。」
オリヴィアお姉さまがこちらを見てくる。
悪感情がない顔だ。
彼女は言動がぶっ飛んでいるところはあるが、表裏はない。
単純に自国の危機に対処した私によくやったという想いを持っていそうだ。
「オーヴェンは無事なのですか?」
一方のラズールお兄様の表情は崩れない。
表面上は弟の安否を気遣っているように見える。
「うむ。次の報告だが、そのオーヴェンについてだ。まず、無事だ。怪我の一つもしていない。…そしてもう一つ。あ奴はこの王戦から除外する。」
これは予想通り。
これにはラズールお兄さまもオリヴィアお姉さまも驚いているようだ。
「どういうことですか?」
オリヴィアお姉さまの声から動揺が伝わってくる。
ラズールお兄様は表情こそ驚いているが言葉を発さないのでそれ以上の情報を読み取れない。
「オーヴェンは色々問題を起こしていてな。まず、ミリガルド帝国からの侵攻が起こった際に一人で逃げ出したのだ。領民を逃がすどころか事態を告げることもなくな。さらに、逃亡の際に領民を逃がすために死地に赴こうとした配下の人間を殺害しようとした。」
「なっ!?」
オリヴィアお姉さまが顔を青ざめさせている。
「…誤報の可能性はあるのではないですか?もしくは誰かの陰謀であるとか?オーヴェンは自尊心の高い男でしたが、そのような非道な行為に及ぶとは思えないのですが。」
ラズールお兄様が真偽を確認する。
この問いに対し王は首を横に振った。
「殺害されそうになった男は重傷を負ったが生きておってな。その男の証言と、その際の状況を記録した音声記録魔道具の提出により真実であると断定した。」
「…状況記録まであるのでしたか。」
「また、此度の侵攻は事前に近隣領主から兆候を指摘されていてな。それをあ奴は誤情報と断定し必要な処置を執ることをしなかった。…結果論かもしれんが、その情報が真実で現に侵攻が行われ、領民に被害が出そうになったことは管理者としては失格と言わざるを得ん。」
王の口調は強い。
この場に異を唱える者はいない。
「他にも領民に不必要な重税を課す等の経営者の資質を疑うような報告もあがってきておるが、まぁこの辺りが理由だな。」
王はここで一泊置いてスッと息を吸う。
「此度の王戦、オーヴェンは脱落とする。かの者は資格を剥奪した後、自身の罪に向き合ってもらう。異論はないな?」
「「……。」」
「…よろしいでしょうか。」
オリヴィアお姉さまと私が口をつぐむ中、発言したのはラズールお兄様だった。
「オーヴェンの処置については異論有りません。ただ、先の報告の中で一点だけ、やはり気になることがあります。」
「申せ。」
「はい。オーヴェンの凶行があった際に音声記録の魔道具があったという事があまりにも手際が良すぎる気がします。まるで事前にそういう状況が起こることを予見していたかのようです。また、2万もの侵攻軍を退けたというのが…どう考えても不可能に思えます。」
私は顔が強張っているのを感じる。
ラズールお兄様が何を言いたいかがうっすら見えてきたからだ。
「ティア。まさかとは思うけど、オーヴェンをこの王戦から脱落させるためにミリガルド帝国と結託なんていしていないよね?」
ラズールお兄さまはいつの間にか普段通りに戻っている微笑と共にそんなことを口にしてきた。
徐々にラズールさんの狂気が現れて来てますね。
自分の悪行をさも他人がやったかのように擦り付けようとするのもテンプレ展開ですね。
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