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171/218

171.氷の魔将軍、降格する。

気が付くとそこは薄暗い部屋だった。

身体を起こそうとして強烈な違和感を感じる。


支えにしようとした左腕の感触がない。


思わず右手で左手を触って確認する。

やはり左腕がない…。

どうやらひじ上のあたりから先が切断されているようだ。


それに視界もおかしい。

顔の右半分が包帯で覆われているせいで右目が開かない。


俺はベッドに横たわったまま周囲を確認する。

ここはどこかの個室のようだ。

部屋にあるのは今俺が寝ているベッドと出入り口の扉が一つ。

あとは天井からぶら下がっている電球が一つ。


次に俺は思考を巡らす。

今の状況を整理する必要があった。


そして一人の少女を思い出す。


「…あの小娘…!!」


そうだ。

俺は南のキテン要塞へ派兵され、その移動中に復讐者に襲撃されたのだ。

その少女の捨て身の攻撃で深い傷を負って…、転移水晶を使って離脱したんだ。


「気が付いたようだな。」


部屋のドアが開く音と共に男の声がする。

反射的に声を掛けられた方を向く。

そこには見知った顔の魔族が居た。


「ゴルドか…。」


「ゴルド将軍と呼べ。」


「??」


俺はゴルドの言っている意味が解らず、言葉に詰まる。


「いいか?お前は此度の失敗の責により将軍位を降格となった。代わりに四将軍入りしたのが俺だ。」


そういうことか。

ゴルドは稀有な魔法の使い手で軍内でも高い地位に居る魔族だ。

確かに四将軍に欠員が出れば次期将軍として候補に挙がってもおかしくはない。

だが…。


「お前では力不足だよ。だいたい、権力に執着し、国の行く末を案じることが出来ぬ者に付いていくものなどいない。」


そう、ゴルドは自身の権力を高めることに執心する男なのだ。


「口の利き方に気を付けろよ?もう一度言うが今の俺は将軍だ。将軍落ちしたお前の処遇などどうとでもなるのだからな。それに、俺が成果を出せばそんな異論どこからも出なくなる。」


「成果?」


「くくっ。貴様が失敗した人族への侵攻さ。俺は貴様に代わってその任に就く。近々、俺の配下も含め3000人の大隊で人族領へ攻め入る算段だ。」


3000とはずいぶん余裕を見たな。

俺が受けている事前報告では、人族領の守備隊の人員は3000人に満たなかったはずだ。

と言うか…。


「そんな数の暴力で人族領を落としたとて成果と呼べるのか?兵力の無駄遣いだろう。」


兵を動かすのにも金や食料が要る。

そんな大隊を動かすコストを考えると人族領の外縁を攻め落とすのは割に合わない。


「貴様のように少数で動いて配下を全滅させるよりマシだろう?」


ん?


「配下が全滅?」


俺が疑問を口にする。

ゴルドは呆れたと言わんばかりの表情だ。


「記憶がないのか?お前は側近50名を失って逃げて来たんだろうが。」


そんな馬鹿な。


俺の記憶が確かなら、最後に俺を貫いたのは【風の矢(ウィンド・アロー)】。

あの小娘が放ったのは確実だ。

そして少女と反対側からの攻撃も弓矢と【風の矢(ウィンド・アロー)】。

小娘は弓矢も使用していたし、十中八九あの襲撃は小娘一人によるもの。

森の片方側に注意を引き付けて、兵を向かわせた後で本命の俺に攻撃を仕掛けるためのいわば一人陽動のような仕掛けだったはずだ。


「一つ聞きたい。俺達を襲った襲撃者の死体は回収したのか?」


俺の問いにいよいよゴルドが意味が分からないと言ったような顔をする。


「まさか相打ちになったとでも主張するつもりか?お前は負けて逃げ帰ったんだろうが!!」


これで確定だ。

あの小娘には確実に致命傷を与えたはずだ。

俺が転移した際にはもう意識を失いかけのはずだし、そこから移動することなどできようはずもない。


あの場には小娘以外の敵がいた(・・・・・・・・・)という事だ。


もしかしたら小娘も生きながらえている可能性もあるか?

なにせ50を数える俺の側近を壊滅させられるほどの手練れだ。

キテン要塞より北の土地に大人数が入り込んだとは考えにくい。

多くても3人位の少数だろう。


「まぁまだ意識が戻ったばかりだから今回の失礼な態度は大目に見てやる。俺が人族領を占拠して帰ってくるまでに身の振り方を考えておけよ?その態度を改めて忠誠を誓うなら側近として扱ってやる。この【歪みのゴルド】様のな。」


考え込む俺を記憶の混乱からくる無言と見たのか、ゴルドは用件だけ言って部屋を出て行った。

さっきも言ったがゴルドには将軍位を全うするだけの力はまだない。

誰にどう取り入って将軍位に着いたかは知らんが、今度は優秀な側近を集めてその地位を盤石なものにしようとしているようだな。

落ち目の俺を勧誘しに来たのが本懐か。


もう一度自身の体の状態を確認する。

左腕は切り飛ばされた。

右目も深く切り裂かれたので回復はしないだろう。

風の矢(ウィンド・アロー)】で貫かれた体の穴は塞がっている。


「まずは視界の確保からだな。」


俺は独り言ちる。

次の目的はとうに決まっている。

勿論【歪みのゴルド】なる男の配下に着くことではない。

まずはあの小娘を殺す。

そして、俺の配下を全滅させた襲撃者の仲間も割り出して皆殺しにする。


俺はベッドから起き上がる。

そして部屋を出た。



ゴルド率いる3000人の大隊が全滅したという報を受けたのはこれより数日後の事だった。


ベリルさん回でした。

敵さんの動きも分かると良いですよね。

魔族軍の中の動きも理解しながら【歪みのゴルド】さん全滅回へどうぞ。

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