19.踏破者、なすり付けられる。
じっと森の奥を注視する。
見つめる森の先で鳥がまとめて飛び立つ。
何かが居るのは間違いないな。
「おそらく人が1人。こちらに向かって走ってきてるな。間もなく見える。」
【探索】で確認したんだろう。
「人?魔物じゃないのか?」
「人だな。む、待て、その人の後方から魔物だ。それも複数匹。オーガ5匹だな。」
「森の奥まで行っていたハンターが敗走してるって感じか?」
「かもしれんな。」
少しそのまま待つと先頭を走るハンターが視認出来るようになる。
動きやすそうな革鎧に禿頭のハンター。
「…テゲスじゃん。」
それは朝絡んできたハンターだった。
向こうもこちらを視認したようだ。
「やっと見つけた!!…ってありゃ朝の奴ら!?」
テゲスは顔に嫌悪を現しながらも真っすぐこっちへとやってくる。
そのまま会話できる距離にまで来る。
「すまん!!協力してくれ。オーガに囲まれてしまった。」
「単独行動を好むオーガが5匹か…。稀にいる群れを形成する個体に当たってしまったという事か。」
慌てるようでもない冷静な俺に違和感を持ったのか、テゲスは若干の困惑の表情を浮かべる。
だがしかし、その表情もすぐ悲壮なものに書き換えられる。
「ああ、予想外だった。このまま森から逃げ出すとオーガも森から出てくる可能性がある。ここで止めなければ…。」
「お前の事は好きになれんが町に被害が出るようなことをする気はない。ここでオーガを倒せばいいんだな。」
俺はシュラを構え再度森の奥を注視する。
「…もしくは、奴らの狩りが終わればねぐらに帰るだろう。な!!」
後方に回ったテゲスが俺たちから距離を取って何かの球を地面に投げつける。
その球が地面に当たり割れると、そこを中心として地面が泥沼化していく。
それはすぐに俺とシファが経つ場所にまで達する。
テゲスは球を投げた後全速力でその場所から離れており、泥沼化の範囲から逃れていた。
「…これは。何のつもりだ?」
「多少力が強かろうと新人ごときが2人増えてオーガに勝てるわけないだろうが!!」
「俺たちをオーガに献上して自分は助かろうという事か?」
「全滅するくらいなら誰かが助かる道を探すべきだ。そして高ランクハンターである俺が生き延びるのがこの世の為だ!!あばよ!!」
そう言うとテゲスは一目散にこの場を離れていく。
…予想以上の屑っぷりだな。
例え俺たちがここでやられたとしてもこの悪行は明るみになるというのに…。
それすらも気づかないようでは、試験のあるBランクにはなれん程度ということだろうな。
俺はテゲスから森の奥に意識を向ける。
オーガはすぐにやってきた。
「多少イラついてるからすぐに終わらせるぞ。闇魔法【採魂】」
俺が魔法を発動させるとオーガ一体一体から青白い湯気のようなものが立ち込め、それらが全て俺に吸い込まれるように流れ込んでくる。
オーガはその湯気が出ると苦しそうに表情を歪め、力が入らなくなったように膝をつき始める。
そして湯気を全て出し切ると共に絶命し、その場に倒れていく。
魔法発動から物の数秒でオーガ5体は物言わぬ屍となった。
「その魔法、本来は相手に触れて使うものではなかったか…?」
隣を見るとシファは宙に浮いていた。
泥沼に足を取られた状態がよっぽど嫌だったのだろう。
というか羽をしまったままでも飛べるんだな。
「これは【天翔】という魔法だ。そして私の羽には飛翔能力はない。」
「なんのための羽!?…っていうかそれ魔法なら俺にも使ってくれよ。」
「む。」
俺はシファの使用した【天翔】で泥沼を脱出し、足の泥を落とす。
「…居なくなったな。」
「ああ、町の方向へ離れていくな。」
不意に俺たちを視ていた視線が無くなった。
シファは【探索】で確認していたようだった。
視線はギルドを出た後からずっと付いてきていたから、おそらくギルド関係者だ。
こっちに接触する気もなく、常に一定距離を置いていたから監視目的だろう。
…当然、先程のテゲスの言動も見られている。
奴も終わりだな。
「せっかく倒したんだし、オーガの討伐証明も取っておくか。確か角だったよな?」
俺はシュラを抜き放ち、オーガの頭部にある角へ向かい振り下ろす。
『魔物討伐証明部位を取らねばならぬのは理解するが、いちいち儂を使うのは何とかならんかの…』
「確かにわざわざ刀を振り回すのは非効率だな。町に戻ったら剝ぎ取り用の短刀を買うか。」
『金は無いんじゃなかったかのぅ…。』
「ぐっ…。このオーガの角がいくらで売れるか次第だな。」
そんな話をしているタイミングだった。
「主殿。私の【探索】範囲ギリギリに反応があった。トカゲだ。」
俺はそれを聞いて口角が吊り上がるのを感じた。
まぁトカゲ退治は外せませんよね。
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