162.踏破者、半妖の少女を捜索する。(半妖の少女、待ち伏せする。)
目的は完全に達した。
魔族軍の兵士は要塞内の混乱の収束と防壁に空いた大穴の警護に人数を割かねばならない状況だ。
それに加えて攻撃が人族領側から行われたという事がはっきりと分かっているから、魔族領側に人員を割くようなことはしないだろう。
「…よし、じゃあ俺たちもこのまま要塞を迂回して魔族領側に回り込むぞ。」
「了解。」
シファと頷き合い、移動を開始する。
「シファ、ここからは出来るだけ外をうろついている魔族は無視する。この騒ぎだ、ここらに居るやつは要塞へ戻るだろうからな。」
「わかったわ。進行の邪魔になる奴だけね。」
「ああ。それでここからはレベッカの捜索だ。」
一応出発前にレベッカが通っていると思われるルートを踏襲しているが、俺たちが魔族領に入ってからも時間は経っているし、その間レベッカがどう動いているかは分からない。
「私の【探索】なら必ず見つけられるわよ。安心して。」
「ああ、頼りにしている。万が一すぐに見つからなければ街道沿いに北を目指そう。狙いが要塞へ来る魔族を道中で強襲する事なら街道での待ち伏せを選択する可能性が一番高い。」
「了解。」
話しながらも俺たちは森の中を駆ける。
人族領側にはちらほらいた魔族も、魔族領側に近づくにつれその数は少なくなってくる。
「ちょっと待って。」
途中でシファから静止がかかる。
俺は動きを止めて周囲を警戒する。
「敵とか罠じゃないわ。この茂みよ。」
言いながらシファが茂みを指さす。
その茂みからはわずかに魔族のものと思われる足先が見えていた。
レベッカが始末した魔族で間違いなさそうだ。
「隠し方が雑になってるな。30点だ。」
「そこ?彼女も急いでるから仕方ないんじゃない?じゃなくて、予想ルートは合ってるって事よ。」
「そっちか。まぁそうだな。…先へ進もう。」
そしてまた魔族領へと走り出した。
◇◇◇◇◇
「凄い爆発だね。」
私は背の高い木に登り、遠視を使って要塞を観察する。
要塞からは黒煙が数ヵ所立ち上っていて、防壁上に居る兵士たちはせわしなく動いている。
「主の援護だろうな。」
「ジークさんの?」
「ああ、主は身内に甘い所があるようだからな。我にもお主が死なないようにというオーダーを出しているのが良い証拠だろう。」
「私の目的が達成しやすくなるように、それ以外の注意を引いてくれてるって事?…もしまた会えたらお礼言わなくっちゃね。」
「会えるのは確定だな。我がその命は守ることになっておるのだから。」
私は登っていた木を下りる。
そこには魔族の兵士の亡骸が転がっていた。
要塞での爆発が起こる直前に殺した魔族だ。
不意打ちで上手く無力化できたので、拷問して情報を得た後で楽にしてあげた所だった。
「この数日…か。」
この魔族からはベリルという魔族について色々聞くことが出来た。
ベリルは魔族軍の四将軍のうちの一人らしい。
通称【氷華のベリル】。
魔族軍内でも武闘派の将軍として名を馳せている猛者と言う事だった。
それが、人族領への侵攻が進んでいないこの地域へと派兵されてくるという話があり、数日中にも着任する予定となっているとのこと。
つまり、数日中にはこの街道を通ってくるという事だ。
私は木々が鬱蒼と茂った森の中に敷かれた道に目を向ける。
本当ならもう少し見晴らしの良い所で待ち伏せした方が対象の早期発見に繋がるのだが、襲撃するとなると私は一人だ。
複数人を相手にすることも考えれば身を隠して戦える場所の方が良い。
そう思って決めた襲撃地点だ。
食料は携帯食がいくつかあるので、数日なら問題なく持つ。
水分は近くに小川が流れていたのでこれも問題ない。
あとは、目的の魔族がここを通るのを待つだけだ。
私は街道沿いの茂みにしゃがみ込み、街道の先を睨みつけた。
◇◇◇◇◇
「見つけたわ。」
要塞から伸びる街道を少し北上したところ。
遂にシファがレベッカを見つけた。
「合流する?」
シファの言葉に俺は首を振る。
「あくまでこれは彼女の戦いで、望みだ。万が一の時には助けにも入るが、基本は静観したい。」
「なら、彼女の視界には入らないようにしないとね。」
レベッカは遠視スキルで視界を得ている。
その視界に入ればどれだけ遠くでもはっきりと見られてしまうだろう。
俺は頷く。
「レベッカの視界に入らないように大きめに迂回して、魔族領側も【探索】で確認出来る位置へ行こう。」
そう言って移動を開始する。
レベッカは遠視スキルもそうだが、盲目だった幼少期に発達した耳も常人のそれをはるかに凌駕するレベルで発達している。
下手に大きな音を立てればたちまち補足されてしまうだろう。
…シファは【天翔】で飛行移動しているので大分楽そうだが。
今位俺にもその魔法行使してくれないかな…。
「あ、マズいかも。」
移動中にシファがそんな声を発する。
「バレたか?」
俺は頭を低くしてレベッカが居るだろう方向を確認する。
だがシファは首を横に振る。
「この北、魔族領側からまとまった数の兵士が、馬に乗ってやってくるわ。」
「…数は?」
「おおよそ50。」
50か。
もしその中にレベッカの目的の魔族が居たら、彼女は1対50でも仕掛けるだろう。
いま彼女が陣取っている地形からそう言ったことも想定していることがうかがえる。
「…一足で駆けつけれる位置まで行こう。」
俺はそう言って方針を変更し、レベッカのいる方向へと歩き出した。
いよいよレベッカちゃんの仇討ちも大詰めです。
次回よりレベッカちゃん視点回となりますのでよろしくお願いします。
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