18.踏破者、疑問を持つ。
「あっちに2匹ウルフが居るな。距離100mくらいかな。」
俺はシファが指さす方向へ戦闘態勢を整えたまま進む。
居た。シファの言う通りウルフが2匹。
相手に察知されるギリギリまで近づき、そこからは瞬歩で一気に接近する。
「ふっ!!」
ウルフに反応させる間もなくシュラを振り下ろし、1匹の首を一刀両断にする。
すぐさまもう一匹が飛びかかってくるが、正面から一文字切りで薙いで絶命させた。
最初は魔物が複数いるときは遠距離からの魔法攻撃で数を減らすことを徹底していたが、相手が複数匹いても別に接近戦のみで十分だという事が分かってからは物理攻撃一本で討伐を続けている。
「これでノルマの40匹か。しかし探知魔法ってのはかなり便利だな。」
「私の【探索】は人族の使用する【探知】より性能が良いからな。生き物だけでなく地形条件なんかの情報も得られる。見直してもいいぞ?」
「いや、どっちかと言えば最初から使えよって感じなんだが。」
俺が15匹くらい対象を討伐したくらいのタイミングでシファから疑問を投げかけられたのだ。
どうやって魔物を探しているのだ?と。
適当だと言ったら呆れられた。
何か気配みたいなものを見て歩き回っているのだと思っていたようだ。
「仕方ないだろう。【アビス】の深層はそれこそ探知魔法でも使わない限りは広すぎてなかなか次回層への階段が見つからないようになっていたのだ。逆になぜそのスキルを持ってないのだ?」
「持ってないもんは持ってないんだよ。【アビス】の深層は地道なマッピングの成果だな。」
「…呆れるしかないな。1階層クリアするのに数年かかるぞ…」
実際それくらいはかかってるんだよな…。
だいたい、俺のスキルは10階層毎のクリアボーナスでしか手に入らないのに…。
そのボーナス考えたのはお前じゃないのかよ…。
あ。
「なぁ、アビスの40階層ボス討伐報酬って覚えてる?」
『ぎく』
「設定したのは体感数百年前だぞ。覚えてないが…何か心当たりでもあるのか?」
「40階層のボス、コイツなんだよ。」
そう言って俺はシュラを示す。
「シュラは倒した後俺の舎弟になりたいって言い出したから子分にしてやったんだ。」
『そんなやり取りだったかのぅ…。』
「で、そのせいか40階層のボスは討伐してない判定になったみたいで、その階の討伐報酬貰ってないんだよ。」
「…なるほど。そこのボーナスが探知系だった可能性はあるな。」
「今からでもコイツ殺ったらボーナスって手に入るのかな…?」
「やってみる価値はあるかもな。」
『ちょっと待て待て!!お主便利な魔法のためなら仕方ないよねみたいな目でこっちを見るでない!!』
そういえば、ダンジョン報酬についてはもう1個あったな。
「なぁ、俺【アビス】攻略報酬って貰ってないんだけど… 」
「……。」
途端にシファの顔が青ざめ、目が泳ぎ始める。
「それも100階層ボス。ダンジョンマスターを討伐してない判定になったからなのか?なぁおい。」
「わ、わからんな。」
シファの顔には冷や汗が流れ、声も震えている。
「こっちも今からでも討伐したら報酬って貰えるのかな?」
「ダンジョンも崩壊してるし、報酬は手に入らないだろうな!!」
「お前さっきと言ってること真逆じゃねぇかよ。」
『うむ、儂もドン引きじゃ。』
しかし探知魔法は本当に便利だな。
魔物を効率良く倒すなら必須と言っていい。
今も感じるベッタリと張り付くような視線なんかはわかるんだがな…。
とりあえずはシファが居るから俺が習得していなくても大丈夫だろう。
「よし、もうちょっと狩って帰るか。」
そう言って次の魔物の位置を確認するようシファに言おうとしたタイミングだった。
「待て主殿。なにかこっちに来るぞ?」
そう言ってシファが森の奥を指さす。
森の奥から何かが来る?
まだ俺の感覚には何も訴えるものは来ないが…。
俺はシュラに手をかけ、森の奥に神経を尖らせた。