173.踏破者、十二神将を屈服させる。
因陀羅は両足を前後に広げて腰を落とす。
左手を前に突き出し、右腕を引いたオーソドックスな徒手空拳の半身の構えだ。
対する俺はやや半身で両手を前に構える。
完全な我流だ。
『其方も拳法家か?』
「いんや?俺は剣士だよ?」
『…なぜ剣を使わぬ?』
「使う必要がないから?」
因陀羅の額に青筋が浮き上がる。
『舐めるなっ!!』
怒号と共に一瞬で距離を詰めてくる因陀羅。
その速度は【瞬身のエリオ】なんかとは比較にならず、【縮地】に匹敵するほどだ。
続いて繰り出される正拳突き。
その圧迫感はAランクの魔物、【単眼悪魔】の一撃を凌駕している。
並の人間なら木端微塵になるレベルの拳撃だろう。
だが、俺は剛力と鉄壁を使い、雑にその拳を受け止める。
『なっ!?』
驚愕の表情を浮かべる因陀羅。
俺は受け止めた拳を払って拳撃を繰り出す。
だがその拳は因陀羅が屈伸するように屈まれて難なく躱されてしまう。
どころかそれが隙になったようで、因陀羅がそのまま放ってきた足払いが綺麗に直撃する。
鉄壁を貫通はできていないのでダメージはないが、両足を払われ宙を舞う。
因陀羅は足払いを放った後すぐに立ち上がり、片足を大きく振り上げる。
そしてそのままその足を宙に舞う俺に叩きつけてくる。
踵落としだ。
碌に防御も出来ずに地面に叩きつけられる。
地面が割れる。
地にめり込む感覚があった。
『拳法家と徒手空拳で渡り合うには練度が足りぬようだな。』
勝ち誇る因陀羅。
だが、その余裕はすぐに霧散する。
「どうやらそのようだな。」
何事もなかったかのように起き上がる俺。
『…無傷だと?』
「いや、悪かったよ。だが良く分かった。お前は俺の配下に置くに相応しい。」
因陀羅は無意識にだろう。
一歩後ずさる。
「神族でありながら、その能力に奢ることなく技術を磨いているのが分かる攻防だった。気に入ったよ。」
因陀羅の表情には恐れの色が浮かんでいる。
俺は今どんな顔をしているのだろうか。
随分と久しぶりに感じる感覚だ。
【百眼のスカーレット】以来だろうか。
スカーレットは鉄壁無しでスリルを味わえたが、この因陀羅は鉄壁が無ければもう死んでいただろう。
あぁ、たのしいなぁ。
「だが後11人も居るからな。配下に加えればいつでも手合わせできるし。うん。本気でやるぞ。」
『な、何を言…』
「【竜人化】」
身体が変異していくのを感じる。
同時に全能感に支配される。
俺は縮地で因陀羅の背後を取る。
因陀羅はその速度に反応できなかったのか俺を見失ったようだ。
俺はその場でしゃがみ込むと足払いを仕掛ける。
俺の位置を把握できていない因陀羅にこれを躱す術はない。
俺の足払いを受けた因陀羅の足がへしゃげる。
『がぁっ!?』
反発が無かったからか、自重の重さからか俺のように宙を舞うことなく地面に伏せる因陀羅。
ここで漸く俺の位置を認識したかこちらを振り向く。
俺はその場で片足を大きく振り上げる。
そしてそのまま因陀羅目掛けて振り下ろした。
その一撃は因陀羅の左肩に当たるとその部位を爆散させ、そのまま地面を貫く。
先程の因陀羅の踵落としで発生したものとは比較にならないほどの地割れが起こる。
因陀羅は悲鳴も上げず、ただただ俺を驚愕の瞳で見ていた。
俺が見下ろす目と視線が合う。
『…参った。』
漸く絞り出すように出てきたのは降参を意味する言葉だった。
俺は頷く。
「因陀羅だったな。お前は俺の配下に加われ。拒否は許さない。後、俺に稽古を付けろ、徒手空拳のな。」
『く…くはは。阿修羅王の言う通りであったな。その強さ。まださらに其方は上を目指すか。』
「まだまだ足りんさ。事実、徒手空拳の技術では俺はお前に敵わなかった。」
『よかろう。我は其方を主と認めるぞ。』
俺はもう一度頷くと岩陰からこちらの様子を窺っているシファへと視線を向ける。
「シファ、こいつ直してやってくれ。俺は次の十二神将の相手だ。」
シファが嫌そうな顔をしながら頷くのを確認して視線を因陀羅以外の十二神将へと向ける。
「今の一戦を見て俺の配下に加わると言う奴は…居なさそうだな。」
皆好戦的な顔をしている。
なんだ、十二神将ってのは皆戦闘狂か。
気も合いそうだな。
「一人づつでも纏めてでも良いぞ。全員叩きのめして屈服させてやる。」
『生意気を言う餓鬼だ。次はこの摩虎羅が相手をする。』
そう言って棍を構える摩虎羅。
見渡せば十二神将はそれぞれ異なる武具を持っている。
中には錫杖の様なものを持つものもいる。
皆一つの技術を極めた者たちだろうか。
中には太刀を携えている者も居る。
あの将を配下に加えることが出来れば、刀術を覚えることが出来るのかもしれない。
「…これは楽しみだ。」
言いながら木刀を構える。
武気持ちが相手ならこちらも引きを使うべきだろうという判断だ。
急く気を落ち着かせる。
目の前の棍使いとて気を抜ける相手ではないだろう。
そして十二神将との第二ラウンドが始まった。
◇◇◇◇◇
結局十二神将全員を配下に加えるのに3時間もかかってしまった。
「暇だわ…。」
アドレナリンが出まくっている俺と対照的に、戦闘をただ眺めるだけだったティアが最後に放った一言が印象的だった。
次からは彼女の暇つぶしも考えてやらないとな。
本来の十二神将はそれぞれ武器を有しているのですが、本作ではその本来の武具とは違うものを得意としている設定にしています。
魔法が得意な方も用意したかったのと、12人別々の武器の方がこの後の展開が楽ですので。
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