161.踏破者、要塞へ攻撃を仕掛ける。
道中、見かける魔族を極力排除しながら進む。
最初に遭遇した軍隊以外は単独行動のものばかりだった。
「魔族領に入っているとはいえ、そこそこ魔族がうろうろしているもんなんだな。」
今もまた一人、すれ違いざまに首を刎ねた。
俺は足を止めることもなく要塞へと向け疾駆する。
『とはいえ其方だけでは気付けなかったような距離に居るものばかりではないか?』
「そうね。【探索】に引っ掛かった魔族を全て処理してきてるから多く感じてるだけじゃないかしら。」
俺の手にあるシュラと、俺を【天翔】の高速飛行で追従するシファが俺の独り言に応える。
「そうなのか?…っと、見えたな。」
俺達は足を止める。
ここまで走ってきて漸く目的地にたどり着いたようだ。
木々の向こうには要塞の防壁が見えている。
「パズズには出発前にレベッカを要塞の中には入れるなと念のため指示してある。だからこの防壁の外に漏れない程度の攻撃をこれから仕掛ける。」
「なんか失敗しそうな気がするんだけど…どう攻撃するの?」
「いや、シファがやるんだぞ?」
シファがあからさまに驚いたという表情をしている。
目が丸くなっても可愛いな。
「…驚いたわ。こういうのはジークがやりたがるものだとばかり…。」
やりたがるってなんだよ。
子供か俺は?
そんな手に入れた魔法や技を見せびらかすような趣味はしていないぞ?
「今回はレベッカが近くに居るからな。もし俺が攻撃を仕掛けて暴発でもしようもんなら危ないだろ?」
「何でその気遣いを私には向けられないのよ。」『なんでその気遣いを我に向けられんのだ。』
総スカンをくらった。
いやだってお前ら大丈夫側じゃん?
それに対してレベッカだぞ?
まだ未成年の少女だぞ?
俺は保護者だぞ?
保護者が間違って保護対象を手にかけるとかもう人族領内で生活できなくなるぞ?
「はぁ、まぁいいわ。レベッカに甘いのは今に始まったことじゃないし。で?適当にやっちゃっていいのね?じゃあ…」
「ちょっと待て。」
何だその投げやりな感じ。
全然気にしているのが見え見えだ。
まさかここでこんなに士気が下がるとは思っていなかった。
要塞への攻撃にも人族領からの攻撃と分かるようにする必要がある。
【焦熱地獄火炎】や【雷雨】ではどこから攻撃してるかが分からないから目的は達成しないのだ。
「そんなに拗ねないでくれ。シファは何かあっても俺が守るって気持ちがあるんだ。だからそういう風に感じてしまってるんだろう。俺が一番失いたくないのはシファだ。」
とりあえずは機嫌を取らねばならない。
決してシファを軽視していないんだと言葉を紡いでみる。
見ればシファの顔は紅潮している。
「そこまで言うならいいわよ。…少し安心したわ。」
「ああ、だから俺から離れないでくれよ?」
シファが首を縦に振る。
どうやら成功したようだ。
『…我は?』
腰のあたりから聞こえて来た雑音は無視だ。
俺は早速攻撃の概要をシファに伝える。
ポイントは3つ。
1つ目は人族領側から攻撃がされていることが分かるようにすることだ。
これをすることで要塞に居る魔族の注意を人族領側に引き付け、魔族領側に居るレベッカが動きやすくなるようにする。
2つ目はある程度の被害が出るようにすること。
3つ目は人族領側の防壁の一部を破壊すること。
この2つは要塞内の魔族を手一杯にするのが目的だ。
けが人の救助と救護、穴の開いた防壁の防御と手を回せば哨戒なんかの行動も取りにくいだろう。
シファはその意図を理解し頷く。
「よし、やってくれ。手段は任せる。」
「分かったわ。それじゃあ。」
シファが両手を広げ魔力を練りこんでいく。
シファの前方の空間に直径10m程の魔法陣が地面に平行に、宙に浮く形で現れる。
俺が召喚術を行使する時と同じように魔法により魔法陣を形成する方法だ。
赤い線に見えるが、おそらくこれは収束した炎だろう。
「私が守られるだけの女じゃないって所を見せてあげるわ。【黒炎龍乱舞】」
シファが不敵に笑い、魔法を行使する。
魔法陣を形成する炎が黒く染まったかと思えば、次の瞬間には魔法陣から飛び出すように黒炎が噴き出した。
その黒煙は途中で7本に枝分かれし、それぞれの先端に龍の頭が形成される。
出現した炎龍は空中をしばし飛び回ったかと思うと次々に要塞へと飛び込んでいく。
防壁を軽々と飛び越え、要塞内に着弾する炎龍が5、途中で高度を落として防壁に直撃したのが2。
要塞内に着弾した炎龍は防壁越しにでもはっきりと分かる爆炎をまき散らす。
同時に多くの悲鳴が聞こえてくる。
防壁に直撃した炎龍は防壁上に居た哨戒兵ごと防壁を消し飛ばす。爆炎が治まると防壁には20m幅位の大穴が空いている。
その穴越しに要塞内を窺えるが、防壁近くの建物は崩壊しているようだ。
要塞内では黒煙が立ち上り、サイレンが響き渡る。
今なお悲鳴が響き、まさしく阿鼻叫喚の地獄と化している要塞を遠目に俺は思っていた。
護られてるだけの女じゃないって…。
じゃあなんでさっき機嫌悪くしてるんだよ。
俺の目に前には得意げな顔で胸を張るシファの姿があった。
ジークさんが汎用性低い分無茶難題はシファさんにやらせるスタイルです。
いやぁ魔法って便利。
もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!