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179/218

179.氷の魔将軍、義手と格闘する。

「馴染んできたかの?」


「…いや、全くだな。」


実際、全く馴染んでいないのだ。

俺は左手を握り、そして開くという動作をひたすら行っていた。


「俺からするとびっくりするくらいの速度で操作をマスターしてきているように見えるんだがな。」


そう言って義肢屋の男は首をかしげる。


俺が失った左手の代わりを求めてこの男の所に来たのが数週間前。

そこで魔力を流し操作することが出来る義肢を得て今に至る。


だが、思う様には行っていない。

義肢は想像していたより操作が難しい。

腕を振る・手を握る・開く等の動作自体は出来るが、とにかく力加減が難しい。


俺は店の軒先にある木製の棒に左手を伸ばす。

そしてそれを掴むように魔力を操作する。

俺の狙い通り棒を掴んだ俺の左手は、そのまま棒を握りつぶしてしまった。


「いや、何してんだお前は?損害賠償もんだぞ?」


義肢屋の男が眉根を寄せる。


俺はそれを無視してもう一度同じ棒を掴もうとする。

今度は少しだけ魔力量を減らして…

棒を握った俺の左手は、今度は棒を握りつぶすことはなかった。

しかし、それを持ち上げると棒は左手からするりと抜け落ち、地面を転がる。


「いや、この義肢の力加減難しすぎるだろ。」


俺はため息をつく。


「いや、魔道義肢ってのは日常レベルの動作が可能になるまで3年はかかるって言っただろうが。普通はその手を握る・開くの操作をするのにも数カ月、下手すりゃ1年くらいかかるもんなんだぞ?」


「だが、これでは実践復帰に支障が出る。」


「んなこと言われてもなぁ…。ってかお前さん魔術師じゃないのか?」


「魔術師だからと言って武術を疎かにしていいという訳ではない。実際、生死を分ける一瞬は魔術より武術を学んでいるかでどっちに転ぶか決まるようなもんだ。」


俺は言いながら小娘との一戦を思い出す。

氷獄領域(コキュートス)】を直撃させ、氷刃で奴の腹部を貫いた直後。

森の中から不意打ちで放たれた【風の矢(ウィンド・アロー)】とその際の小娘の短剣による攻撃から即死を免れたのは間違いなく武術を修めていたことによるものだ。


グシャと鈍い音がしてハッとなる。

どうやらあの一戦を思い出すことで力が入ってしまったようだ。

左手が握りこんだ棒もろとも(・・・・・)潰れてしまっていた。


(のぼり)が立てられねえだろうが。うちの備品を壊すなよ。」


「その代わりまた義肢が売れただろうが。新しいのくれ。」


「全く…。」


義肢屋の男はため息をつきながら店の奥へと入って行く。


義肢の問題点はここなのだ。

細かい力加減は日常生活を送るのに必要なのだが、戦闘に置いてそこまで細かい力加減が必要かと言われるとそうでもない。

極端な話、鉄製の剣を握って話すことが無ければ使えないこともない。

だが、困るのは魔力を込め過ぎる(・・・・・・・・)と自壊してしまう(・・・・・・・・)ことだ。

戦闘中に壊れようもんならそれは致命傷になりかねない。


しかし現状他に手段があるわけでもない。

地道に慣れさせていき、無意識でしっかりコントロールできるようにならねばならんな。


「おう、()の。こんなとこで会うとは奇遇だね。」


不意に声をかけられてそちらを向くと、漆黒の長髪をなびかせた美女が立っていた。


「ここは裏通りの袋小路だぞ?どこに奇遇な要素がある?」


「仕方ないだろ?こんなキナ臭い案件に引っ張り出されたんじゃ割りを食いかねないからね。で、どんな相手なのさ?」


「…もう1人は誰だ?俺からは2人以上と進言したが?」


黒髪の美女が首を振る。


「四将を2人も派遣するような内容じゃないと判断したんだろ。()()も多忙だってのもあるかのしれないが…。」


「それで【幽鬼のブランディア】様が派遣されてきたって事か…。」


「あるいはアタシとあんたで2人って事かもしれないけどね。」


そう言ってブランディアは笑う。


「笑えんな。」


対する俺は首を振る。


ケラケラと笑っていたブランディアはピタリとその笑いを止め、真剣な表情となる。


「ゴルドも殺されたんだって?」


「ああ、このキテン要塞内でな。支離滅裂な状況説明を行った後、魔族軍の全戦力を投入して再度人族領への侵攻を訴えている最中だった。」


「要塞内にまで暗殺者が来ていたと?」


「要塞内っていうか、部屋の中に居た。」


「!?」


「誰も気付いてなかったよ。ゴルドの頭に矢が撃ち込まれた段階で初めて全員がその存在に気付いた。少しスリムな【(オーガ)】の雌って言うのが見た感じのイメージだったが、…何というか存在感が異質だった。そいつは『主との契約を破ったものには死を』と言って消えたよ。」


「…。」


「部屋にどうやって入ったのか、どうやって出て行ったのか。要塞内から出て行ったのかもわからない。」


「先に拠点に挨拶はしてきたんだけど、どこか皆ピリピリしていたのはそのせいかい。」


まぁどこかに暗殺者が潜んでいるかもしれないって状況じゃそうなるわな。

一応戒厳令は敷いているが、人の口に戸は立てられないからな。


「…その主って奴と、その配下がどのくらいの強さで、どれくらいの人数が居るかがポイントになりそうだね。」


「ゴルドの証言によれば、『こちらの倍以上の人数が押し寄せてきた。』『相手1人の腕の一振りでこちらの数人が消し飛んだ。』だそうだ。」


「消し飛んだってどういう意味だ?人数にしたって3000も率いて出兵したって聞いたぞ?」


「残念ながら合ってるよ。」


「…単純計算で3万位の兵が必要そうだね。」


そういってブランディアは踵を返して帰っていく。


「用意できるのか?お前の力で。」


俺はその背に声をかける。

彼女は無言で手を振るだけだった。

3万じゃ足りないんですよねぇ。

もう魔族軍の未来は見えていますが、展開にご期待ください。

200話が見えてきましたね。まだまだ頑張ります。

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