182.踏破者、ハンターギルドに依頼する。
「全くひどい目にあった。」
「自業自得でしょ。」
「身に覚えのある事なんですから自覚してください。」
「はい。愚痴言ってすみませんでした。」
ギルドマスター室に入るなりぼそりと呟いた俺の言葉を二人に拾われる。
シファもライラさんも表情が笑顔なのが怖い。
瞬間的に再度謝罪をする羽目になった俺をエリオが呆れた目で見ている。
何かムカつくが今は我慢だ。
「学習しねぇなお前は。」
その上から目線に腹が立つ!!
エリオをキッとにらみつけるが視線を外されてしまう。
この視線の攻撃力の低さにも腹が立ってきた。
「それで、今日はどういった用件でギルドへ来られたんですか?わざわざ個室に移動までしているという事はそれなりの内容とお見受けしますが…。」
俺がエリオを睨んでいて話を切り出さないのでライラさんが話を振ってくれた。
どうやらこれ以前の話は切り離してもらえるようだ。
助かった。
だいたい、何で怒られてるか疑問だしな。
俺も頭を切り替えて話し始める。
「実はギルドに依頼したいことが有って来た。」
「あん?じゃあ俺要らねぇじゃねえか。」
「いや、エリオにも関係することだ。フレンブリード領についてなんだが、ギルドの方では何か不穏な噂みたいなのを聞いたりしていないか?」
フレンブリード領という言葉を聞いてライラの顔が少し険しくなる。
心当たりはあるようだ。
「私が元居たオスガルド領コウナードからの情報ですので確実性は良く分かりませんが、何でも他国の侵略を受ける可能性があるとか…。」
なるほど、オスガルド伯爵はハンターギルドを通しての周知も行っているのか。
本当に打てる手は全て打っているという感じだな。
「他国ってミリガルド帝国か?確かに元々は侵略国家ってことだがもう何十年もそう言った動きはないって話じゃなかったか?」
どうやらエリオは初耳らしい。
ライラも不確定情報という事で話はしていなかったようだ。
「まさにその話だ。俺の方にもその情報は来ていてな。配下の奴をミリガルド帝国の西都に潜ませてるんだ。…で、今朝そいつから連絡があった。どうも近日中に動き出すらしい。」
「…戦争が始まるんですね?」
「おいおい、オスガルド領のギルドがその情報掴んでるくらいならフレンブリード領の領主やギルドだってもちろん知ってるんだろ?それなら必要な戦力整えることもできる。そう簡単に攻めてくるなんて決断できないんじゃないのか?」
エリオの疑問は最もだ。
「今のフレンブリード領主って覚えてる?」
「…確か第二王子じゃなかったか?そうだ。王族が治めてんだろ?王都からだって戦力引っ張り放題じゃないのか?」
「それが、無能なのよ。」
「え?」
「何でも王戦の選考基準に税収という項目があるってことで、領主に着くなり税金を一律3倍に上げたらしいわ。」
ライラがおれの方を見る。
情報のすり合わせかな?
おれは肯定の意味を含めて頷く。
「3倍って…。」
「呆れるしかないでしょう?他にも細かい話はあるんだけど、要はその悪政に耐えかねた住民や兵士が移住をしていってるのよ。兵士の数なんて以前の1/5くらいになっているらしいわ。」
俺はそれも首肯する。
エリオはついに黙ってしまった。
どうやらミリガルド帝国の侵攻が現実的にありうるものだと認識し、それからの事を考えているようだ。
「ライラさん。この件について王都の方で動きがあったりとかは聞いていないか?」
「…これも不確定情報なのだけど、近衛騎士団を含めた2万の兵士が王都を発ったという情報があるわ。ただ、出立は数日前だから数日中に侵攻があるとするととても間に合わないわね。」
これは新情報だ。
そうガルド領主の情報を受けて王が派兵を決定したか。
あるいは第二王子が要請した可能性もあるが、現状ではどっちかは分らんな。
しかし…数日前ならミリガルド帝国の侵攻開始には間に合わなくともフレンブリード領全域が完全に落としきられる前には着くかもしれないくらいのギリギリのタイミングだな。
…なぜか作為的なものを感じずにはいられない。
それはライラさんも同じだったようだ。
「現王は非常に頭が切れる人です。普段は穏やかですが法には厳しい所もあり、親族と言えど一線を越えれば厳罰の対象にもなるでしょう。…おそらくですが、第二王子の管理者としての能力・動きを見ていて、もうこれ以上は待てないというタイミングで派兵を決定したものと思います。」
「その根拠は?」
「2万の兵を派兵するとなると、人員・物資を集めるだけでも時間が掛かります。その兵を派遣している間の王都の守りや治安にも配慮しなければなりませんし。どうにもこの派兵が以前から計画してた内容に見えるんです。」
「なるほど。だがそのやり方では多数の死人が出るな。」
「ええ、侵攻を受けるという構図になりますから…。ジークさんのお願いと言うのはそのあたりにあるんですか?」
流石に鋭い。
「ああ、フレンブリードのハンターギルドに情報を流して、信じる者だけでも逃げ出す準備をさせてほしい。スリアドのマスターなら俺の名前を出せば信じるだろう。」
「…侵攻が確かであるなら異はありません。やりましょう。しかしどれだけの人が信じてくれるか…。多くの血が流れることになりそうですね…。」
「いや、俺も動くから一般市民の血はほとんど流れないぞ?」
「え?」
これにはライラさんも意味が分からないという顔をしている。
「第二王子の動向次第だが、第二王子が臆病であるほど王国側の被害は減るだろう。場合によっては被害なく行けるかもな。」
「え?…ええ??」
混乱するライラさん。
「避難してくれる人が多ければそれだけ護衛対象も減るから助かるんだ。じゃあよろしく頼む。」
そう言って俺はギルドマスター室を出て行った。
何か事件がある度振り回されるハンターギルドの方々が不憫ですね。
特に戦地になっているアセットさん(フレンブリード領スリアドのギルドマスター)なんかは倒れないか心配です。
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