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165/218

165.半妖の少女、力尽きる。

振り上げた短剣と宙を舞うベリルの左手。


「がっ!?」


不意打ちの魔法に対応しようとしてボクへの意識が薄れた所を突いた攻撃。

この攻撃はベリルの動きを一瞬止める。

そしてその一瞬が全てだった。


森中に仕掛けておいた風珠から放たれた【風の矢(ウィンド・アロー)】。

それが次々とベリルの体に突き刺さる。


「…っ!?」


身体に穴を開けられながらも倒れることなく踏みとどまるベリル。

咄嗟に避けようとしたのか、急所は何とか避けたようで即死はさせられなかった。

口から大量の血を吐きながらボクを睨みつけてくる。


ボクは最後の力を振り絞る。


「!?」


ベリルの片腕を切り飛ばした短剣。

それは振り上げられたまま、まだボクの右手の中に納まっている。


「………っぁ!!!!!!!!!」


腹を氷剣で貫かれているせいかもう声も出ない。

それでも声にならない叫びと共にボクは短剣を、憎き敵に向けて振り下ろした。


ベリルは咄嗟に氷剣を解除しボクを振り払おうとする。

だが、振り払われるよりボクが短剣を振り下ろす方がわずかに速かった。

ボクの短剣の切っ先がベリルの前頭部を捉え、そのまま右目、右頬と真っすぐ鉛直方向に切り裂く。


それとほぼ同時に振り払われて地を転がる。

もう体の感覚もなくなり、痛みも感じない。

目だけをベリルに向ける。



驚くことに奴はまだ立っていた。

頭部への最後の一撃は多分ボクの体に力が入りきらなかったのだろう、深くまでは切り裂けていないようだった。


「…小娘がっ…。」


今やベリルの方がボクに仇を見るような憎悪の視線を向けている。


今にも向かってきて止めを刺してきそうな雰囲気だったが、ベリルは一歩も動くことなくその場に膝をつく。

どう見ても致命傷だ。

止めをさせなかったのは残念だが、仇は取れた。


そう思い、意識を手放そうとした。


「まだ…俺は!!終わらん!!」


ベリルは首から下げていた首飾りの先端にあるものを引きちぎる。

それは真っ黒な水晶だった。


水晶には魔法を蓄える性質があり、その魔法は水晶が破壊されることで外に放たれる。

つまり、魔法をストックすることが出来るのだ。

そして、この場合使用者は誰でも構わない。


ベリルはそのまま水晶を握りつぶす。

同時に彼の周囲の空間が歪み、そして彼自身を消し去った。


うそ…。


あれは転移魔法だ。

人族では王宮魔術師が集団で発動する必要がある魔法。

そんな魔法がストックされているなんて…。


と言う事はあれは緊急脱出用の転移水晶と言う事になる。

ベリルは拠点に戻った?

高位の回復術師が居たら一命をとりとめるだろうか。


仇は取れなかった?


…悔しい。


あと一歩、足りなかった。


届かなかった…。


寒い…。


…お母さん。



薄れゆく意識の中、最後に浮かんだのは野外授業に出るボクを笑顔で送り出してくれた母の顔だった。







◇◇◇◇◇






目が覚めると、まず見慣れた天井が視界の先に広がっていた。

身体を起こそうとしても何故か力が入らない。


あれ?


頭だけ回して周囲を確認する。

いつもの私の部屋。

その中にいつもはない光景がある。


「レクシアお姉ちゃん?」


ボクのベッド脇で椅子に座り、今は首を垂れているレクシアお姉ちゃんが居た。


ボクの頭はレクシアお姉ちゃんを見た瞬間、彼女を拒絶して魔族領へ飛び込んだ時の光景が頭に浮かび、急激に覚醒していった。


反射的に自分の体を確認する。

動く頭を浮かせてお腹を見る。

いや、掛け布団のせいで見えない。


手が動かせることを確認してお腹を触る。

そこには何も異常はなかった。


何がどうなっているのか分からない。


「…っ!!気が付いたかレベッカ!!」


見るとレクシアお姉ちゃんがベッド脇に立ち上がり、こちらを凝視していた。

どうやら目が覚めたようだ。


「レクシアお姉ちゃん。」


「あ、まだ起きようとしてはダメだぞ!!死にかけだったんだから!!」


一体何があったのか聞こうとしたが、その前に身体をベッドに押し付けられた。

いや、さっき体を起こそうとして力が入らなかったんだけど。

もともと起き上がれないんだけど?

レクシアお姉ちゃんボクの肩を押し付ける力強いよ?

痛い痛い。


僕からの抵抗がないのを確認したからかレクシアお姉ちゃんは手を放してゆっくりと椅子に座る。


「ふぅ。事の顛末とレベッカの事情は聞いたよ。…まずは無事でよかった。」


レクシアお姉ちゃんは安堵の表情を浮かべている。


「ボクはなんでここに居るの?」


「師匠が背負って戻ってきてくれたんだよ。魔族と戦って死にかけていた所に、シファ殿の回復魔法がギリギリ間に合ったらしい。」


「シファお姉ちゃんの回復魔法が…。」


「ああ、シファ殿の回復魔法は欠損した四肢ですら再生させるような桁外れのものだからな。死んでさえいなければ回復させられる。…本人は死んでいても直後なら蘇生させられると言っていたが、流石に冗談だろう。うん。」


「そうだったんだ…。」


「それでも流した血は戻らないらしいから、しばらくは安静にしてないとだめだぞ?ちょっと私は師匠たちにレベッカが目を覚ましたことを伝えてくる。」


そう言ってレクシアお姉ちゃんは部屋を出て行った。


一人になった部屋で、(ベリル)との戦いを思い出す。


あと一歩届かなかった刃。

あいつは生きながらえているだろうか。

でも私も死ななかった。


もっと強くなって、今度こそ仇を討つ。


嫌に静かな部屋で一人、ボクは決意を新たにした。

レベッカちゃんの過去についてはまたどこかで書くかもしれません。

今回は先延ばしになりましたが、決着も近いうちに考えています。

もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!

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