178.踏破者、修練の目途をつける。
聞けば頞儞羅は時魔法と空間魔法を得意としているらしい。
俺と立ち合った時は時は時魔法で自身の時の流れを加速させたりこちらの時の流れを遅くさせようとしたりしていた。
空間魔法は使っていなかったように思うが、彼女曰く空間魔法で戦闘に使えるものはわずかしかないという事だった。
「使えるのは【近距離転移】位ですよ。燃費も悪いので一発勝負の奇襲か緊急回避位にしか使えないんです。」
「そんなもんか。そういやシファも空間魔法を使うが戦闘には使用してなかったな。」
俺はシファの異空間収納を思い出して尋ねてみる。
シファは頷く。
「私は空間魔法得意ってわけじゃないの。あれ難しいのよ。私が使えるのは収納だけで転移も使えないわ。」
「なるほど。…で、頞儞羅はその時魔法と空間魔法の合体魔法が使えると?」
「はい。現世とは時間の流れが違う異空間を生成できます。具体的には、大きさは直径100m位の半球形、時間の流れは現世の1/100位でしょうか。」
「…【アビス】みたいなもんか?」
俺はかつて攻略したダンジョンを思い出す。
「【アビス】はシファが作ったって言ってたな。そういやもう作れないって言ってたか?」
「ええ、あれは私が神からくすねてきた宝玉の力を使って構成したものなの。宝玉の力全部使っちゃったからもう作れないわ。というか、それ位異空間を生成するのって難しいのよ。」
シファの答えに頞儞羅も頷く。
「シファ殿の言う通り、異空間の構成は非常に難しいです。魔法発動を補助できる宝具が無ければ…1日1時間くらいが限界でしょうか。」
「なるほど…。それは毎日使って問題ないものなのか?」
「はい。魔力さえ回復すれば毎日行使すること自体は問題ないかと。」
十分じゃないか?
一日が123時間になるって事だろ?
「よし、採用だ。これから1日1回、100時間の訓練を行う。俺とシファ、それに合間を見てレベッカ、レクシア、ネレウス当たりにも参加してもらおう。」
「ちょっと待って!?私も!?」
俺の決断に異を唱えるシファ。
「俺だけ向こうに100時間も放って置くつもりか?寂しいだろうが。」
「そんな甘えたみたいなキャラ急に作らないで!?…と言うかそもそも100時間訓練って無理でしょ?睡眠や食事はどうするのよ?」
これに答えるのは頞儞羅だ。
「私の異空間は現世の1時間を無理矢理引き伸ばして100時間にするというようなイメージです。空腹なんかの身体の変化は1時間分しか変化しませんので、寝たり食事をする必要はありません。」
「何それ便利ね!?っていうかほんとに100時間ぶっ続けで訓練させられちゃうじゃないの!?デメリットはないの!?」
「そうですね…身体変化が1/100になるので、例えば筋力強化目的では使いにくいですね。100時間ぶっ続けで筋トレしても結局1時間分のトレーニング効果しか得られません。主に身体変化ではなく技術習得用と思っていただければ。」
「う~ん。デメリットはデメリットでもあまり魅力のないデメリットね…。」
いや、デメリットの魅力って何?
そんなに行きたくないか?
「まぁシファも付き合えよ。どのみち回復役は必要なんだし。十二神将は俺に順に稽古をつけてくれ。最初は因陀羅と宮毘羅に頼もう。」
「「御意。」」
「…回復役が必要になる訓練って絶対ヤバい奴だわ…。」
シファが何かブツブツ言っているがとりあえず放って置こう。
『我もその訓練付き合わせてもらうぞ。』
不意に腰から声がする。
「シュラ?」
『うむ。我も自身を高めねば十二神将に相棒ポジションを取られてしまう。』
相棒ポジション?
それってシファじゃない?
『我の方が付き合いは長いじゃろうが!?』
「心を読むな。」
というか疑問が表情に出ていたのだろう。
『ともかく、我も修練を積んで出番を確保するのじゃ。』
「分かったよ。」
まぁ本人がやりたいと言っているのだから止める理由もない。
向上心があるのは歓迎だ。
これでしばらくの間は戦力強化に専念だな。
「我らには何か任務がありますか?」
さっそく訓練を始めようと領主邸へ戻らんとしていた所に声をかけられる。
棍使いの摩虎羅だ。
そう言えば大半の十二神将には何も命を出していない。
というかまだ何もすることがない。
「んー。この都市の状況が落ち着くまでは何も決まらないんだよな。とりあえず待機になるんだが、お前らはどうしたい?一旦送還してもいいが…。」
摩虎羅たちはお互いの顔を見合わせる。
「…であればこの都市の警護もかねて貴殿のお傍に置いていただければと思います。」
「構わんぞ。領主邸にはまだ空き部屋があったはずだしな。これからはそこを使えばいい。」
「ティアに承諾貰わなくていいの?きっと驚くよ?」
シファが一応、と言う感じで忠告してくる。
本当に一応と言う感じだ。
これは俺がそんな忠告聞き入れないだろうと思っているな?
まぁ聞き入れないんだけど。
「ティアはもう行ってしまったし事後承諾だな。シルバに空き部屋を用意させればいいだろう。」
そうして俺たちは帰路についた。
市民への説明に追われていたティアが領主邸に戻り、擬態を解いていた因陀羅と鉢合わせて悲鳴を上げたのはこの数時間後の事だった。
家に帰って扉を開けたら魔物(に見える鬼神)が居たらと思うと恐怖ですよね。
まあインダラさんは十二神将の中でも一番の武闘派で威圧感のあるフォルムなので運も悪かったのでしょう。
因みにジークさんはこの後「先に言っておくように」注意を受けたとか…。
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