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175/218

175.第二王女、魔族軍の大規模侵攻を目の当たりにする。

「これはかなり便利ですわね。」


私はアルカディア魔道具研究所から届いた遠見の魔道具を覗き込んで言った。

この魔道具には遠視スキルの仕組みが組み込まれており、短い筒を覗き込むことで遠方がはっきりと見えるようになる。

私がこの地に赴任してすぐに国防軍の見張り体勢強化のために発注をかけておいたものだ。


今いる防壁の上から森の様子が詳細に窺える。

木陰からこちらを覗き込んでいる魔族が居れば容易に発見できるレベルだ。


「しかし、これをずっと覗き込んでいるとそれ以外の場所が見えなくて穴が出来そうですな。普段はやはり目視での巡視をしながら、気になる所があったらその確認用に使うのがよろしいかと。」


隣で私と同じように遠見の魔道具を覗き込んでいたネレウスが進言する。

その言葉に私は頷く。


「ええ、残念ながら視認範囲は広くありませんし、その運用で良いかと思います。届いた分は国防軍に全て渡すので有効に活用ください。」


「はっ。ありがとうございます。」


言いながら私はもう一度遠見の魔道具を使ってこのモールドから離れた平原を確認する。


そこではジーク殿が呼び出した鬼神たちと手合わせをしていた。

流石に声が聞こえる訳ではないので推測にはなるが、おそらく上下関係をはっきりさせるための立ち合いなのだろう。

鬼神も一人づつジーク殿と戦っているようだし、完全な敵対関係という訳ではなさそうだ。


シファお姉さまも岩陰で本を読んでリラックスしているようだし、順調という事だろう。


「いやはや、凄まじいものですな。」


声に反応してネレウスの方を視ると、ネレウスも遠見の魔道具を使用して平原を見ていた。

その頬に冷や汗が一筋流れる。


「ジーク殿が我らに対し微塵も本気で無かったという事は理解しているつもりでしたが、これ程とは…。はっきり言って、雲の上過ぎて良く分からないレベルです。」


それは私が感じたものと同じものだった。


最初の鬼神と相対したのを見た時には少し焦った。

あのジーク殿が攻撃をまともに受けたのを見たのは初めてだったからだ。

十二神将も神族とは聞いていたが、人族であるジーク殿には敵わない相手なのかと思った。

まぁ、直後に攻守は入れ替わってジーク殿が鬼神を蹂躙し始めたのにはあっけにとられたが…。


その後の戦いは早すぎて良く分からないというのが正直なところだ。

おそらくジーク殿も本気を出しているのだろう、見る限り竜化もしているようだし、もう私ではその攻防を視認できないのだ。


「ネレウスはジーク殿の攻防を視認できていますか?」


ネレウスは首を横に振る。


「…最初以外は【竜人化(ドラゴンフォーゼ)】を解いていた太刀使いとの一戦くらいしか視認出来ていません。その太刀使いとの一戦もジーク様の腕が切り飛ばされたと思ったら次の瞬間には何事もなかったかのように腕を振るっているし何が起きているのかさっぱりです。」


武人であるネレウスですらそうらしい。

ジーク殿のいる世界は根本的に我らとは違うようだ。


そんなことを考えていると、周囲がにわかに慌ただしくなる。


「何事ですか?」


部下からの報告を受けていたネレウスが遠見の魔道具を森に向ける。

そして魔道具から視線を外さないまま言葉だけで返事をよこす。


「敵襲です。それもこれまでにない規模の。ティア王女殿下は都市から退避する準備を。」


反射的に森を見る。

遠見の魔道具を使わずとも、相当数の魔族がこちらへ向かっているのが分かった。

何と言うか、森の一部が黒いのだ。


「なんて数…。」


「ざっと見た感じ3000位でしょうか。…残念ながら現在の国防軍の全兵力を投入しても時間稼ぎにしかならんでしょう。」


「そんな、どうすれば…。」


「国防軍の兵士を全てモールド防衛にあてます。国防軍事務兵と衛兵に常民の避難と都市脱出の命令を出しました。…申し訳ありませんが私も戦場に出ますのでここで失礼します。」


そう言ってネレウスは防壁内の階段を下って行った。

その顔に迷いは感じられなかった。


私も覚悟を決める。

ここに残り最後まで戦うと。

住民の避難もままならないだろう。

そんな中で自己保身に走るような貴族にはなりたくなかった。


「心配要らんぞ。」


不意に背後から声が聞こえる。

振り返るとそこにはフリフリドレスの幼女がいた。


「ラマさん…。心配要らないとは?」


無言で指をさすラマさん。

その指は真っすぐジーク殿のいる平原を指していた。

反射的にその方向を見て絶句する。


先程まで緑生い茂る平原であったのに、今や地面が見えないほどの人で埋め尽くされていた。


「あれが十二神将が率いる鬼神と言う奴じゃろう。数からいって一人分が率いている大隊かのう。」


事前情報では十二神将の一人一人が約7000の鬼神を従えているとの事だった。

ということは…。


「あの数が全て鬼神。つまりは神族と言う事ですか?」


「そうじゃの。妾が見る限りでは3000程度の魔族軍なら100も居れば都市に被害を出さずに相手を殲滅できるくらいの力はありそうじゃの。」


「それが、今7000もいる…。」


「完全にオーバーキルじゃの。ほれ、動き出したぞ。」


直後にこの都市にまで響き渡る雄たけびと共に鬼神軍が動き出す。


人波とでも言えばいいのだろうか。

鬼神の大群が魔族軍を飲み込む。

一瞬だけ二つの軍が交錯する瞬間が見えたが、鬼神がまるでゴミでも振り払うように数人の魔族を消し飛ばしていた。





…戦力差は圧倒的だった。

数分後には先ほどまでの喧騒が嘘のように静かな森がそこにあった。

ただ、魔族軍が居たであろう所は森が赤く染まっていたが…。

以前の話で魔族の血の色に関する言及してたかな…。

設定集には記載なかったんですよね。

昔の投稿内容を一括検索とかする方法ないかな…。

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