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188/218

188.第二王女、フレンブリード領の今後について話す。

フレンブリード領へ来るのはシルバたちに襲撃されて以来だ。

あまりいい思い出もないので出来れば来たくなかったくらいだ。

だが、一度手を出すと決めてしまったからには中途半端な対応はできない。


スレイプニールの馬車から降りるとそこは領主邸の前だった。

面識のない男性が玄関前で礼をしている。

おそらくこの人が報告にあったマクヴェル男爵だろう。


「お初にお目にかかります。マクヴェルと申します。」


やはり合っていたようだ。


「ティアです。他の皆は?」


「会議室におられます。どうぞこちらへ。」


言いながら扉を開く。

私に続いて馬車から降りてきたジーク殿、シファお姉さまと一緒に領主邸に入る。


ジーク殿は16になるまでこの邸宅で過ごしていたはずだ。

横目で彼の様子を窺ってみるが、特に変化は感じられない。

話に聞く限りではその後冥級ダンジョン内で数百年に及ぶ生活を強いられていたという事だからもう自宅と言う感覚はないのかもしれない。

流石にそれは体験できないので想像するしかないのだが。


少し歩き会議室に着く。

中に入ると席についていたメンバーが皆立ち上がりこちらへと礼をする。


フレンブリード領前領主、マクヴェル男爵。

隣領、オスガルド領領主、オスガルド伯爵。

隣領、アナトリア領領主、アナトリア伯爵。

隣領、バスカード領領主代理、ロイター男爵。

フレンブリード領都、バルモントのハンターギルドのマスター、ヴィネア殿。

スリアドのハンターギルドのマスター、アセット殿。

国防軍フレンブリード支部の指揮官、ルード准将。


順に挨拶をされる。

この辺りの地の有力者でここに居ないのはフレンブリード領領主位だろう。

まぁ彼も間もなくその地位を剝奪されるが…。


「シュタイン領領主、ティア・フォン・メリルローズです。此度はミリガルド帝国の侵攻に対する防衛戦に介入させていただきました関係で、今後のこの領地の運営に関する『勅命』を伝える役目を仰せつかりました。…一度席にお着き下さい。」


皆が着席する。

私も空いている席へ行き座る。

皆が着席したのを確認して懐から書状を取り出す。


「ではお伝えします。フレンブリード領領主、オーヴェン・ゲルト・メリルローズはその任を解く。後任としてマクヴェル男爵を領主代行に任命する。以上です。」


ミリガルド帝国が侵攻を開始した際、オーヴェンお兄様とマクヴェル男爵の間で起こったやり取りの一部始終はジーク殿の配下の十二神将の一人が全て録音の魔道具で記録していた。

それをマクヴェル男爵が記録していたという体で王へは提出してある。

悪政の施行、自己保身のための領民の切り捨て、あまつさえ私怨による部下への私刑。

彼へは領主剥奪だけではなく何かしらの制裁も加えられるだろう。


この命に驚きを隠せない男がいる。

再び領主代行に任命されたマクヴェル男爵だ。


「せ、僭越ながら申し上げます。フレンブリード領の政情がここまで悪化してしまった一因は私にもあります!!オーヴェン殿下を擁護するつもりはありませんが、私も同罪にあります!!」


「ああ、それは俺が進言したんだ。」


そう言って返事を返すのはジーク殿。


「あんたはミリガルド帝国の侵攻が始まった際、領民の安全を第一に行動した。自身の命を顧みずに戦線に立ったのも尊い行為だ。褒められはせんがな。…領地再興にあたりそういう思想の領主が必要と判断したまでだ。今後は権力に屈することのないようにな。」


「ですが…私の罪は…。」


「ではこの領主代行の任命は贖罪の機会と捉えて下さい。もちろん放置はしません。私や隣領の領主でフォローはしていきます。宜しいですね?」


私が隣領の領主を順に見回す。

皆頷いてくれている。


「…承知しました。全霊で当たることをお約束します。」


「宜しい。では次に今後のこの領地の運営についてこのメンバーで話し合っていきましょう。まずは今回の件の最大の問題である防衛能力についてですわね。現在の状況を簡単に説明いただけますか?」


私はそう言ってルード准将に視線を送る。

ルード准将はその視線を受け頷く。


「承知しました。では現状報告を。フレンブリード領の国防軍は全てこの領都バルモントに所属しておりますが、その数1000余名。先の侵攻で国境警備に当たっていた72名が亡くなっています。」


やはり異様に少ない数だ。

この現状は隣領の領主たちも把握しているだろうが如何ともしがたい問題でもある。


「やはり少ないですね。それに加えて有事の際に戦線に立ったのが100名程でしたか。」


「お恥ずかしい限りです。」


そういうルード准将はマクヴェル男爵と共に戦線に立った側だ。

本当に国防軍の現状を何とかしたいと一番思っているのは彼だろう。


「私からの提案なのですが、国防軍が軌道に乗るまではジークに監督をさせようと思うのですがいかがでしょう。」


「ジーク殿を!?しかし、ティア王女殿下の王族専属騎士(ロイヤルナイト)なのでは!?…もしそれが実現するのであれば当面の防衛の目途も立つのでありがたい申し出なのですが。」


「もちろん四六時中顔を出せるわけではありません。しかし彼には有能な部下が多数おります。…ルード准将はご存じかと思いますが…。常駐するのは彼らになるかと思います。」


その言葉を聞いてルード准将の顔色が変わる。

おそらくミリガルド兵が蹂躙された戦闘を思い出したのだろう。

彼らは人外なのだ。

ジーク殿が手綱を握っていれば滅多なことはないと思うが、限度を知らない可能性は高い。


だが、ジーク殿はそんなルード准将の機微を「自身の使命である国防の任を他人に任せる」ことに対する葛藤だと捉えたようだ。


「言っておくがこの街を護るのはあくまで国防軍だ。俺やその配下の者は国防軍がその力を得るまでの手助けをするに過ぎない。まずは敵を前にして逃げ出すような根性無しの性根を鍛える所からだな。」


そう言ってジーク殿は嗜虐的に笑う。

背筋が凍るような悪寒が走る。

見ればルード准将も顔が真っ青になっている。


これはもう完全にただの追い打ちだ。

常識が通用しない相手から鍛えてやると言われるのは不安しかない。


「あ…えっ…っと…。」


無意識に逃げる口実を探しているのだろう。

だが、現実的な別案を提示しない限り国防軍にジーク殿から逃れる術はない。


ご愁傷様。


私は心の中で手を合わせた。

この後フレンブリード領兵が狂信者化していきます。

ミリガルド帝国との関係も悪化していますし今後の活躍に期待ですね。

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