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196.踏破者、メキア鉱山を進む③

通路から【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】たちの居る空間を確認する。

全容は見えないが、祭壇だろうか?明らかな人工の構造物が見える。


ただの鉱山にこんな設備がある物なのだろうか?

頭に疑問が浮かびかけるが、頭を振って一旦忘れる。


まずは【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】の討伐だ。


これまで戦ってきた【火竜(ファイアドラゴン)】の倍の体躯はあろうかと言う巨竜が祭壇の上で寝ている。

間違いなく奴がボスだ。


その祭壇の周りに【火竜(ファイアドラゴン)】たちが居る。

こちらは起きていたり寝ていたり様々だ。


「これはラッキーだな。特に操水術を使用しなくても問題なさそうだ。シファ、やってくれ。」


シファは俺の言葉に頷くと、その場にしゃがみ込む。

そして両の掌を地面に向ける。


「行くわよ。放水。」


シファが言うと同時にその掌の先からどこからともなく水が現れて流れていく。

先の作戦会議で話にあがった異空間収納に入れている水だ。


だがもちろん、この先の【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】たちが居る空間を水没させるのが目的ではない。

目的(ターゲット)は【火竜(ファイアドラゴン)】のみ。

この先の空間の地面が浸る位の水量で事足りる。


シファの放った水が徐々に【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】の居る空間へと流れ込んでいく。

そして、【火竜(ファイアドラゴン)】に達する。


起きている【火竜(ファイアドラゴン)】は最初こそ訝し気にしていたが大した脅威ではないと捉えたか特に何か動きを起こそうとはしていない。

寝ている個体については特に気付いた様子はない。


「行きわたったわね。」


シファが放水を止め、こちらを見てくる。

俺は頷く。


「じゃあ手筈通りに。」


「わかったわ。【雷轟(サンダー・ストラック)】」


シファは特に気もなく高威力の雷魔法を発動させる。

これは以前パズズが俺に対して行使してきた魔法だ。

局所に極大の落雷を放つその魔法が【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】の居る空間の入り口に行使される。


無人の入口に放たれた落雷は、地に落ちるやそこにある水を伝い部屋全体へと行きわたる。

祭壇の上で寝ている【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】を除く【火竜(ファイアドラゴン)】たちはみな先ほど放った水に触れている。


「「グルゥアアアアァァァァァアアアア!!??」」


落雷の轟音と【火竜(ファイアドラゴン)】たちの断末魔が部屋中に響き渡る。


「やったか?」


俺は通路から部屋を覗き込む。

見える範囲では【火竜(ファイアドラゴン)】たちは皆黒焦げになって地に伏している。


作戦通り。

あとはシファが放水した水を回収すれば俺と【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】の1対1の完成だ。


「うっ!?」


水の回収をシファに指示しようとしたタイミングで異変に気付く。


俺の居る位置まで届いた異変。

それは吐き気を催すような肉を焼いた匂いだった。


竜種(ドラゴン)】と言うのは総じて他の魔物より耐性が高い。

普通の雷攻撃では即死させられない可能性があったので、シファにはできるだけ高威力の魔法をと要求していたのだが、それが裏目に出たようだ。


確かに【雷轟(サンダー・ストラック)】は【火竜(ファイアドラゴン)】を即死させることには成功した。

ただ、感電死させるだけでなく黒焦げになるほどのダメージを与えてしまった事が予想外の事態を引き起こしたのだ。


「うっ!?げほっ!?」


わずかに遅れてシファにもその匂いが届いたようだ。

目に涙を浮かべて口を押えている。

その目でこちらに何かを訴えている。


勿論分かっている。


「撤退するぞ。」


…流石に俺もこんなにおいが充満している部屋で戦いたくなんてない。

できるだけ呼吸をしないよう俺たちはその場を後にした。


背後からは【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】のものと思われる咆哮が聞こえていた。





◇◇◇◇◇




結局鉱山入口まで戻る羽目になった。

憤怒竜(ラース・ドラゴン)】が追ってくる可能性もあったが、どの道空気の入れ替えを行わなければあの最奥の空間に足を踏み入れることはできない。

今はシファが風魔法を使って外の新鮮な空気を坑道内に流し込んでいる。


「さすがに疲れてきたわよ。」


半刻程送風を続けているシファが恨めしそうに言う。

確かに今回の作成を立案したのは俺なので文句は言えない。


「よし、一旦中に入ってみよう。」


そして俺たちは鉱山内へ再侵入を始めた。




道中の魔物は全て倒してきているので最奥の空間まで接敵なくまっすぐ進む。


匂いはまだ残ってはいるが何とか我慢して戦闘できるくらいだろうか。

俺は【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】との戦闘をイメージし気を高ぶらせる。

シュラにてをかけ、何時でも抜刀できる体勢で神経をとがらせていく。


そのまま最奥の空間へと達する。

仲間の【火竜(ファイアドラゴン)】がやられたことに激昂して俺達を追ってくるかとも考えていたが、どうやら【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】はここから離れなかったようだ。


俺はいよいよ来たその歓喜の時間に身を躍らせる。

通路から飛び出し最奥の空間へ。


今も祭壇の上に鎮座する巨竜は俺の姿を見るや凄まじい猛攻を開始……してくることはなかった。


思わず俺も硬直する。


憤怒竜(ラース・ドラゴン)】は泡を吹いて倒れていた。




…え?



「途中で言おうか悩んだんだけど…生体反応はないわよ。」


シファが最奥の空間へと入って来ながら話す。

彼女の【探索(サーチ)】は生体反応を見ることが出来ると言っていた。

そのスキル上、この【憤怒竜(ラース・ドラゴン)】は死んでいるという訳だ。


「雰囲気から察するに…窒息死かしら?空気量が十分じゃない所でものを燃やすと有毒ガスが出るという話も聞いたこともあるけど、どっちかしら。」


俺は両ひざをついてその場に崩れ落ちた。

はい、見事憤怒竜討伐です。

密室空間では皆さんも気を付けましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] このドラゴンは死後の方が怒ってそうだが・・・
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