148.踏破者、海洋巨蛇を捕獲する。
「これはすごいな。」
俺が目の前の風景に感嘆の声を漏らす。
「海、と言われても信じてしまうほどの大きさですわね。」
俺と同じくマグカル湖を眺めていたティアも似たような感覚を持ったようだ。
だが、俺は海など見たことないがな。
まぁ本物の海もハンターを続けていればそのうち見る日が来るだろう。
俺は視線をマグカル湖から陸に移す。
そこでは漁師と思われる人が数人、マグカル湖へ向けて竿をふるっていた。
所謂陸釣りというやつだ。
だが、陸から竿が届くような近くに大物の魚類はいないだろう。
せいぜいが両掌に収まるレベルのはずだ。
俺はもう一度マグカル湖へと視線を移す。
「船を出せないのは【海洋巨蛇】のせいだったな。」
「ええ、それも群れがいるそうですわ。船を出しても片っ端から沈められるくらいの。」
「なんだってそんなに数が増えちまったんだろうな?シファ。どうだ?」
そう言って俺は後ろにいるシファに声をかける。
「駄目ね。さすがに広すぎるわ。それに深さも相当よ。それでも、探知できる中でも数十匹は居たわよ。」
「そうか…【探索】でしらみつぶしにってのは無理か。」
当てが外れてしまったな。
こうなると応用力に乏しい俺ではなすすべがなくなる。
「そんな諦めたみたいな顔しないでくださる?まずは一匹捉えて生態調査を行いませんこと?」
「そうだな仙人の道も一歩からって言うしな。」
「間違っていますけど意味的には間違っていなさそうな言い回しですわね。」
俺は湖へと飛び込む。
そしてずんずんと沖へと向かって歩き出す。
「ジーク!!2匹反応したわ!!左前方から続けて来るわ!!」
陸から叫ぶシファに片手を上げることで返事する。
そしてすぐにそれはやってきた。
水面下をうねる【海洋巨蛇】だ。
直径60mmほどの丸太のような太さ、水面が反射して全長は窺い知れない。
なるほど、こんなのが大群で群がってくりゃそりゃ船なんか簡単に沈められてしまうだろう。
まず最初に近づいてきた1匹目。
調査に必要なのは1匹だからこいつは要らない。
大きく口を開け、俺の胴を真っ二つにする勢いで噛みついてくる【海洋巨蛇】。
だが、鉄壁を使用している俺の体にその牙が食い込むことはない。
俺は大きく開いた【海洋巨蛇】の上顎と下顎に手を添え、剛力を使用し力任せに上下に開く。
そしてその勢いのまま口がもっと大きく開くように力を加えると、ぶちぶちという嫌な音と共に【海洋巨蛇】の口が裂け始める。
1匹目の【海洋巨蛇】は口から上下に引き裂かれる形で絶命し、辺りには紫がかった血が拡がる。
ここで俺は自身の失策に気付く。
しまった。
血の匂いに敏感だったら1匹目がやられたのを察知して2匹目が来ない可能性もあるぞ。
2匹まとめて相手すべきだったか?
だが、その心配は杞憂に終わる。
すぐに2匹目が現れ、俺に噛みついてくる。
どうやら匂いにはそんな敏感という訳ではないようだ。
もしくは興奮状態になっていて判断力が鈍っているとか言う可能性もあるか?
俺はそんなことを考えながら、噛みついてきた2匹目の【海洋巨蛇】を振りほどくことなく陸へと向かって歩き出す。
このまま陸揚げし、【海洋巨蛇】を生け捕りにする腹積もりだ。
途中、【海洋巨蛇】が俺の体に巻き付いてきて締め付けによる攻撃も仕掛けてきたが俺には一切ダメージは通らない。
俺はそのまま陸へと上がる。
【海洋巨蛇】に噛みつかれ、更には巻き付かれた状態の俺に対して皆が距離を取る。
え?
酷くない?
一歩ティアに向かって近づく。
ティアは一歩後退する。
「何故逃げる。」
「何で近寄ってくるんですの!?」
「いや、引き剝がしてくれんと身動きとれんだろ!?」
何のために生け捕りにしたと思っているんだ!?
結局、見かねた漁師たちが俺から【海洋巨蛇】を引き剥がしてくれた。
口は縄を使って開かないように縛り付けて。
こうして全体を見ると全長10m位あるだろうか。
生かしておくには水槽に入れておかねばならんが、こんなデカいと入れれる容器がないな。
「んー。生かし続けるのは難しいかもしれませんね。」
恐る恐ると言った風に近づいてきたティアがそう言う。
「まぁダメになったらまた捕らえればいいだろう。学者先生は?」
「今呼びに行かせてますのですぐに来ると思いますわ。今のこの状態なら安心ですの?」
「いんや。口は使えないようにはしてあるが、巻き付かれたら全身粉々にされるんじゃないか?」
「ひゃう!?」
一歩後ろに飛びのくティア。
「なんでそんな怯えてるんだ?魔物なんて珍しくもないだろ?」
「え、ええ。でもAランク魔物を、しかも生きているのは初めて見ますわ。」
「まぁAランクっても水生生物のAランクだからな。」
ハンターギルドが設定しているモンスターランクは、だいたいが戦闘力に応じて上がるような設定のされ方をしている。
だが、正確には討伐難易度という区分けの為、水生生物、とりわけ海のような入水しなければ戦えないような魔物は戦闘行為自体が難しいという事もありランクが上がりがちになる。
【海洋巨蛇】なんかはその典型だろう。
単純な魔物としての強さはせいぜいBランク下位と言った感じだ。
「それと実は…。私、両生類とか爬虫類と言った生物が苦手で…。」
ああ、そう言う事か。
確かにそういった背物が苦手な女性は多いようだ。
「可愛いとこあるんだな。まぁ学者先生が来るまではこのまま放置しとけばいいだろ。」
俺は大仰に肩をすくめる。
見るとティアは顔を真っ赤にしていた。
爬虫類、両生類が苦手な人は多いかと思います。
かく言う私も苦手だったりします。
虫もダメです。
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