153.踏破者、鬼神をけしかける。
『何すんじゃー!!??』
俺に放り投げられたシュラは空中で刀剣化を解くと、本来の三顔六腕の姿となって岸辺に着地する。
「何ってストレス解消だよ。お前ならあんな【海洋巨蛇】もどき相手にならんだろ?」
『そりゃ1匹2匹にならの!!あんな数、腕が足らんわ!!』
「まぁ真面目な話、上陸してきた触手が壁に阻まれ、一方的に焼き払われていることが本体に伝わった場合、本体が上陸してこない可能性もあるんだと思うんだよ。なんたってやられた触手の死骸を持ち帰って確認するくらいの知能があるわけだからな。」
「上陸するのが危険と判断するという事ですか?」
俺の説明に確認を入れてくるティア。
俺はその問いに頷く。
「だから本体が出てくるまでは、もう一押しだが触手では押せそうにないと思わせた方が良いと思う訳だ。」
「なるほど。納得しましたわ。」
『勝手に納得するでないわ!!』
「そしてもう一つ。最近国防軍の奴らを見て芽生えてきた想いなんだが…。シュラ、お前にはもっと強くなりたいという気持ちが足りない気がするんだ。お前、刀としての時間が長すぎてこのままでも良いとか思ってきてるんじゃないのか?」
『!?』
「この先、俺が勝てないほどの強敵が出てきたとき。俺が伏した後でお前はどうするんだ?そのままでは刀剣化を解いてそんな強敵と戦っても逃げる事すらできんだろ?強くなりたいという気持ちを持ち続けられないと、いずれ死ぬぞ?」
なんか良く分からんことを言ってしまっているが、これは後付けのいわば方便だ。
決して触手の数が多いなーとか、楽して数減らす方法ないかなーとか、喋りかけてくるまで存在を忘れかけてたシュラが使えるんじゃね?とか思ってないよ。
「だからこれはお前にとってのリハビリでもある。いざとなったら魔法で援護はするから思いっきり暴れてこい。」
俺は締めの言葉を放つ。
『お…おぉ!!確かに其方の言う通りなのじゃ!!我は戦神!!その本分を忘れておったようだ!!ではここは任せよ!!このような雑魚共、いくら集まろうが敵ではないわ!!!!』
ちょろいな。
「シュラも可哀相に。馬鹿だから仕方ないんだけど…。でもジーク、万一の時はシュラを避けて魔法攻撃ってちょっと難しいんだけど?」
やる気満々で湖に向かって何か叫んでいるシュラをしり目にシファが話しかけてくる。
「ああ、数に押されて触手が防壁を突破しそうなときは遠慮なく範囲魔法で焼き払ってくれ。」
「シュラは良いの?」
「あいつも神族なんだし死にはしないだろ。多少ランクを落とした魔法攻撃で行けるならそっちの方が良いかな。」
「了解。」
シファとの方針のすり合わせも終わり、後は戦闘が開始されるのを待つだけだ。
「…不憫ですわね。」
ティアがシュラを見ながらぽつりと呟いた。
◇◇◇◇◇
『無理!!無理じゃ!!数が多すぎるぞ!!??』
「弱音吐いてねえで剣を振るえ!!次の波が来るぞ!!」
『ひぃいいぃぃぃぃ!!鬼!!鬼じゃ!!』
岸辺にはおびただしい量の【海洋巨蛇】もどきの死骸が転がる。
シュラは襲い掛かってくる触手を切り捨てながら死骸を吹き飛ばす。
そうしなければ死骸に埋もれて戦えなくなるからだ。
シュラも数えきれない量の触手相手に善戦しており、今のところ他に被害は出ていない。
それも、触手の攻撃はがシュラに集中しているからだ。
岸辺の状況を直接確認できないはずの【色欲竜】からすれば戦っているのはわずか一人で、こいつさえ倒せばと言う風に思っているのかもしれない。
しかし、死骸が増えすぎて来たな、まだ海面には無数の触手が蠢いている。このままでは岸辺が【海洋巨蛇】もどきの死骸で埋め尽くされてしまう。
対処法は2つ。
シファの亜空間収納で片っ端から回収していくか、焼き払うかだ。
俺はシファを見やる。
「焼き払う方で。」
「いや、絶対心読んでるじゃん。」
「ジークの事ならお見通し。」
場違いにVサインでしたり顔のシファ。
くっ、可愛い。
「いちゃついてるところ申し訳ないのですけど、そろそろシュラ殿が立ち回らなくなってきてますわよ。」
ティアに言われてシュラを見ると確かに触手の死骸に埋め尽くされようとしていた。
「シファ、炎系の魔法をあそこに打ち込んでくれ。いけるか?」
「何時でもどうぞ。」
言いながらシファは魔力を練り上げる。
「よし、行くぞ。シュラ!!その一帯焼き払うから大きく飛べ!!」
『承知した!!』
シュラは力の限り真上に大きく飛びあがる。
そして同時にシファが魔法を放つ。
「【焦熱地獄火炎】」
シュラが居た位置に超高音の炎の渦が発生する。
そしてその炎は一気に成長すると竜巻のように周囲の空気を巻き込みながら大きく立ち上る。
『ぎゃあああああああああああああああああああああ!!』
上空まで立ち上った炎に包まれるシュラの絶叫が岸辺にこだまする。
炎の威力は凄まじく、外からでは中がどうなっているのかは窺い知れない。
「いや、真上に飛ぶとは思わなくて…。」
視線をずらすシファ。
うん、俺も流石にこうなるとは予想してなかった。
今回のは本当に。
やがて炎が消えると、その中には黒焦げになってぴくぴくと痙攣するシュラが居た。
見た所生きてはいるようだし、触手の方はちゃんと燃え尽きて灰になっている。
結果オーライだ。
シュラさんは明るくひどい目に合ってくれるマスコットキャラですよね。
その貢献度に免じて、今後は少し出番増やしてあげようかと思います。
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